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第245回 定期演奏会   12月16日(水)
曽我 大介

大阪交響楽団40年の軌跡メモリアルシリーズ
2020年12月16日(水)19時00分開演 
 
フランツ・リスト(1811-1886)
交響詩 「前奏曲」
 
 1883年、最晩年の老リストのピアノ演奏に大感激し、「我が国に連れて帰らねば」と言ったとされるのは、憲法調査で渡欧中だったかの伊藤博文だ。後に日本の初代総理大臣となるその男心をも虜にしたリストは、1811年にハンガリー王国の小村ドボルヤーン(現オーストリアのライディング)で生まれている。生来病弱で、両親はその死を覚悟して棺を作らせたという逸話も。天啓か、徐々にピアノ演奏の才覚を見せ、ヴィーンでピアノをツェルニー、作曲をサリエリに師事。10代にしてパリを中心にピアノの神童として名を馳せ、青年期には楽壇・社交界における美しく若き超スーパー・アイドルとして一躍時代の寵児に。自作のピアノ曲を交えた華々しい演奏活動をヨーロッパ各国で展開し、様々な女性との浮名を流しつつも、アラフォーを前にコンサート・ピア二ストとしての第一線を退くリスト。1848年にヴァイマールの常任の宮廷楽長となり、指揮や作曲などに専念(59年に辞職願)。1854年初演の交響詩「前奏曲」は、正にこのヴァイマール時代の所産ということになる。
 “交響詩 Sinfonische Dichtung”とは標題音楽(作品で意図した詩的理念を暗示する題が付けられた音楽)の一種で、リストこそがその命名者だ(13曲の交響詩を完成)。その第3作目となる交響詩「前奏曲」に、リストは後付けながら、「我らの人生は、死への前奏曲である」といった内容の自身の序文(フランスの詩人ラマルティーヌの詩に基づく)を掲げ、ロマン主義者ならではのメッセージ性をそこに込めた。
 曲は、物憂げな主要動機(イタリア音名でDo↘Si↗Miという音型)を含む旋律の提示に始まる。その自在な変奏により、人生の諸相を彷彿とさせるかのような起伏に富んだ音楽が進行し、凱歌的な大団円を迎える。そのラストの輝かしさは、あたかも死の傍らから見た生の煌めき、あるいは死後に開かれた天の栄光の如し。
 1865年、50代半ばにしてかねてから憧れていたカトリックの聖職者となり、黒衣に身を包んだリスト。それに先立ち作曲されたこの「前奏曲」は、人生の終焉=死を巡るリストの哲学や宗教観というヴェールの纏いを、じわりと感じさせる。
 
●作曲年代 1849/50〜1854年
●初  演
1854年2月23日、作曲者自身の指揮、ヴァイマールにて
●楽器編成 フルート3(3番はピッコロ持ち替え)、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、小太鼓、大太鼓、シンバル、ハープ、弦5部
 
 
 
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827)
ピアノ、ヴァイオリンとチェロのための三重協奏曲 ハ長調 作品56
 
 コロナ禍で“3密”回避が日常となった昨今。真逆にも、ベートーヴェンが作曲した3楽章からなる「三重協奏曲」は、ピアノ、ヴァイオリン、チェロという3つの独奏楽器による音楽対話的“3密”が不可欠にしてアピール・ポイントとなる作品だ。
 交響曲第3番「英雄」などと同時期に作曲されたベートーヴェン中期の作にあたる「三重協奏曲」。何と言ってもこの作品の最大の特徴は、いわゆる“ピアノ・トリオ”という意表を突いた独奏者たちの存在だろう。“最小のオーケストラ”と言われることもある室内楽のピアノ・トリオ。このピアノ・トリオと管弦楽を大胆にもカップリングした独創性も、さすがにベートーヴェンならでは。そんな先鋭性を見せつつも、この作品はハ長調で書かれ親しみやすい明朗さに満ちている(ハ長調という調性は、17世紀以来修辞的には勇壮、素朴といった観念や情緒と結びつきがあるとされ、ドイツの音楽論者ベッカーは“ベートーヴェンの喜びの調性”と表現している)。
 第1楽章は予感に満ちたクレッシェンドを効かせる提示部冒頭からして実に気宇壮大。第2楽章は打って変わって短い間奏曲風ながら、何とも夢見心地のような美しさだ。この楽章から切れ目なく続くのは“Rondo alla Polacca(ポーランド風のロンド)”と記された最終楽章。ポロネーズ(18世紀半ば頃からヨーロッパで広く流行)の舞曲のリズムが、曲中を軽やかに駆け抜けてゆく。
 さらにこの作品で興味深いのは、ピアノ・トリオを形成する独奏楽器の中では特段チェロが名妓的かつ主導的な役割を担っている点だ。各楽章における独奏部の先陣を切るのはすべてチェロで、この「三重協奏曲」は“ヴァイオリンとピアノのオブリガート付きのチェロ協奏曲”と形容されることも。
 ピアノ協奏曲、ヴァイオリン協奏曲は作曲しても、チェロ協奏曲を遺すことはなかったベートーヴェン(「三重協奏曲」作曲の10数年前、ドイツの名チェリストのロンベルクにチェロ協奏曲の作曲を申し出るも丁重に断られたとする説がある)。この「三重協奏曲」では、そんなチェロの独奏楽器としての表現力の可能性にスポットを当てた、ある種ベートーヴェンの実験精神を体現する作品とも言えるだろう。
 
