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2019年度 名曲コンサート 曲目解説

 
 
第108回名曲コンサート   11月2日(土)
柴田 真郁
キム・ヒョンジュン

 
北の大地からの響き
 
2019年11月2日(土)
昼の部 13時30分/夜の部 17時00分 開演
 
 
ミハイル・グリンカ(1804-1857)
歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲
 
 グリンカは「ロシア国民楽派の創始者」とも「ロシア音楽の父」ともいわれる。最初の国民オペラ《イワン・スサーニン》(1836)に続くオペラ第2作《ルスランとリュドミラ》は、騎士ルスランが遍歴の末、悪魔チェルノモルに誘拐されたリュドミラ姫を救出するというお伽噺である。グリンカは苦心して6年後の1842年4月に完成し、12月に初演した。その音楽は東洋風旋律を導入し、民族色豊かで斬新なものであり、また台本も混乱していたので、初演は不評に終わった。しかしロシア音楽史上で画期的な一歩を踏み出したことは間違いない。オペラ全曲は滅多に上演されないが、この《ルスラン》序曲のみがオーケストラのレパートリーに定着している。
 序曲の全体は簡潔なソナタ形式で構成される。和音と音階走句の序奏、軽快な第1主題、優美な第2主題の3つの要素だけで組み立てられる。ルスランのアリアから取られた第2主題の後はすぐに展開部となる。終結部(コーダ)では第1主題のバスに不気味な全音音階の下降音形(悪魔チェルノモルを象徴するモティーフ)が現れる。
 
作曲年代 1838年~1842年4月
初  演 1842年12月10日、ペテルブルク
楽器編成 フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、弦5部
 
 
エドヴァルド・グリーグ(1843-1907)
ピアノ協奏曲 イ短調 作品16
 
 グリーグは北欧ノルウェーの国民楽派の第一人者であり、彼の劇音楽《ペール・ギュント》は世界中で愛されている。グリーグはフィヨルドの町ベルゲンで生まれ、15歳でドイツのライプチヒ音楽院に留学する。卒業後、23歳で首都クリスチャニア(オスロ)のフィルハーモニーの指揮者となり、翌年ニーナ・ハーゲロップと結婚した。翌1868年夏の休暇はデンマーク、コペンハーゲン郊外で過ごし、ピアノ協奏曲の作曲に没頭した。そして次の年4月にノルウェーのピアニスト、ネウパルトの独奏で初演された。1870年にはグリーグはローマに滞在していたリストを訪ね、リストはこの難しい協奏曲を初見で弾きこなして、作曲者を驚かせた。リストは協奏曲の独創性とノルウェー風の音調に感嘆して、グリーグを大いに励ました。
 グリーグの唯一のピアノ協奏曲は、シューマンの同じイ短調のピアノ協奏曲から強い影響を受けている。グリーグが音楽院時代にクララ・シューマン独奏で聴いたその曲に感銘を受けたのは確かである。しかし模倣とか亜流というよくある評価は全く見当外れである。この曲は、豊かで魅力的な楽想に溢れ、グリーグ25歳の若々しく瑞々しい感性が隅々まで光った傑作であり、ロマン派を代表する優れたピアノ協奏曲である。

 
第1楽章 : イ短調、ソナタ形式。ピアノの華麗な独奏で始まる。冒頭の二度下行して三度下行する音型は、ノルウェー民謡によくあるもので、グリーグが好んで用いる素材である。第1主題もノルウェー風の鄙びた旋律で始まり、紡ぎ出しは豊かな情感が溢れる。激しく高揚する結尾楽句に続いて、展開部はテンポを落として、フルート独奏で始まる。再現部の終わりには大規模できらびやかなカデンツァが付く。
 
第2楽章 : 変ニ長調、三部形式。主部は弱音器付の弦楽で奏される甘美な旋律。中間部ではピアノが流麗な歌で透明な叙情を響かせる。
 
第3楽章 : イ短調、ロンド・ソナタ形式。ABACABA。ロンド主題Aは行進曲風の旋律で、2拍子のノルウェー舞曲ハリングを想起させる。挿入句Bはピアノの強力な和音で始まる。挿入句C(中間部)は、フルートの美しいモノローグが印象的だ。再現部のカデンツァの後は、テンポが速まり、3拍子のコーダとなる。ここで頻繁に現れる非和声音(嬰ト音ではなくト音)はノルウェー風とリストが激賞した響きである。最後は中間部の旋律で大いに高揚し、ヴィルトゥオーソ風のピアノで華やかに曲を終える。
 
作曲年代 1868年夏
初  演 1869年4月3日、エドゥムント・ネウパルトの独奏、コペンハーゲン
楽器編成 独奏ピアノ、フルート2(1名はピッコロ持ち替え)、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、弦5部
 
