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2020年度 名曲コンサート 曲目解説

 
 
第114回名曲コンサート   10月31日(土)
川瀬 賢太郎
林 澄子 

 
ベートーヴェン~シューマン
 
2020年10月31日(土)
昼の部 13時30分/夜の部 17時00分 開演
 
ロベルト・シューマン(1810-1856)
劇音楽「マンフレッド」 作品115 序曲
 
 英国ロマン派の詩人ジョージ・ゴードン・バイロン(1788-1824)の劇詩『マンフレッド』(1817)は中世のアルプス山中が舞台。愛する女を己の過ちで亡くしたことに苦しむ城主マンフレッドの物語だ(ここでいう「劇詩 dramatic poem」とは、上演を前提としない「読む(朗読する)ための劇」のこと)―過去を忘却すべく精霊に頼るが逆に不死の呪いをかけられ、マンフレッドはもがく。その中で出会った自然の中で生きる狩人、魔女や異教の邪神の説得や誘惑にも耳を貸さず、最後にはキリスト教の救いも拒み、悪魔をも追い払い、自身の罪と業をきっぱり受け入れて死を迎える。
 このバイロンの劇詩を題材にロベルト・シューマンが生み出したのが『マンフレッド―バイロン卿の3部からなる劇詩』という演奏に70分ほどを要する大作だ(同じ題材による音楽作品にはニーチェ(!)のピアノ4手用の『マンフレッド瞑想曲』(1872)、チャイコフスキーの『マンフレッド交響曲』(1885)、英国のアレグザンダー・マケンジの付随音楽(1898)などがある)。シューマンはこの作品のことを「オペラでも歌芝居でもメロドラマでもなく、音楽つきの劇詩」だと全曲の初演で指揮を担当したリストに手紙で述べている。序曲に続き15の場面があり、管弦楽を背景に詩が朗読される場面と独唱、重唱や合唱による場面が交互に現れ、最後の場面で両者が重ね合わされる。
 本日のように序曲のみが演奏される機会が多いが、最初に書かれた部分だけあって、劇詩全体の雰囲気と気分が見事に予示されている。たたみかける和音に続く緩やかな序奏に変ホ短調のソナタ形式の主部が続き、最後に再び序奏のテンポに戻り、静かに、だが、波乱の展開を予感させつつ短調のまま音楽は終わる(この最後の部分とほぼ同じことが劇詩全曲の結尾でも長調で繰り返され、本当の解決がもたらされる)。
 
作曲年代
1848年
 
初  演
1852年3月14日。作曲者指揮。ライプツィヒ:ゲヴァントハウスにて。
 
楽器編成 フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、ティンパニ、弦5部
 
 
 
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827)
合唱幻想曲 ハ短調 作品80
 
 ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの音楽の魅力や面白さは緻密かつ堅固で説得力のある構成にだけあるのではない。時にはそうしたものを壊しかねないほどに大胆な実験や仕掛けもまた彼の音楽の随所にはあり、両者のせめぎあいが音楽にいっそうの輝きをもたらしている。『合唱幻想曲』もまた然り。この曲の場合には「実験」という性格の方が些か強く出ており、そこがまた1つの魅力であろう。
 曲名の『合唱幻想曲』とは、「合唱のための、(あるいは、合唱を主体とした)幻想曲」ではなく、「合唱つき幻想曲」を意味する。そして、そこで重要な役割を担うのがピアノだ。冒頭は自由な即興演奏を思わせるハ短調のピアノ独奏に始まり、それを管弦楽が承け、ピアノとの「問答」をしつつ本編のお膳立てをする。その「本編」ではハ長調に転じ、ピアノが主題(初期の歌曲『愛されない男のため息と愛の応え』WoO118(1794-95)の一節に基づくもの)を奏で、これが変奏されていく。その中で音楽はテンポ、調性、性格を変えてゆき、再びハ長調へ戻り、満を持して独唱、次いで合唱が登場する(驚くなかれ、全曲約20分のうち、この時点で15分ほどが経過している!)。テキストはクリストフ・クフナー(1780-1846)という詩人の作で、「美しき芸術」の力を讃えるものだ。
 ところで、この『合唱幻想曲』がいろいろな点でのちの交響曲第9番の第4楽章を先取りしているとは、よく言われることだ。まず、「主題」が「歓喜の歌」の旋律と似たところがいろいろある(さらには歌詞の内容も少なからず重なっている)。また、主題の多様な変容、声楽で登場するまでの「じらし方」や両者のちょっとしたパッセージの類似、そして、曲の締めくくり方等々。だが、この『幻想曲』はそれだけでも十分に面白く、無理に「第9」と関連づけずに聴いた方がその独自性を楽しめるかもしれない。
 『合奏幻想曲』が初演されたのは自らが主催した公演でのことで、演目には交響曲第5、6番の初演に加え、ピアノ協奏曲第4番やミサ曲ハ長調の抜粋も含まれていた。何とも壮観だ(が、さすがにこれでは演奏会の時間が長すぎたし、大急ぎで書かれた『合唱幻想曲』は練習不足で失敗だったとか)。
 
