インタビュー 藤崎 俊久(ファゴット首席奏者)
2016-09-01
— 20年間所属して心境の変化はありますか。
自分の次の人のことを考えるようになりました。年齢的なこともあるし、病気や事故でキャリアが絶たれる可能性もあるわけですが、自分がこのオケにいた時間をどういう形で遺すことができるのかを考えて、普段の仕事をするようになってきたという気はします。演奏面では、オーケストラの全体像を考えた上で自分のパート譜を見つめるような仕事のやり方にこだわりたい。このオーケストラが将来、さらに上のレベルのオケになった時、今やっていることがどう活かされるだろうか、それを意識することでこだわるという意味では以前より頑固になったかもしれませんね。
— オーケストラの中でのファゴットの役割と魅力は何でしょう。
漫才でいうツッコミ役です。花形の楽器がいくらナイスなボケをしても、ツッコミが悪いと笑えないと思うんです。上手なツッコミができるならば、このどうしても音量に恵まれず地味な音色の楽器もその特徴が活かされると思います。花形のメロディに対して、ハーモニーの一声部として支える時もあれば、対旋律を奏でている時もある。単純に拍の頭打ちを鳴らすのでも、その発音やタイミングをどう取るかで、メロディの歌いやすさが変わります。そこには技術も要るし、センスも要る。相手がどうやりたいのかを理解する音楽性が無いとできないことなので、やりがいを感じています。漫才でもボケ役に対してツッコミ役はキャラが地味で名前や顔を覚えてもらえるのも後回しになることが多いそうですが、ファゴットもそれに似ていて、でもそれでいいんです。時々出てくるファゴットが吹くソロは、一般的にはテノールの音域なんですが、私は自分の声質に合わせ、バリトン歌手になったつもりで声楽のイメージで吹いています。ファゴット奏者は柔和で温厚な人が多いのですが、内面では音楽に対するこだわりが人一倍という職人気質の人ばかり。言うなれば頑固な平和主義者、という感じかもしれませんね。
— オーケストラで演奏していて、幸せな瞬間というのは何でしょうか。
この素晴らしいモノの中に自分が居る、と実感する時です。私自身の吹く音が、全体の中でまったく目立たず埋もれていても関係無いんです。ファゴットは音量が出ないという楽器の特性上、どんなにしっかりフォルテで鳴らしていても、他の楽器の音を同時に聞き取ることができます。あのプレイヤーがこんなに素敵なことをやっている、いろいろな場所から届くそんな瞬間を絶えず聴き取ることができるのは、ファゴットの利点かもしれません。そんな素晴らしい音楽が生まれた瞬間の共有が1番の幸せです。近頃は特に、私はソロよりも合奏が好きだからオーケストラに入ったんだということを、強く自覚させられています。だからこそ、そんな幸せな瞬間を共有させてくださる皆さんへ感謝の毎日ですね。
藤崎俊久 写真:(C)飯島 隆
聞き手/小味渕彦之(音楽学・音楽評論)
~プログラムマガジン2016度年9・10月号掲載~