ドヴォルザークのチェロ協奏曲は「チェロ協奏曲」と言えば、この作品を思い出す人が圧倒的に多数である、と世界中の誰もが認めない訳にいかないだろう。チェロ独奏とオーケストラの交響曲であると言っても良い規模の大きさと内容の豊かさは勿論、独奏チェロが、いわば「秘術の限りを尽くして」表現しなければならない重厚さと華やかさも比べものがない。チェロという楽器を再認識させ、再評価させた作品、と言えるだろう。現代の私たちのレパートリーには、ハイドンやボッケリーニ、シューマン、ラロなどの協奏曲があるし、ブロッホの「シェロモ」やプロコフィエフ、ショスタコーヴィチの協奏曲も重要である。その中でも、このドヴォルザークが際立って人気を集めているのは、言葉で説明するのは難しいが、その旋律の、あまりの美しさ、色彩やリズムの特別な豊かさ、そして何よりチェロという楽器の魅力を充分に発揮させたことが私たちを捉えて放さないのだと思う。
チャイコフスキーには番号付きのものだけで6曲の交響曲がある。それぞれ個性的な作品だが、華やかなファンファーレで始まる「第4番」は、4つあるどの楽章も個性的で、特にピッツィカート(弦楽器の弦を指で弾く)だけの第2楽章は前例が無い。
今回演奏する「第5番」は冒頭に現れる動機(モティーフ)が全曲を支配する。やや暗く陰鬱な印象の、この動機が、やがて華やかな大団円に向かうという、いわばチャイコフスキーの最もチャイコフスキーらしい発想が中央ヨーロッパの音楽の中核部分を学び尽くしたチャイコフスキーによって、見事に花開いた、と言えよう。私たち日本人が、実はチャイコフスキーを充分に知らないのではないかと時々思うのは、彼の作品の中で重要な部分であるバレエのための音楽を知り尽くしている、とは言えないからで、この「5番」は、いわば交響曲のワクをはみ出しそうな多種多様さと、複雑微妙な色彩に溢れているのである。