作曲年代 1808年
初 演
1808年12月22日。作曲者ピアノ独奏。ヴィーン:アン・デア・ヴィーン劇場にて。
楽器編成
フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニ、弦5部、
独奏ピアノ、独唱(ソプラノ2、アルト、テノール2、バス)、合唱
 
 
 
 
ロベルト・シューマン(1810-1856)
交響曲 第3番 変ホ長調 作品97 「ライン」
 
 シューマンが最初の交響曲第1番作品38を「完成」させたのは1841年。作品1から23(1829-39)まではピアノ曲しかなく、40年は「歌の年」と言われるほどに次々と歌曲が書かれているが、そののちのことである。実はその間にも何度も交響曲(やその他の曲種)は試みられており、シューマンがこの曲種の創作を重要視し、慎重を期していたことがわかる。そして、この姿勢はその後も変わらない。同じ年にもう1つ交響曲が生まれているが、シューマンはこれを10年後に大幅に改訂し、「第4番作品120」とした。また、第2番は45-6年、第3番は50年という具合に決して慌てずに書き継いでいる。
 さて、その第3番の交響曲だが、上に述べた経緯からも明らかなように、この曲が実際には第4番であり、シューマンのそれまでの創作経験が存分につぎ込まれている。「ライン」というのは作曲家自身がつけた標題ではなく、愛称だ。50年の9月、シューマンはライン河畔のデュッセルドルフに赴き、友人の作曲家フェルディナント・ヒラーの後任として同地の音楽監督に就任した。そして、その年のうちにこの交響曲を完成しているが、翌年に出版社のジムロックに宛てた手紙の中で同曲が「たぶん、随所で何かしらこちらでの暮らしを映し出している」と述べており、「ライン」という呼称はそれなりに意義のあるものだと言えよう(なお、この「ライン」交響曲の数年後、ヴァーグナーは楽劇『ラインの黄金』を完成しているが、その序奏は交響曲と同じ変ホ長調で、ホルンが活躍する点も同じだ。偶然ではあろうが面白い一致だ)。
 他の3つの交響曲とこの「ライン」交響曲には興味深い違いがある。まず、第1楽章の始まり方。第1、2、4番ではいずれもかなり長い序奏がつき、しかるべき準備を経てソナタ形式の主題が現れるのだが、第3番ではいきなり主題が奏でられる。そして、有無を言わさず聴き手を音の波の中に飲み込んでしまう。また、他の3曲が全4楽章なのに対し、「ライン」は5楽章からなる。第2楽章がスケルツォで第3楽章が緩徐楽章というのはいわば「定石」通り(それら2つの楽章の順序は逆でもよい)だが、その後にフィナーレが来ず、「厳粛に」と但し書きのついた重々しい楽章(これには作曲前の9月にシューマンがケルンの大聖堂を訪れてミサに列席した体験が反映されているのではないか、と言われている)が続く。この第4楽章は最後の第5楽章の序奏のごときものだと見てよかろう。というのも、前者の響きは変ホ短調でありながら楽譜の調号は後者と同じ変ホ長調で記されており、つまりは両者が一繋がりであって、音楽の解決が「生き生きと」と記された後者でもたらされていると考えられ(感じられ)るからだ(この2つの楽章の関係は先の『マンフレッド』の序曲と終曲結尾の関係と同じである)。それにしてもこの何とも喜ばしい交響曲を書いたおよそ3年後、作曲者が(大事には至らなかったものの)「ライン」川に身を投じることになろうとは……。
 
作曲年代 1850年
初  演
1851年2月6日。作曲者指揮。デュッセルドルフ:ガイスラーシャー・ザールにて。
 
 
楽器編成
フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、弦5部
 
 
曲目解説:(C) 大久保 賢無断転載を禁ずる)
歌詞対訳:(C) 三ヶ尻 正無断転載を禁ずる)

 

川瀬賢太郎写真(C)Yoshinori Kurosawa
 

 

 

 

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