 
ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(1840-1893)
交響曲 第4番 ヘ短調 作品36
 
 交響曲第4番の成立には二人の女性が深く関わっている。一人はチャイコフスキー(1840-1893)の生涯のパトロンとなるナデージダ・フォン・メック。メック夫人はロシアの鉄道王の未亡人で超大富豪、チャイコフスキーの音楽を心から愛していた。1876年12月18日夫人からの賛辞の手紙と作曲家の返信から、以後1200通余りの文通が始まる。1877年5月にはメック夫人に捧げるべく交響曲第4番に着手する。
 作曲は順調に進まなかった。かつての弟子アントニーナ・ミリュコーヴァから熱烈なラヴレターを受け取り、押し切られて7月6日に結婚する。もともと同性愛の傾向のあったチャイコフスキーにとって、結婚生活はうまくいかなかった。それでも9月12日には交響曲の第1楽章を完成させた。アントニーナとの生活は結局破綻して、ノイローゼとなり自殺未遂に至る。9月24日ペテルブルクへ逃れ、そこで神経性の発作を起こし意識不明となる。
 10月2日に弟のアナトリーに連れられて外国に転地療養することになった。メック夫人に結婚時の1000ルーブルに続いて、旅行費用の借用を頼むと、逆に年金6000ルーブルの申し出を受ける。この後チャイコフスキーはこの多額の年金で作曲のみに専念できるようになる(因みにこの額は、音楽院教師初任給の13倍、現在の教授給料の2倍にもなる)。ドイツ、スイス、イタリアと旅行するうちに作曲意欲が戻ってきた。これまでに書いたスケッチを取り寄せ、交響曲第4番に集中し、12月26日、イタリアのサン・レモの宿で完成した。初演は1878年2月10日モスクワのロシア音楽協会演奏会、ニコライ・ルビンシュタイン指揮で大成功となった。作曲家はフィレンツェでそれを伝える電報を受け取っている。
 交響曲第4番には、この人生の危機とそれを乗り越えた体験が如実に反映されている。円熟した管弦楽法と構築法に内容の深みが加わってチャイコフスキーの最高傑作の一つとなった。

 
第1楽章 : 序奏付ソナタ形式。作曲者はメック夫人に手紙で詳細に意味内容を説明している。冒頭のファンファーレについて「運命。幸福を妨げる宿命的な運命の力であり、容赦なく常に魂を苛む運命」という。主部の物憂げな第1主題は「運命に服従し、虚しく嘆き悲しむ」様子。クラリネットで現れる第2主題では「敗北と絶望の感情はますます激しくなる。」その後半はロ長調に変わって「喜び。甘く優しい幻想が現れる。」展開部は束の間幸福となるが夢でしかなく、再び運命に追い払われる(再現部の強奏)。「人生は憂鬱な現実とはかない夢の交替にすぎない」という。劇的振幅の巨大な楽章だ。
 
第2楽章 : 三部形式。「悲哀のもう一つの側面を表現する。夕方家に一人で座っている時に取りつかれる憂鬱な気分。思い出は次々と湧き起ってくる。それは楽しいこともあれば悲しいこともある、、、」ロシア的抒情の美しい世界。
 
第3楽章 : スケルツォ、三部形式。弦楽器だけのピチカートによる主部と管楽器だけのトリオ。コーダでは両者は合体する。「特定の感情は表現されず、ほろ酔い気分の幻想の中で飛び交う気紛れなアラベスク、束の間の幻影。(トリオで)突然酔っ払いの農夫が現れ、街の歌が聞こえる。遠くで軍楽隊が通り過ぎる、、、」
 
第4楽章 : 自由なソナタ形式。激しく乱舞するような第1主題とロシア民謡「野に立つ樺の木」による第2主題。コーダで曲頭の運命のファンファーレが圧倒的な力で回帰する。「民衆のお祭り騒ぎの場面。人々の喜びの中で我を忘れそうになった瞬間に運命が現れて注意を喚起する。しかし人々は見向きもせず、素朴で力強い喜びに浸っている。人々の幸福を喜びなさい。そうすればあなたも生きていける。」壮大な内面のドラマ。
 
作曲年代 1877年5月―12月26日
初  演 1878年2月10日、ニコライ・ルビンシュタイン指揮、モスクワ
楽器編成 フルート3(1名はピッコロ持ち替え)、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、トライアングル、シンバル、大太鼓、弦5部
 
 
C) 横原千史(音楽評論家・兵庫県立大学講師)(無断転載を禁ずる)
 
 
 
柴田真郁写真(C) ai ueda
 
 
 
 
 
 
 

 

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