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第216回 定期演奏会   2月22日(木)
外山 雄三 提供:大阪国際フェスティバル

2018年2月22日(木)19時00分開演
 
曲目解説 / 宮澤 淳一(音楽学・文学研究)
 
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-1791)
歌劇「フィガロの結婚」序曲 K.492
 
 オーケストラのコンサートの開始を飾るにふさわしい、元気で溌剌としたこの作品は、単独で演奏されることも多いが、題名のとおり、本来はオペラの冒頭に置かれた「序曲」である。
 『フィガロの結婚』(全4幕)は、モーツァルト30歳の作で、彼の最盛期の傑作である。その原作は、フランスの劇作家ピエール=オーギュスタン・ボーマルシェ(1732-1799)の戯曲「フィガロ三部作」(『セビリアの理髪師』『フィガロの結婚』『罪ある母』)の第2作にあたる。1784年にフランスで上演されて大人気を博した喜劇で、スペインのセビリアを舞台に、傍若無人で好色な伯爵を、その従者フィガロと小間使いスザンナ(フィガロの結婚相手)が仲間たちと協力してやりこめる物語だ。モーツァルトの提案によりイタリア出身の脚本家ロレンツォ・ダ・ポンテ(1749-1838)がこれをオペラ用の台本に仕立てた。1786年に作曲され、同年5月1日、ウィーンのブルク劇場で初演し、成功を収めた。
 序曲は、ニ長調、4/4拍子。楽譜に「アレグロ」よりも速い「プレスト(きわめて速く)」の指示があるように、終始かなりの速さで演奏される。冒頭のファゴットと弦楽合奏の小刻みな動きから始まり、オーケストラ全体が力強い旋律を響かせる。いくつかの楽想を含みながら全体は2度繰り返され、結尾部を伴って華々しく終わる。興味深いことに、この序曲ではオペラ本体で歌われる旋律は用いられていない。しかし、これから何が起こるのか、という期待感を最大限に高めてくれる。本日の演奏会でもそうだ。
   
   作曲年代 1786年4月
 初  演 1786年5月1日 ブルク劇場(ウィーン)
 楽器編成
フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニ、弦五部
 
 
 
曲目解説 /外山 雄三(ミュージック・アドバイザー)
 
外山 雄三(1931-)
ヴァイオリン協奏曲 第1番 作品40
 
 NHK交響楽団が世界旅行に出たのは1960年の8月末から11月初旬までの長期間だった。当時の日本は外国に出かけることに厳しい制限があり、お金を持ち出すのも面倒な手続きが必要だった。コンサート・マスターは坂本玉明と海野義雄。この旅行で海野の中にヨーロッパへの憧れ、あるいは意欲が生まれたのではないかと私は考えているが、海野はN響のコンサート・マスターのままで、長期の海外留学をすることを許された。様々な情報を入手し、有馬大五郎先生の助言も得て、スイスのヨーゼフ・シゲティに師事することを決めたようである。「海野義雄渡欧記念演奏会」は1963年5月12日、東京・日比谷公会堂でNHK交響楽団、外山指揮で行われ、その2日前、5月10日にはNHKで放送用録音があったが、その時に、このヴァイオリン協奏曲は初演された。
 作品の冒頭は、いきなり無伴奏のヴァイオリン独奏であるが、これも海野の詳細な助言によって豊かな響きが実現している。
第1楽章の後半にオーケストラの総奏で、ゆったりした旋律が現れるが、これが美空ひばりの「達者でな」という唄に似ているな、とおっしゃったのは有馬先生である。後にこの作品をイタリアで演奏した海野は、この部分の歌い回しが、何とも不思議なカンツォーネ風になった、と報告してくれた。
 リズミカルで速めのテンポの第3楽章も、面白がる人が多い、とこれも海野の報告。まあ、実際に聴いていただいて、皆さんの感想は如何かな、と楽しみでもある。
 私はこの後、随分以前に辻 久子さんのために書いたヴァイオリン・ソナタを元にしてヴァイオリン協奏曲第2番を、更に広島に居る古い友人のためにヴァイオリン協奏曲第3番を書いたが自分自身では、この「第1番」が、飛び抜けて充実して居ると思って居る。
 
   作曲年代 1963年
 初  演
<初 演>
1963年5月10日。NHK『放送用録音』。外山雄三指揮、海野義雄独奏、NHK交響楽団

 
<演奏会初演>
1963年5月12日。『海野義雄渡欧記念ヴァイオリン演奏会』
外山雄三指揮、海野義雄独奏、NHK交響楽団。日比谷公会堂にて。

 
 楽器編成
独奏ヴァイオリン、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、打楽器2、ハープ、弦五部

※第12回(昭和38年度)尾高賞
 
 
 
曲目解説 /宮澤 淳一(音楽学・文学研究)
 
ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(1840‐1893)
交響曲 第4番 ヘ短調 作品36
 
