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第249回 定期演奏会   7月29日(木)
大友 直人 (C)Rowland Kirishima

2021年7月29日(木)19時00分開演 
 
当初出演を予定しておりました指揮者 ガブリエル・フェルツ氏は、新型コロナウイルス感染症に関わる入国制限により来日困難となりました。代わりまして大友直人氏が出演いたします。なお、曲目に変更はございません。
 
 
アントン・ブルックナー(1824-1896)
交響曲 第5番 変ロ長調
 
 ブルックナーの創作活動を前期・後期に二分してみるとこの交響曲は前期の頂点に当たる。ブルックナー前期の巨大な交響曲群は習作であるへ短調交響曲(00番)を除いても、1番から0番、2番、3番、4番「ロマンティック」と順調に発展して来た。未だ改訂癖も現れず、続くこの5番でブルックナー交響曲の定型が一応の完成を見るのであるが、やはり「ロマンティック」の初稿から5番への飛躍はベートーヴェンの「第2」から「エロイカ」へのそれにも比すべきものがあり同じく音楽史上の一大奇蹟と言えるだろう。だがことによるとこの5番自体、幻の初稿と「2稿」には大きな差があるかもしれないのである。ブルックナーはこの5番で対位法オタクの田舎作曲家から真の大作曲家へと大化けして見せたのであるが。
 第5交響曲に関してはハース版もノヴァーク版も誤植以外全く同一であり従来、版の問題は全くないとされて来た。だがこの交響曲は1876年5月にいったん完成された後、ちょうど1年後に改訂が開始され新たにバスチューバを導入したり78年1月まで半年がかりで大改訂が施された。つまり76年稿を第1稿とすれば78年稿は確実に2稿に当たるのである。3番のバイロイト献呈譜がいい例だが、演奏の準備やら献呈やらでコピーされ「頼朝公7歳のみぎりの髑髏」のようにそれぞれの成長過程が保存されて来た1番から4番までの4曲とは違いこの曲は初演まで時間がかかったこともあり初期の草稿類がほとんど残されていなかった。そのため復元不可能だったというだけの話なのである。現代のようにコピー機でお手軽に複写できる時代と違い、特に必要もないのに多額の費用がかかる筆写譜を毎回作らせるわけには行かなかったのだろう。この曲も直接自筆原稿を使って改訂されてしまったのでページが差し替えられ削除されてしまった結果、最早復元不能な部分が多い。それでも書き直すと跡形もなく消え失せてしまうパソコンソフトよりはマシで上書きされた部分には判読できる部分もあり、5番に関してはかつてキャラガンが自筆譜から読み取ったフィナーレコーダの変更部分の一部をチューバを補った上で「2稿」の該当部分と差し替えて演奏したことがあった。またブルックナー研究家川崎高伸氏の編集による「原初稿」もチューバのカットなど可能な限り初稿を再現してみようという意欲的な試みだったがこれ以上の進展は失われた総譜部分の再発見でもない限り到底望めないのである。
 前述のようにこの曲は1876年に一旦完成するがちょうど1年後の改訂は何を意味するのだろうか。完成の日付も改訂開始の日付も両方共5月16日なので明らかに意識しているのである。この年ブルックナーは第1回バイロイト音楽祭に詣で、「リング」全曲を聴いているので強烈な衝撃を受けたことは間違いあるまい。或いはワーグナーの真髄に触れてから5番を大改訂する腹づもりだったのかもしれないがこれにより第1次の「改訂の波」が起こったのである。驚いたことに1番のリンツ稿までこの時改訂されており、この時までに完成されていた番号の付けられた5曲全てに改訂が施されるのである。バイロイト音楽祭はワーグナーの生存中にはもう一回開かれただけだし、その時「リング」は演奏されなかったので実に貴重なチャンスだったわけだが、ブルックナーが「バイロイトの巨匠」をどんなに尊敬していたかが窺われる逸話であろう。やはりブルックナーはバイロイトでワーグナーの洗礼を受け真の大作曲家ブルックナーになったのである。また1877年はブラームスが「第2」を書いた年だがこの第2こそはブラームスがコントラファゴットに変えてバスチューバを用いた唯一の交響曲であり彼はその後の交響曲にはこの楽器を用いなかったというのも興味深い事実であろう。
 第1楽章/ブルックナーの交響曲の第1楽章で唯一序奏を持ち主題を三つ持つ独特のソナタ形式を採る。この曲は中世的で甲冑に身を包んだ騎士のように厳しいと評されることもあるが雄渾さでは随一。教会のオルガニストだったブルックナーの交響曲はミサ曲と同じ語法で書かれており随所に法悦の響きも聞かれる。或いは交響曲の皮を被った宗教音楽なのかもしれない。この楽章はモーツァルトのレクイエムの影響下に書かれているとする説もあるが序奏の下降し上昇する音形が展開部で木管で出る時、滴り落ちる涙を連想することがあるのはこの部分、マタイ受難曲の影響を受けているのだろうか。
 第2楽章/ブルックナーはこの楽章から作曲し始めた。冒頭の音型は第3楽章と共通しており5部形式。第2主題では3番のアダージョ冒頭のように豊かな祈りの心が聞こえる。この第2主題はヴァイオリンの音域の制約からか1回目が2回目とメロディーラインが異なる。シャルク版の終結部の木管の変更はブルックナー自身によるものだと言われる。
 第3楽章/ブルックナーのスケルツォの中でも最も規模が大きく、前述のように出だしは2楽章冒頭と関連がありアタッカでやるとかテンポを揃えたりの工夫をする指揮者も多い。
 第4楽章/第1楽章と同様な序奏を持ち三つの主題を持つソナタ形式に「大フーガ」のように大規模なフーガが導入されるが変ロ長調という調性もベートーヴェンを意識してのものなのだろうか。昔宇野功芳氏が「ブルックナーが対位法の練習をしているようで肩が凝る」と評したことがあったが事によると本当にいい練習になったのかも。また「第九」の影響からか既出楽章の回想があり第3主題は第1主題に基づくがこれは既に第1交響曲のフィナーレ展開部に出て来た音型であった。さらに金管による重要なコラール主題が出て展開部に続く。長大なコーダの最後はブルックナーの楽器である3本のトランペットがまるで三つの共観福音書のように神の栄光を高らかに讃えて終わるがリズムこそ異なるものの8番同様肯定のミレドなので、この曲こそブルックナーの信仰宣言に相違ない。
 
 作曲年代 1875年2月14日から76年5月16日いったん完成。77年5月16日から78年1月4日改訂。
 初  演
1894年4月9日。フランツ・シャルク指揮。グラーツにて。(シャルク版)1935年10月20日。ジークムント・フォン・ハウゼッガー指揮。ミュンヘンにて。(ハース版)
   楽器編成
フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、弦5部
 
 
 
曲目解説:(C) 浅岡弘和(音楽評論家) (無断転載を禁じる)
 
 
 
 
                                     
 
 
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