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2020年度 共催公演

 
 
テアトロトリニタリオ2020

 
 
TeatroTrinitario2020 "バレエ×オペラ×オーケストラ"
2020年9月22日(火・祝)14時00分開演 フェニーチェ堺 大ホール
 
曲目解説/村田英也(音楽評論)
 
野間バレエ団、堺シティオペラ、大阪交響楽団という、3つのプロフェッショナルな芸術団体が現在その本拠地と定める大阪・堺市は、古来より〝自由・自治都市〟として栄えてきた要衝でもあります。バレエ、オペラ、オーケストラと文字通り〝三拍子が揃い〟、今や総合舞台芸術発信地として実に理想的な堺市に、新たな芸術の殿堂《フェニーチェ堺》(堺市民芸術文化ホール) がグランド・オープンしてまもなく一周年。このプレ・フェスタ的なタイミングで開催される〝Teatro Trinitario(イタリア語で〝三位一体劇場〟という意味)〟は、先の3つの芸術団体が手を取り合い、それぞれの持ち味を生かしつつ1つの舞台を創り上げるという画期的な企画です。
実にヴァラエティに富んだプログラムが組まれましたが、そこに通底するのは〝自由〟という重要なキーワード。この〝自由〟とは、きっと今を生きる我々が様々な意味をそこに見出す言葉であり、そしてまた、未だ収束せぬ新型コロナウイルスの脅威や制約ある生活を乗り越えた先の、我々の意志的な力強い未来そのものと言えるかもしれません。
 
 

 

ワーグナー:歌劇「タンホイザー」より“厳かなこの広間よ”
 
ドイツ生まれの作曲家リヒャルト・ワーグナー(1813 - 1883)が、ドイツ三月革命時下に著した檄文のなかの〝Frei im Wollen, Frei im Thun, Frei im Geniessen(自由を望み、自由に行動し、自由を楽しむ)〟という言葉。昨年の夏、ワーグナーの聖地であるバイロイト音楽祭で、その〝自由〟を連ねた言葉をスローガンとして何ともパンク色強い斬新な演出で上演された歌劇「タンホイザー」(NHK-BSでも放送)をご記憶の方もきっと多いことでしょう。
全三幕の歌劇「タンホイザー」(原題は「タンホイザーとヴァルトブルクの歌合戦」)は、中世ドイツの2つの伝説を題材に作曲され、1845年にドレスデンで初演されたワーグナー中期の作。愛の女神ヴェーヌスとの色欲に溺れたミンネゼンガー(《愛の歌い手》を意味する中世ドイツの騎士歌人)であるタンホイザーが、彼を愛するエリーザベト(テューリンゲン領主の姪)の自己犠牲によって救済されるという筋書です。久しく行方が知れなかったタンホイザー(ヴェーヌスの住まう官能の異界にいた)が、元居たヴァルトブルク城に帰還し、これに歓喜したエリーザベトが第二幕冒頭で歌う“厳かなこの広間よ”。城内の歌会の広間で、「あの方の歌は目覚め、私を陰鬱な夢から醒ましてくれる」とエリーザベトが歌うその心の高揚感が、熱く胸を打ちます。
 
