01570519
 

2021年度 名曲コンサート 曲目解説

 
 
第120回名曲コンサート   2022年1月9日(日)
三ツ橋 敬子(C) Earl Ross
高嶋 優羽

大阪交響楽団のニューイヤーコンサート
 
2022年1月9日(日)
昼の部 13時30分/夜の部 17時00分 開演
 
※当初出演を予定しておりました指揮者 オーラ・ルードナー氏は、新型コロナウイルス感染症に関わる入国制限により、来日困難となりました。代わりまして三ツ橋敬子氏が出演いたします。
曲目の変更はございません。なお、「ベートーヴェン :ロマンス 第1番 」のヴァイオリン独奏は森下 幸路(首席ソロコンサートマスター)が務めます。
 
 
◆維納(ウィーン)のヨハンと柴又の寅次郎

 腹巻き姿の〈フーテンの寅〉こと車寅次郎(渥美清)の名セリフ、「わたくし、生まれも育ちも東京葛飾柴又です」でよくご存じの国民的喜劇映画シリーズ「男はつらいよ」。その第41作目「寅次郎 心の旅路」(1989)は、シリーズ初の海外ロケで舞台は何と維納(ウィーン)。映画の中ではワルツ「ウィーンの森の物語」が流れ、民族楽器ツィターのつま弾きが何とも言えない郷愁を誘います。
 そのワルツの作曲者で、生涯に実に多数の舞踏音楽や名作オペレッタなどを書き残したヨハン・シュトラウスⅡ(1825-99)は、生まれも育ちもハプスブルク帝国の帝都ウィーン(もっとも、出生地ザンクト・ウルリッヒは当時郊外の下町でしたが現在はウィーン市ノイバウ区内)。内外情勢的に激動の時代を生き、その世の人々の心に夢を与えるごとく自前の楽団を指揮して数々の名ワルツなどを披露。ウィーン社交界の超スーパー・スターとしてその名を世界各地にとどろかせました。
 今日〈ワルツの父〉と讃えられるヨハン・シュトラウスⅠ(1804-49)の長男として生まれたシュトラウスⅡですが(弟のヨーゼフとエドゥアルトも作曲や指揮で活躍)、その父ヨハンは頑固にして家庭を顧みなくなっていったばかりでなく、長男ヨハンのウィーン・デビュー(1844)では音楽で身を立てようとすることへの心配か敵視か、かなりの確執があったとされます。いやはや、「長男はつらいよ…」ですね。デビュー後、負けん気根性に支えられた半世紀にわたるシュトラウスⅡの精力的な活動。その裏には、老いてなおトレードマークの口ひげを整え、寅さんの腹巻きならぬコルセットを着け(デビュー頃の肖像画からもそれが伺えます)若々しい姿を保ち続けるという、舞台人としての並々ならぬプロ魂があったようです。そのシュトラウスⅡは生涯にウィンナ・ワルツの様式(序奏の後に幾つかの小ワルツが続き、最後に結尾部が置かれる)を完成しその全盛期を築き上げましたが、後半生において心機一転、オペレッタ(喜歌劇)の分野にも進出。優雅なウィンナ・ワルツを取り入れた数々のオペレッタを世に送り出し、いわゆるウィンナ・オペレッタの〈金の時代〉を確立してゆきました。
 
 さて、当ニューイヤーコンサートの幕開けを華々しく飾るのは、1874年に作曲された全3幕の喜歌劇「こうもり」より序曲。〈こうもり博士〉とあだ名されたファルケが、その元凶をつくった銀行家アイゼンシュタインに仕返しをするという、いい大人のイタズラ話 ― このオペレッタにはハプスブルク帝国を取り巻く様々な国々の仮面・仮装キャラクターが登場しますが、当時の外交的緊張関係をアイロニカルに表現しようとしているとも、あるいは平和的友好への望みを描こうとしているとも捉えられます ― による劇中曲からの、まさに〈ええとこ取り〉名旋律でできたサーヴィス満点の序曲です。続いてのポルカ「狩り」は、稀代の詐欺師による大騒動を描く喜歌劇「ウィーンのカリオストロ」(1875)の劇中曲に基づき、狩猟ラッパや鉄砲音などを効果的に取り入れた目まぐるしいスピード感に溢れる一品。一転して、何とも艶やかな香り漂うワルツ「千夜一夜物語」は喜歌劇第1作目「インディゴと40人の盗賊」(1871)の劇中曲に基づくもの。アラビアンナイトの雰囲気を表す冒頭のトランペットのメロディーには、当時流行していた東方趣味の一端が感じられるのではないでしょうか。
 「シャンパンポルカ」(1858)は、ウィーンよりもはるかに金銭的な待遇が良かったというロシア・パヴロフスクへの楽旅中に作曲されました。当地で初演され、シャンパンの栓を開ける音が取り入れられた何ともお茶目な一種のジョーク音楽です。「エジプト行進曲」(1869)は、もともと「チェルケス行進曲」と題してパヴロフスクで初演したものを、スエズ運河開通記念に合わせて改題した異国情緒たっぷりな行進曲(ちなみに、チェルケス人の国チェルケシアは1864年ロシアにより征服されています)。続いては、名技的なコロラトゥーラ・ソプラノとオーケストラのために書かれ、ひばりが春の空高く舞い上がるさまを描いたワルツ「春の声」(1883)。ひばりのさえずりに託して「春は美しく華やかに目覚め、つらいすべてのことを終わらせてくれるでしょう」(詩はリヒャルト・ジュネ)と軽やかに歌われるメロディー・ラインは、まるで美しい空に昇ってゆくかのよう。そう言えば、かの渥美清は美空ひばりの歌声が大好きだったとか。この有名な「春の声」のメロディーも、映画「寅次郎 心の旅路」にちょっぴり顔を出し、銀幕をほのぼのと彩っています。
 