 「宿命(運命)」を秘められた標題とするこの交響曲は、「危機の年」として知られる1877年に書かれた。チャイコフスキーは37歳。モスクワ音楽院で教え、作曲家としての実績を積みつつあったが、春先に昔の教え子だと言ってラブレターをよこした9歳年下の女性アントニーナ・ミリューコワと同年7月6日に結婚式を挙げる。「運命は避けられないし、このお嬢さんとの出会いには宿命的なものがある」(書簡より)と確信しての決断だったが、すぐに破局して別居。秋にはロシアを離れ、ヨーロッパ各地を転々とする。各地で創作を続け、12月26日、イタリアのサンレーモで完成したのがこの交響曲第4番である(ただし、着手は同年初頭で、アントニーナの連絡がある以前であり、また、草稿は挙式の4日後には書き終えていたようで、この騒動が契機となった作品ではない)。
 初演は翌1878年2月10日にモスクワで行なわれ、支援者となって間もないフォン・メック夫人に献呈された。夫人に宛てた書簡で、チャイコフスキーはこの作品を「私たちの交響曲」と呼び、「宿命(ファートゥム)」という標題があることを告白し、詳細な説明を記した。以下それを含めつつ、各楽章を総覧しよう。
 第1楽章 アンダンテ・ソステナート、ヘ短調、3/4 拍子。激しいファンファーレで全曲は始まる。これが「宿命」だが、この楽章自体の主題ではなく、この楽章は、弦楽器による切迫感のある下降旋律を第1主題、クラリネット独奏によるややおどけた旋律を第2主題とするソナタ形式である。チャイコフスキーによれば、「宿命」とは「幸福追求の情熱を妨げる、あの運命の力」であり、私たちは従順にして嘆くばかりだ。たとえ甘美な夢を見ても、「所詮は夢」であって、「人生とは、つらい現実と、幸福をめぐる束の間の夢とが絶えず交替しているにすぎない」し、安らぎなどない、と述べる。
 第2楽章 アンダンティーノ・イン・モード・ディ・カンツォーナ、変ロ短調、2/4 拍子。オーボエ独奏による憂愁あふれる主旋律と、弦楽器による副旋律が構成する複合三部形式である。中間部(ピウ・モッソ)では、クラリネットとファゴットがヘ長調で活発な動きを示し、ほどなく主部に戻り、楽器間で主題が受け渡しされていく—。これは、「トスカー」(憂愁を意味するロシア語)の表現だとチャイコフスキーは述べる。つらい思い出、喜ばしい思い出と、遠い昔の記憶が次々に甦り、悲しみつつも甘美な気持ちに浸る様子だという。
 第3楽章 スケルツォ、ピチカート・オスティナート、アレグロ、ヘ長調、2/4 拍子。弦楽器群によるピチカートで始まるユーモラスな音楽である(弦楽奏者は終始弓を持たずにこの楽章を演奏するのが通例である)。そこに木管楽器によるロシア風の舞曲(イ長調)、金管楽器による行進曲(変ニ長調)が続く。やがて弦楽器に戻り、最後はすべての動機が再現して終わる。これは「寝入りばなの脳裡に浮かぶ脈絡のないイメージ」で、「いきなりほろ酔い気分の農民たちの絵が思い出され、町の歌が聞こえてくる」のだ(この楽章はロシアの民俗楽器バラライカの合奏の模倣だとの説があり、2010年にNHKのテレビ番組『名曲探偵アマデウス』でバラライカ奏者北川翔のアンサンブルで試演されたことがある)。
 第4楽章 フィナーレ、アレグロ・コン・フォーコ、ヘ長調、4/4 拍子。3つの主題による迫力あるロンド形式である。冒頭のにぎやかな第1主題、寂しげなロシア民謡の第2主題(「野に立つ白樺の木」)、浮き立つような第3主題。そして第1楽章の「宿命」の動機が戻ってくる(第2主題との音型の類似にも注目したい)。チャイコフスキーは説明する—自分に喜びがないのならば、お祭り騒ぎで喜びに浸る民衆の中に加わるがよい。すると「宿命」がまた現われるが、人々は気にもとめない。人々は「こちらが孤独で悲しんでいるのを知らない」のだ。「悪いのは自分なのだから、この世は悲しみだらけだなどと言うべきでない。素朴で力強い喜びはある。他人の喜びを喜ぶがいい。とにかく生きていけるのだから」と。
 こうしてみると、まさにこの交響曲は「宿命」と対決し、それを克服するプロセスを描いた標題音楽だと解釈できるし、結婚騒動を含めた彼の人生との関連づけも可能だ。だが、これは、特定の標題性がないとしても、西洋文芸の論理と修辞の影響を受けた展開だとも言える。『ミュージッキング』の著者クリストファー・スモールの説を借りれば、ある確立した秩序が破壊され、再確立されていくプロセスである。それはベートーヴェンやショスタコーヴィチの第5交響曲などとも通じる音楽的展開であって、このチャイコフスキーの第4番も、そうした伝統に基づく創作であることも理解しておきたい。
 いずれにせよ、チャイコフスキーは説明を次のように総括している—「ハイネの指摘どおり、言葉の終わるところから、音楽は始まるのです」。
 
   作曲年代 1877年
 初  演 1877年2月10日(西洋暦では2月22日)、ニコライ・ルビンシテインの指揮による。
 楽器編成
フルート2(ピッコロ1持ち替え)、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、シンバル、トライアングル、バスドラム、弦五部
 
 
(C)宮澤 淳一(音楽学・文学研究)(無断転載を禁じる)
(C)外山 雄三(ミュージック・アドバイザー)(無断転載を禁じる)
 
   
 
 
 
                                     
 
 
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