 
ラヴェル:ボレロ
 
スペイン国境に近いフレンチ・バスク地方(フランス南西部)の港町シブールで生まれた作曲家モーリス・ラヴェル(1875 - 1937)。バスク出身の母とスイス出身の父を持ち、〝スイスの時計職人〟と称される書法の精緻さや、〝オーケストラの魔術師〟とも呼ばれる卓越した管弦楽法はよく知られるところでしょう。そんなラヴェルの代表的なオーケストラ作品であり〝楽器の展覧会〟とも呼ばれることもある「ボレロ」は、ロシア人の舞踏家イダ・ルビンシュタインの依頼により1928年に作曲されたバレエ音楽です。一説では、ラヴェルは作曲に当たって、本公演のメイン・プログラムでもあるジョルジュ・ビゼーの歌劇「カルメン」における〝嫉妬深い恋人〟や〝死〟などをイメージしていたとも(documentaire〈Qui a volé le Boléro de Ravel ?〉, 2016)。そんなラヴェルの「ボレロ」ですが、今や自由なスタイルによる編曲・演奏等でも広く世に親しまれているクラシック音楽の1つではないでしょうか。(コロナ禍のリモート企画として、「ボレロ」の演奏動画は大いに話題を呼びました)。
スペインの民族舞曲である《ボレロ》の緩やかなリズム(本来の《ボレロ》は軽快なテンポ)の刻みの上で、シンプルかつ一度聴いたら忘れられない旋律が楽器を変えて繰り返され、変幻自在に音の厚みや色彩感を変化させつつ、見事なまでにエクスタティックなクライマックスを築き上げてゆきます。
 

ヴェルディ:歌劇「ナブッコ」より“序曲”、“行け、我が思いよ、黄金の翼に乗って”
 
歌劇「ナブッコ」(原題は「ナブコドノゾール」)は、イタリアの国民的作曲家にして〝歌劇王〟として名高いジュゼッペ・ヴェルディ(1813 - 1901)が作曲した全四幕(正確には四部)からなる歌劇。その初演(1842年)の成功により、ヴェルディの出世作となった初期の作品です。タイトルの「ナブッコ」とは、新バビロニア帝国の王として君臨した古代の歴史的人物であるネブカドネザル二世のイタリア語表記に当たります。この歌劇の題材は旧約聖書に基づき、そのネブカドネザル二世によるエルサレム侵略とヘブライ人のバビロニアへの強制移住(バビロン捕囚)を巡る、民族的宗教的対立を描いた荘重な筋書となっています。
オーケストラが奏する“序曲”は、歌劇中に現れる諸旋律で巧みに構成された極めて起伏に富む幕開けの音楽。そして第三幕の合唱曲“行け、我が思いよ、黄金の翼に乗って”は、今日イタリア第二の国歌と称される名旋律です(作曲当時のイタリア統一運動の機運を盛り上げたとも言われます)。ユーフラテスの川岸で、都エルサレムを失ったヘブライ人たちが心を1つにして祈る如く歌い上げるのは、切実な望郷の念と自由への渇望。コロナ禍によって我々の慣れ親しんだ日常が一変した今日、自由に思いを馳せて歌われるこの合唱曲は、一段と深い共感を呼び覚ましてくれるのではないでしょうか。
 
 
ラフマニノフ:チェロ・ソナタ ト短調 作品19より第三楽章
 
人間の声に一番近い音域を持つと言われる弦楽器のチェロ。ロシア出身の作曲家にして名ピアニストであったセルゲイ・ラフマニノフ(1873 - 1943)は、習作期の「ロマンス」(1890年作)をはじめ、その創作初期にチェロとピアノのための作品を幾つか残しました。1892年、モスクワ音楽院を最優秀の成績を収めて卒業し、〝自由芸術家 (svobodnyi khudozhnik)〟の称号を戴いたラフマニノフは、交響曲第1番の初演で大失敗を経験するも(1897年)その痛手から復活し、20世紀の幕開けを飾るごとく1901年に名作の「ピアノ協奏曲第2番」、次いでチェロとピアノのための「チェロ・ソナタ」を世に生み出しました。
全四楽章からなる「チェロ・ソナタ」は、ラフマニノフらしい憂愁としたロシア的情緒性と熱く深い情感に彩られ、楽章を追うごとに〝闇から光へ〟という勝利的な全体構造が明らかとなってゆく作品です。本公演でウヴェ・ショルツ氏振付によるバレエ作品「Sonata」で演奏されるのは、全曲の内の第三楽章。ロマン溢れる夢見心地の美しい旋律を、チェロとピアノがまるで愛の言葉を交わすように親密に紡いでゆきます。
 
 
 

 
 
