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第235回 定期演奏会   12月12日(木)
マリウス・ストラヴィンスキー (C)堀衛
チャン・ユジン (C)Dario Acosta

2019年12月12日(木)19時00分開演
 
 
イーゴリ・ストラヴィンスキー(1882-1971)
管楽器の交響曲(1947年改訂版)
 
━バレエ・リュスによる三大バレエ《火の鳥》(1909-10)・《ペトルーシュカ》(1910-11)・《春の祭典》(1911-13)の作曲家、イーゴリ・ストラヴィンスキー(1882-1971)。
 何十年にもわたってそのようにのみ紹介されることは、彼にとって、ともすれば屈辱だっただろう。確かにストラヴィンスキーの名はこの三作品で有名になった。これらの音楽に顕著な、劇的で描写的な表現なくしては、バレエそのものの興行的成功もなかっただろう。しかし、これらのバレエ作品の作曲を通じて、音楽において描写的にドラマを表現することへの疑念が、彼のなかで膨れ上がっていったのもまた事実だった。実際、彼は《春の祭典》以降、大きく作風を変えていく。
 1923年に、ストラヴィンスキーは、論文「私の8重奏曲についての考え」のなかで、はっきりと「音楽は音楽の問題を解決することしかできない」と述べている。《管楽器の交響曲》(1920)は、まさにこの時期に書かれた代表作の一つで、彼にとっては、生涯2度目の「交響曲」というジャンルへの挑戦となった。初の交響曲は、1905年から7年にかけて作曲された3管編成で4楽章形式の古典的なもので、師匠リムスキー=コルサコフ(1844-1908)のもとで書かれたいわゆる習作。それに対し2度目の交響曲は、もはや伝統的な枠組みにはおさまりきらないものとなった。演奏時間は10分ほどの短い単一楽章で、楽器編成は管楽器のみの3管編成。先述の論文でストラヴィンスキーは、音楽は客観主義的な芸術であるべきだと主張し、「形式の確かな厳格さを表すのによりふさわしい」のは、「管楽器群だ」と結論付けている。
 こうして彼はこの作品で、一定の音程幅を保ちつつ、本質的に相容れない和音を同時に置き、あるいはまったく対等な関係で複数の旋律を並置させることで、客観主義たる音楽表現を模索した。そこには《春の祭典》で聴かれたようなドラマはなく、管楽器がまさに「共に(sym)鳴り響く(phony)」ことで形成された、混じり気のない純粋な音響帯となった。
 
   作曲年代 1920年
 初  演 1921年6月10日。セルゲイ・クーセヴィツキー指揮。ロンドン、クィーンズ・ホールにて。
 楽器編成
【1947年改訂版】フルート3、オーボエ2、イングリッシュホルン、クラリネット3、ファゴット3(うち1名はコントラ・ファゴット持ち替え)、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ
 