●作曲年代 1803~1804年
●初  演
1808年2月、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス/1808年5月、ヴィーンのアウガルテンにて(公式初演)
●楽器編成
独奏ピアノ、独奏ヴァイオリン、独奏チェロ、フルート、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニ、弦5部
 
 
 
セザール・フランク(1822-1890)
交響曲 ニ短調
 
 きっとよくご存じの、熱々でホクホクした“フレンチ・フライ(フライド・ポテト)”。ニワトリが先か卵が先かではないけれど、そのフレンチ・フライ、フランス発祥かそれともベルギー生まれかでいまだ論戦中とか(果たして決着はつくのだろうか!?)。一方、パリを活動拠点に生涯の大半をフランスで過ごし、一般的にフランスの作曲家と見做されるフランクは、正真正銘ベルギーのリエージュ生まれだ(出生当時はネーデルラント王国)。そのリエージュはドイツとの国境に近く、フランクの父はドイツ系ベルギー人、母はドイツ人だった。そんなドイツ系のフランクの出自は、その生涯に大きな影響を及ぼすこととなる。
 作曲家としてのフランクを一言で言い表すとすれば、“大器晩成”という形容が実にぴったりだ。生前はむしろ、教会オルガニスト(フランクは敬虔なカトリックでもあった)やパリ音楽院のオルガン科教授を務めるなど(フランス国籍を取得して1873年に就任)、特にオルガン界でその名を馳せた存在だった。今日では名作の誉れ高い、ピアノ五重奏曲、ヴァイオリン・ソナタ、そして交響曲といったフランクの諸作品は、50代後半から晩年期にかけて作曲されたもの。その交響曲の初演に際しては、冷淡な反応や辛口の批評にさらされた。バッハをはじめとするドイツ系作曲家に敬意を捧げ、循環形式(主要素材を複数の楽章に出現させて楽曲全体に有機的統一感を与える手法)と転調を愛好し、構築的で深みある独特の作風を備えるに至ったフランク。当時のフランスではある意味異質の存在でもあったが、その誠実な人柄ゆえ彼に私淑し“フランキスト”と呼ばれた作曲の多数の門弟たち(後のフランス楽壇を担ってゆく)に恵まれ、フランクは世の冷たい風当たりにも決してめげることはなかった。そのフランクが遺した、ドイツ的かつオルガン音楽的な重厚な佇まいを見せる全3楽章の交響曲。この作品の(ベートーヴェンの「運命交響曲」などと通底する)“暗から明へ”と向かう楽曲構造に、フランクの不屈の精神を仰ぎ見ずにはいられない。
 第1楽章は、冒頭から循環形式の核となる動機(イタリア音名でRe↘Do#↗Faという音型で、その音程関係やリズムなどリストの交響詩「前奏曲」冒頭の動機を彷彿とさせる)が低弦に仄暗く現れ、この楽章の闘争的な展開への萌芽となる。第2楽章は緩徐的かつエレジー的だか、それと対照的なスケルツォ的な部分も兼ね備えるという新機軸も。第3楽章は“フランキスト”のロパルツが「歓喜の動機」と呼んだ躍動的な旋律に始まる。曲の終盤、天使の楽器の象徴でもあるハープの雅びな音が舞い昇り、先述の循環形式の核たる動機が魂の救いに与かる如く静かに回帰するさまは、この作品の神髄にして神秘的な聴きどころだ。
 
●作曲年代 1886~1888年
●初  演 1889年2月17日、ジュール・ガルサン指揮、パリ音楽院演奏協会コンサートにて
●楽器編成
フルート2、オーボエ2、イングリッシュホルン、クラリネット2、バス・クラリネット、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、コルネット2、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、ハープ、弦5部
 
 (C)村田 英也(音楽評論) (無断転載を禁じる)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                                     
 
 
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