 
ビゼー:歌劇「カルメン」より抜粋
 
芳醇なスペイン情緒に満ちた全四幕からなる歌劇「カルメン」。フランスの作曲家ジョルジュ・ビゼー(1838 - 1875)がその死の年、36歳という若さで完成させた白鳥の歌です。そのビゼー、生涯において実はスペインを訪れたことがなかったという事実を思うにつけ、その作曲のイマジネーションの豊かさというものを痛感せずにはいられません。ビゼーはこの「カルメン」を、フランス語のセリフの入った歌芝居的なオペラ・コミック様式で作曲しましたが、ビゼーの死後、友人の作曲家エルネスト・ギローがセリフをレチタティーヴォに改めたグランド・オペラ版(ギロー版)を作り、世界的な人気作に(本公演はギロー版による演奏)。日本ではかつて〝オペラの忠臣蔵〟と言われたこともあるほど、この「カルメン」は古くから我が国でも人気を誇る歌劇であり続けてきました。
その人気の秘密は、まず何と言っても親しみやすい旋律の宝庫であるということ。劇中の歌のみならず、一度聴けば虜になってしまうようなオーケストラ曲も大きな魅力に違いありません。そしていま一つは、悲劇的な結末へと突き進む愛憎と緊張感に満ちた筋書でしょう(作家プロスペル・メリメの小説「カルメン」に基づくアンリ・メイヤックとリュドヴィク・アレヴィによる台本)。スペインのセヴィリアを舞台に自由奔放に生きるジプシー娘のカルメン、その彼女に魅了され人生の歯車を狂わせてゆく竜騎兵の伍長ドン・ホセ。2人を巡る情熱的で不条理な愛、怪しげな密輸団、大詰めの殺害シーンなど、その非モラルさ故にこそ人の心を惹きつけて止まない劇的要素がたっぷり。本公演では、この「カルメン」より厳選された抜粋14曲(児童合唱が入る楽曲に関しては女声合唱で代用)が、歌劇の進行順で演奏されます。
◆第一幕への前奏曲
舞台の幕が上がる前のオーケストラ曲で、歌劇中の主要な旋律で構成されています。華やかな闘牛士たちの入場行進の音楽に始まり、次いでホセの恋仇となる闘牛士エスカミーリョのテーマ的旋律(闘牛士の歌)が登場、曲の最後は一転悲劇調となってカルメンの死を暗示する〝運命のテーマ〟が厳かに鳴り響きます。

【第一幕】
◆ハバネラ
キューバ起源の舞曲《ハバネラ》のリズムに乗り、セヴィリアの煙草工場で女工として働くカルメンが口ずさむ妖艶な歌(実は、スペインの作曲家セバスティアン・イラディエルの歌曲に拠るもの)。カルメンは、自分の美貌に無関心なホセを横目に「あんたがつれなくとも、こっちは惚れる。あたしに惚れられたら、気を付けな!」と奔放な恋模様を歌い、ホセに一輪の花を投げつけて去ります。
◆ホセとミカエラの二重唱
カルメンとの衝撃的な出会いに戸惑いを隠せないホセ。その彼の許婚にして純朴な村娘ミカエラがホセの母親から手紙を預かり、ホセを訪ねてきます。ホセは母親代わりの優しい接吻をミカエラから受け、「母さんが目に浮かぶよ…」と遠く懐かしい故郷への感慨を込めて歌う美しい二重唱です。
◆女工たちの喧嘩の合唱
煙草工場でカルメンが女工仲間との間に起こした喧嘩騒ぎを描く荒々しく激しい合唱曲。「助けてよ、兵隊さん!」、女工の群衆たちは駐屯の竜騎兵たちに向かって口々にそう叫び、カルメンはついにホセに引き立てられることになります。
◆セギディーリャ
  牢屋送りを免れようとばかりにカルメンが、軽快なスペインの民族舞曲のリズムに乗って「なじみのリーリャス・パスティアの酒場で、セギディーリャを踊りたいの!」と歌い、ホセを誘惑する音楽。ホセはこともあろうに甘言にほだされてカルメンを逃がしてしまい、悲劇の影がじわりと忍び寄ることになります。