 
イーゴリ・ストラヴィンスキー(1882-1971)
バレエ音楽「ミュ-ズを率いるアポロ」
 
 《管楽器の交響曲》で管楽器の硬質な響きに目覚めたものの、ストラヴィンスキーは自らの音響世界から弦楽器を追放したわけではなかった。客観主義的音楽に弦楽器は向かないと考えていたにもかかわらず、1927年にアメリカ議会図書館より委嘱された新しいバレエ音楽に、《ミューズを率いるアポロ》(1927-28)という題を与え、敢えて弦楽アンサンブルのみの編成で作曲したのである。
 「アポロ」とは、ギリシャ神話に登場する光明・医療・音楽を司る神の名。彼に仕える9人のミューズたちが司るものの総称である「ムーシケ(μουσικη)」は、今日の「音楽(music)」の語源だと言われている。ストラヴィンスキーは、のちに『音楽の詩学』(1939-40)のなかで、「作品の透明な秩序にとって━作品の結晶化にとって━重要なのは、芸術家の創造力を揺さぶり、活力を上昇させるディオニュソス的要素が、私たちをすっかり魅了してしまう前に、それらを征服しなければならない、ということだ。最終的には、それらを法則に従わせる必要がある。つまり、まさにアポロンが法を命じるのである」と述べた。この文章は、ストラヴィンスキーが感じていた、弦楽器の音色がもつ特有のディオニュソス的恍惚を、自らの作曲「法」によって断ち切り、理性的な音楽に仕上げたことを示唆している。
 〈アポロの誕生〉は、ゆっくりとした付点付きリズムによる荘厳な響きで始まる。ヴァイオリン・ソロで開始する〈アポロの変奏曲〉は、3人のミューズの登場シーンで、後打ちの音型が象徴的に舞踊の概念を描いていよう。〈パ・ダクシオン〉は、規則正しい拍節による踊り。以降、それぞれのミューズのための場面が続く。叙事詩を司るミューズのための〈カリオペの変奏曲〉では、中間部に雄弁なチェロのソロが組み込まれる。歌のミューズのための〈ポリヒュムニアの変奏曲〉は、無窮動の音楽。合唱と舞踊のミューズのための〈テレプシコラの変奏曲〉には、アポロの崇高さを模倣するような付点付きのリズムがちりばめられている。もっとも威厳に満ちた〈アポロの変奏曲〉を経て、〈パ・ドゥ・ドゥ〉は、アポロとテレプシコラのデュオとなる。華やかな〈コーダ〉は、バレエ本編の最終場を飾る音楽。〈アポテオーズ〉は、バレエではしばしば最後に設けられる大団円。元来「アポテオーズ」とは、「神(théos)」に由来し、「神格化」との意味ももつ。この作品の最後は斬新で、聖なるものが消えていくかのように静かに終わる。
 
   作曲年代 1927-28年
 初  演
1928年4月27日。ハンス・キンドラー指揮。ワシントンD.C.、議会図書館にて。
 楽器編成
弦6部(第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、第1チェロ、第2チェロ、コントラバス)
 
 
イーゴリ・ストラヴィンスキー(1882-1971)
ヴァイオリン協奏曲 二調
 
 20年代から30年代にかけてストラヴィンスキーは、楽器法の研究を兼ねて、未知のジャンルへ徐々に手を広げていったが、比較的後回しになっていたのが弦楽器だった。《ミューズを率いるアポロ》を弦楽アンサンブルで書くも、そのなかの長めのヴァイオリン・ソロは作曲家の手を煩わせたようだ。ポーランド出身のヴァイオリニストのサミュエル・ドゥシュキン(1891-1976)から《ヴァイオリン協奏曲》(1930-31)の作品の依頼を受けたときには、まだこの楽器が自分の手の内に入っていなかったことを、ストラヴィンスキーはのちに告白している。初めてドゥシュキンに会ったとき、ストラヴィンスキーがレストランのペーパー・ナプキンに3つの音から成る重音を書いて、弾けるかどうかをドゥシュキンに尋ねたというエピソードが残っているが、こうした具体的なやりとりを経て、念願の《ヴァイオリン協奏曲》は書き上げられた。4楽章から成るこの協奏曲の各楽章の冒頭は共通して、そのペーパー・ナプキンに書かれた重音で始まる。
 第1楽章〈トッカータ〉は、快活な行進曲調の音楽。オーケストラ内の楽器一つ一つがカラフルな音色で際立っており、大きめの室内楽作品のような作りになっている。交わる楽器のなかを、ソリストが進んでいくかのような印象を与える。
 第2楽章〈アリアI〉は、短調の儚い歌で始まる。断片化された旋律線が繊細に繋がれながら、一つの立体像を織り成していく。
 深い精神的領域へ踏み込んだかのような第3楽章〈アリアII〉。メリスマの強いヴァイオリン・ソロから、秘めた情熱が垣間見える。
 第4楽章〈カプリッチョ〉では、おどけたフレーズ、変則的なリズムの遊び、空間を飛び交う楽器の対話など、「気まぐれさ(カプリッチョ)」があちらこちらで顔を見せる。ヴァイオリン・ソロも変幻自在に仮面を取り替え、主役としての豊かさを演出する。
 
