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2016年度 名曲コンサート 曲目解説

 
 
第94回名曲コンサート   12月3日(土)
石川 星太郎
ホアン・モンラ


シベリウスとブラームス
 
2016年12月3日(土)
昼の部 13時30分/夜の部 17時00分 開演
 
ジャン・シベリウス(1865-1957)
組曲『4つの“カレワラ”伝説(レンミンカイネン)』作品22
「トゥオネラの白鳥」

  フィンランドを代表する作曲家ジャン・シベリウス(1865-1957)は若い頃から母国の壮大な伝承叙事詩《カレワラ》に民族精神の本質を見出しつつ、独自の作風を追求した。1892年に完成をみた声楽付きの「クレルヴォ交響曲」はその最初の大きな結実だが、引き続いて彼は1893年に《カレワラ》によるオペラを企画する。しかし構想を進めるにつれて自分がオペラに不向きであることを痛感することになり、書き始めていたオペラの前奏曲を交響詩に変更して同年完成させる。こうして生れたのが「トゥオネラの白鳥」であった。
  2年後の1895年、シベリウスはさらに《カレワラ》の中に出てくる向こう見ずの英雄レンミンカイネンの物語による3つの交響詩を作曲し、これらに「トゥオネラの白鳥」を加えて4作からなる連作交響詩とした。こうして「レンミンカイネンとサーリの乙女」「トゥオネラのレンミンカイネン」「トゥオネラの白鳥」「レンミンカイネンの帰郷」からなるいわゆる『4つの伝説』(別名『レンミンカイネン組曲』)が誕生することとなる(曲順についてシベリウスは晩年に第2曲と第3曲を入れ替えた)。全体の構成や各曲間の動機の緻密な関連など、壮大な交響曲のような纏まりを持つ連作だが、出版が個別になされたこともあって4曲一緒に演奏される機会は多くなく、とりわけ「トゥオネラの白鳥」は、当初独立した曲として書かれたという経緯もあり、本日のように単独で演奏されることが多い。
  題にあるトゥオネラとは《カレワラ》の中の黄泉の国のことである。曲は、トゥオネラの死の川の暗い幽玄な雰囲気を醸し出すデリケートな弦楽書法を背景に、イングリッシュホルンのソロが中心となって悲歌を歌う白鳥が幻想的に描かれる。
 
作曲年代  1893年
初  演  1896年4月13日シベリウス指揮、ヘルシンキにて
楽器編成  オーボエ、イングリッシュホルン、バスクラリネット、ファゴット2、ホルン4、トロンボーン3、ティンパニ、
大太鼓、ハープ、弦五部(さらに細分化される)
 

ジャン・シベリウス(1865-1957)
ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47


  シベリウスは若い時にヴァイオリニストになることを夢見ていたこともあり、ヴァイオリンという楽器に精通していた。彼が生涯に残した唯一の協奏曲がヴァイオリン協奏曲だったのも彼がこの楽器を知り尽くしていたからで、実際この作品は技巧面でも音楽面でもヴァイオリンの特性が存分に発揮されたものとなっている。この曲の初稿が書かれた1903年頃のシベリウスは生活が荒れ、精神状態も落ち着かなかったようだ。そうした中、作風も転機を迎え、初期の彼のスタイルであった19世紀ロマン派の国民楽派的様式から次第に脱して、もっと凝縮された独特の作風を求めていくようになる。ヴァイオリン協奏曲はまさにそのような中期への過渡期に生み出されたわけで、初期の彼のロマン派的様式に基づいているものの、内向的な表現性といった点には中期の彼の作風を思わせる特徴が現れ始めている。
  この曲はソリストにきわめて高度な演奏技巧を求める難曲だが、決してヴィルトゥオーゾ風に華やかな技巧を誇示するのではなく、むしろ内面の情熱をモノローグ風に語り進めるといった趣があり、そこに中期以降のシベリウスの方向が指し示されているといえる。もっとも、今日演奏されているのは初演の翌年の1905年に大幅に改作された決定稿であり、当初の初稿ではもっとヴァイオリンの名技的な側面が前面に打ち出されていた。初演の後に、シベリウスは曲に思い切った改訂の手を加え、こうしてこの協奏曲は、中期の作風にさらに近い内向的な美質を持つ傑作へ生れ変わったのである。この時期、彼の荒れた生活を心配したパトロンのカルペラン男爵の勧めで、シベリウスはヘルシンキを離れて田園地域のヤルヴェンパーに移住しているが、そうした生活の変化も作風に影響していよう。管弦楽書法も実に精妙で(指揮者にとっても相当の難曲である)、それがいかにも北欧の自然を思わせる暗く神秘的な背景を作り出している。
  第1楽章 アレグロ・モデラート、ニ短調。仄暗い雰囲気を持った幻想的な楽章。弱音器付きの細分されたオーケストラのヴァイオリン群をバックに独奏ヴァイオリンが息の長い旋律を歌う出だしからして、北欧の深い森の世界に連れ込まれるかのようだ。ソナタ形式をとり、展開部にヴァイオリン独奏の大規模なカデンツァが置かれている。