【第二幕】
  ◆ジプシーの歌
町外れのリーリャス・パスティアの酒場。カルメンやその女仲間のフラスキータ、メルセデスたちの姿が見えます。彼女たちはエキゾティックなオーケストラの前奏に導かれ、「妖し気な楽の音にジプシー娘は座ってなんかいられやしない」と歌い踊り始め、だんだんと興奮し早口にまくしたててゆきます。正に、血沸き肉躍るという形容が相応しい音楽。
  ◆闘牛士の歌
酒場に人気の闘牛士エスカミーリョが現れ、もてはやす取り巻きの群衆に向かって「諸君らの乾杯にお返しを」と威勢よく歌い出します。闘牛の勇ましさを讃えるエスカミーリョの雄々しい歌声に、さてカルメンの心は如何に!?
  ◆五重唱
カルメン、メルセデス、フラスキータの3人に、密輸団の男のダンカイロとレメンダードが「ひと仕事思いついたんだが…」と眉つばの密輸話を持ちかけて歌われる五重唱。兵隊さん(ホセ)に恋しているから手伝えないというカルメンを皆で説き伏せようとするさまが、可笑しくてコミカルです。
◆花の歌
カルメンを逃がした罪で、伍長から兵卒に格下げされ営倉送りになっていたホセ。時を経てようやくカルメンの元を訪れたホセが、「お前が投げて寄こしたこの花は、営倉の中でも俺のもとにあった」と、しおれても香りの残る花を手に愛の心の内を吐露する甘く情熱的なアリア。カルメンは、その気持ちが本当ならわたしについて来てと、密輸団に加わることをホセに迫ります。
◆第三幕への間奏曲
穏やかなハープの伴奏の上でフルートが伸びやかな旋律を清らに歌い出します。この歌劇中における一服の清涼剤のような、実にのどかで牧歌的なオーケストラ曲。

【第三幕】
◆ミカエラのアリア
情景は荒涼とした岩山にして密輸団の野営地。今や脱走兵となりカルメンらの密輸団に加わっているホセ。不気味な闇夜の中、ホセを病の母の元へ連れ戻そうと訪ね来たミカエラが「何も怖くなどはないわ、そう、大丈夫よ!」と一人健気に歌う抒情的なアリア。
◆第四幕への間奏曲「アラゴネーズ」
最終幕を前にして悲劇的なファンファーレのごとく開始されるオーケストラの間奏曲。仄暗い哀愁を帯びたスペイン情緒が大変印象的な楽曲です。

【第四幕】
◆行進曲と合唱
時は移ろい、ホセからエスカミーリョへと心変わりしているカルメン。そのエスカミーリョをはじめとする闘牛士たちがセヴィリアの闘牛場前の広場に華々しく行進して登場するシーン。闘牛に心躍らせ、彼らを迎える群衆たちの合唱が大にぎわいを伝えます。
◆フィナーレ
闘牛士たちは場内へ向かい、広場に残るはカルメンとホセ。よりを戻したいホセは全身全霊を込めカルメンに迫ります。ホセの想いを拒み、ジプシーとしての生き様を貫こうとするカルメン。「わたしは言うことなんか聞かないわ。自由に生まれて、自由に死ぬのよ!」。自身の死の定めを覚悟したようなカルメンの渾身の叫び。そのカルメンの肉体を鋭く貫くホセの刃。闘牛の血の流れる闘牛場から歓声の合唱が響き、さらにカルメンの死を象徴する心えぐるような〝運命のテーマ〟をオーケストラが全強奏で鳴らし、ここに悲劇の幕が下ろされます。
 
 
(C)村田英也(音楽評論)(無断転載を禁ずる)
 
 
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