   作曲年代 1930-31年
 初  演 1931年10月23日。イーゴリ・ストラヴィンスキー指揮、サミュエル・ドゥシュキンのヴァイオリン・ソロ。ベルリン放送交響楽団によるラジオ放送にて。
 楽器編成
独奏ヴァイオリン、フルート2、ピッコロ、オーボエ2、イングリッシュホルン、小クラリネット、クラリネット2、ファゴット3(うち1名はコントラ・ファゴット持ち替え)、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、
バス・テューバ、ティンパニ、大太鼓、弦5部
 
 
イーゴリ・ストラヴィンスキー(1882-1971)
バレエ組曲「火の鳥」(1919年版)
 
 「火の鳥」は、ストラヴィンスキーのヨーロッパ・デビュー作であると同時に、バレエ・リュスがすべてを新しく委嘱して作った最初のバレエ作品でもある。異国趣味が流行していたパリで、興行主ディアギレフ(1872-1929)は、「ロシア的なるもの」を題材にして人々の関心を引くことを狙った。台本は、ロシア民話をいくつか組み合わせたもので、魔王カッシェイに囚われていた13人の乙女たちのうちの一人ツァレヴナ姫に恋をしたイワン王子が、火の鳥の助けを得てカッシェイを打倒し、姫を救い出すという物語である。ディアギレフは、初め、この作品の作曲家としてアナトーリ・リャードフ(1855-1914)を起用していたのだが、彼の筆が一向に進まなかったため、ストラヴィンスキーに貴重なチャンスが回ってきた。ロシアの旧態依然とした音楽界に辟易し、パリへの進出を強く望んでいたストラヴィンスキーにとっては、絶妙なタイミングだったに違いない。初演は大成功を施し、彼の名は一夜にしてヨーロッパ中に知れ渡ることとなる。
 《バレエ組曲「火の鳥」》は、もともと4管編成だったバレエ音楽から7つの場面が抜粋され、2管編成に圧縮されたもの。この「1919年版」の前に「1911年版」の組曲が作られたが、そちらは4管編成のままで、5場面のみの抜粋、且つ最後がハッピーエンドで終わらないものだった。それらの欠点をすべて補った「1919年版」は、一連の《火の鳥》(2管編成で、より長い「1945年版」もある)のなかで、今日もっとも演奏頻度が高い。
 〈序曲〉では、魔王カッシェイの城のある夜の情景が不気味に描かれる。
 〈火の鳥とその踊り〉と続く〈火の鳥の変奏曲〉では、飛び回る火の鳥をイワン王子が追いかける。
 〈ロンド(ホロヴォード)〉は、囚われの王女たちが輪になって踊る場面。ここで王子はツァレヴナ姫に心を奪われる。オーボエの美しい旋律は、ロシア民謡からの引用である。
 〈カッシェイ王の邪悪な踊り〉では、火の鳥の魔法によって、カッシェイの一党が踊り狂う。
 〈子守歌〉を聞きながら、踊り疲れたカッシェイたちは眠ってしまう。
 穏やかなホルンのソロで始まる〈フィナーレ〉で、カッシェイの魔法が消滅し、王子と姫は結ばれる。
 
   作曲年代 1919年
 初  演
1919年4月12日。エルネスト・アンセルメ指揮。ジュネーヴ、ヴィクトリア・ホールにて。
 楽器編成
フルート2(うち1名はピッコロ持ち替え)、オーボエ2(うち1名はイングリッシュホルン持ち替え)、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、大太鼓、タンブリン、シンバル、トライアングル、シロフォン、ハープ、ピアノ、チェレスタ、弦5部

 
(C)池原 舞(音楽学)(無断転載を禁じる)
 
 
 
   
 
 
 
                                     
 
 
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