  第2楽章 アダージョ・ディ・モルト、変ロ長調。奥深い神秘的な叙情を湛えた3部形式の緩徐楽章。管楽器群による神秘的な導入部の後、独奏ヴァイオリンが情感を込めた美しい旋律を歌い紡ぐ。
 第3楽章 アレグロ・マ・ノン・タント、ニ長調。民俗舞曲風のエネルギーに満ちたロンド風のフィナーレ。2つの主題を持ち、大地の鼓動のような伴奏上に独奏ヴァイオリンがG線で力強く奏する第1主題と、やはり土俗っぽい第2主題(作曲者自身“死の舞踏”と説明している)が交互に現れる。根源的な生命力を感じさせる力強い運びが印象的で、ヴァイオリンの技巧を存分に発揮しつつ、大きな高揚を作り出していく。

作曲年代  1903年 改訂1904-05年
初  演
 【初 稿】 1904年2月8日ヴィクトル・ノヴァチェク独奏、シベリウス指揮、ヘルシンキにて
【改訂稿】 1905年10月19日カール・ハリール独奏、リヒャルト・シュトラウス指揮、ベルリンにて
楽器編成  
フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、
弦五部、独奏ヴァイオリン



ヨハネス・ブラームス(1833-1897)
交響曲 第4番 ホ短調 作品98


  19世紀後半にウィーンを中心に活動したヨハネス・ブラームス(1833-97)は、当時のドイツ・オーストリアの音楽界において、リストやワーグナーらの革新派と対立する保守派と見なされていた。たしかに彼はベートーヴェン以来の伝統ジャンルと古典的な様式を重んじており、交響曲や室内楽、ソナタなどの伝統的な曲種を中心的に手掛けた。交響曲は4曲残しており、これは一見少ないように思えるかもしれないが、むしろ交響曲というジャンルを重視していたからこそ創作に慎重に臨んでいた結果である。
  その彼の交響曲の最後を飾る作品であり、また彼の後期の大作のひとつである本日の第4番は、1884年に避暑地ミュルツツーシュラーク(ウィーン南西)において着手されている。この年には最初の2つの楽章が、そして翌年の夏にやはりミュルツツーシュラークを訪れた際に残り2つの楽章が作曲され、こうして作品は2年がかりで完成をみた。
  この交響曲の際立った特徴として、保守的といわれる彼の作品の中でもとりわけアルカイック(古風)な性格が打ち出されている点が第一に挙げられよう。特に第2楽章のフリギア旋法(教会旋法のひとつ)による主題や第4楽章のJ.S.バッハの主題によるパッサカリアなどのバロック的な趣向に、それは如実に現れている。この交響曲が彼の4つの交響曲の中でもとりわけ渋い趣を感じさせるのも、そうしたバロック風の性格に原因があると思われる。
  しかしそれは、決して単なる懐古趣味や過去への先祖返りといったものとして捉えるべきではなく、“意図された古めかしさ”であることは、心に留めておく必要がある。先述のようにしばしばロマン派時代にあって保守主義者とみなされたブラームスだが、彼の古典志向は常にロマン派的な情感表現のひとつの手法としてあった。この交響曲第4番におけるバロック的な特質も、まさにそうしたロマン的な表現と結び付いたものであり、一方で一見古めかしい技法と、他方でその中における凝った和声上・リズム上の大胆な手法による複雑な情感の表出とが、巧みに組み合わされることによって、晩秋期のブラームスの孤独な心境が見事に映し出されているのである。その知と情のバランス、およびそれを裏付ける揺るぎない構成法に、後期のブラームスの円熟した筆遣いが窺える。
  第1楽章 アレグロ・ノン・トロッポ、ホ短調。切々たる第1主題によって開始される。その主題中のため息のような下行3度とそれを裏返した上行6度は楽章全体に大きな役割を果たすこととなる重要な要素である。ソナタ形式の中で変奏的な手法や対位法的な技法を駆使しつつ、変化に満ちた発展が繰り広げられる。
 第2楽章 アンダンテ・モデラート、ホ長調。2部形式(いわゆる“展開部のないソナタ形式”)の緩徐楽章。冒頭のホルンによるフリギア旋法の旋律は印象的だ。第2主題は朗々と歌われる情感に満ちたもの。
 第3楽章 アレグロ・ジョコーソ、ハ長調。性格的にはスケルツォ楽章だが、ソナタ形式をとる。トライアングルを生かした華やかさと諧謔性は、他の楽章の渋い色調とは際立った対照を示して効果的である。
 第4楽章 アレグロ・エネルジコ・エ・パッシオナート、ホ短調。バッハのカンタータBWV150の中の主題によるパッサカリア。雄弁な和声に裏付けされた8小節の主題が示され、以後綿密な全体の構成のうちに30の工夫に富んだ変奏が繰り広げられて、最後は主題に基づくコーダで力強く結ばれる。

作曲年代  1884-85年
初  演  1885年10月25日 ブラームス指揮 マイニンゲンにて
楽器編成  フルート2(第2はピッコロ持替)、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、
トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、トライアングル、弦五部


 

     (C) 寺西 基之(音楽評論家)(無断転載を禁ずる)

 

 


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