◆〈金の時代〉から〈銀の時代〉へ
 
 「時代ってのはよう、ワルツのように回ってゆくもんさ」と、あの寅さんがしみじみと言ったわけではございませんが、19世紀末に〈ワルツ王〉シュトラウスⅡが世を去り、陽の沈まない帝国と謳われ600年続いたハプスブルク帝国もいよいよその終焉を迎えようとしていた20世紀初頭。ハンガリー生まれのフランツ・レハール(1870-1948)があたかもシュトラウスⅡの遺志を継ぐように頭角を現し、ウィンナ・ワルツの数々、さらにはウィンナ・オペレッタの作曲で成功を収め、〈金の時代〉に続く〈銀の時代〉の立役者となりました。そのレハールの代表作の1つで、そこはかとない官能性をまとわせたワルツ「金と銀」(1902)は、当時のウィーンの社交界の花形であったパウリーネ・フォン・メッテルニヒ(「会議は踊る」で知られるウィーン会議の議長であった宰相メッテルニヒの孫娘)が主催する舞踏会のために書かれた作品。その舞踏会は会場内も出席者もみな金銀づくめという趣向だったと言われるだけあって、曲はきらびやかな響きの序奏に始まり、ワーグナーの楽劇「ニーベルングの指環」の指環(ラインの黄金!で作られた)のライトモティーフを引用するなど、実に凝った作りとなっています。
 続いてはちょっとした箸休め気分!?。19世紀後半、ウィーン郊外のホイリゲ(ワイン居酒屋)を足場としてヴァイオリン主体の小編成演奏で大当たりをとったシュランメル兄弟の大衆的な音楽(〈シュランメル音楽〉 と呼ばれます) から、兄のヨハン・シュランメル(1850-93)が作曲した行進曲「ウィーンはいつもウィーン」(1877)です。日本ではテレビやラジオのスポーツ系ニュースのテーマ曲に使われるなど、きっとお馴染みの音楽でしょう。街を愛し、人生を謳歌するウィーンっ子気質そのもののような心浮き立つ景気のいい行進曲です。
 次いでは、大のワイン好きにして、ホイリゲ〈Mayer am Pfarrplatz〉(ハイリゲンシュタットの地にワイナリーとして1683年に創業)に一時期住まったことのある作曲家ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827)の作品から、ヴァイオリン独奏とオーケストラのための「ロマンス第1番」(1801-02)をお聴きいただきましょう。完成年は、ベートーヴェンがかのハイリゲンシュタットの遺書を書いた同じ年。ヴァイオリン独奏に重音奏法を効果的に取り入れた、深く語らうようなメロディーを特徴とする小品です。
 続くは〈銀の時代〉のウィンナ・オペレッタから、喜歌劇「チャールダーシュの女王」より“ハイア、ハイア、山こそわが故郷”を。ウィーンで名を上げたハンガリー出身のエメリッヒ・カールマン(1882-1953)が1915年に作曲した全3幕の作品で、チャールダーシュの女王こと人気歌手のシルヴァとオーストリアの青年貴族エドウィンの擦った揉んだの恋愛騒動を描くストーリーです。その第1幕(時は第1次世界大戦前夜)、アメリカ巡業へ向けたお別れ公演としてブダペストのキャバレーの舞台に立つ歌姫シルヴァ。チャールダーシュ(哀愁ある緩やかな部分と情熱的な急速な部分からなるハンガリーの民族舞曲)の音楽形式に乗って自身の故郷を懐かしみ民族色豊かに歌い出すも、徐々に興に乗り「あんたはあたしだけのもの、あたしはあんたの天国でもあり地獄でもあるのよ!」と熱い思いをたぎらせてゆきます。
 さぁ、泣いても笑ってもプログラムの最後。シュトラウスⅡの弟ヨーゼフ・シュトラウス(1827-70)の音楽から、ワルツ「天体の音楽」(1868)です。ウィーン大学の医学生主催による天体の音楽をテーマにした舞踏会のために書かれた作品で、1931年のドイツ映画「会議は踊る」のテーマ音楽としても使われました。宇宙空間的な広がりを持つ序奏からして実に印象的で、いつまでも醒めずにいてほしい夢のようなウィンナ・ワルツの世界へきっと誘ってくれることでしょう。
 
 
C)村田 英也(音楽評論家)(無断転載を禁ずる)

 

 

 

 

 

公益社団法人大阪交響楽団
Osaka Symphony Orchestra
〒590-0074
大阪府堺市堺区
北花田口町3-1-15 東洋ビル4F
TEL:072-226-5533
FAX:072-226-5544
 
201309301658395847.jpg
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
<<公益社団法人大阪交響楽団>> 〒590-0074 大阪府堺市堺区北花田口町3-1-15 東洋ビル4F TEL:072-226-5533 FAX:072-226-5544