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第234回 定期演奏会   11月21日(木)
外山 雄三
森下 幸路

 
2019年11月21日(木)19時00分開演 
 
 
ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(1840-1893)
幻想的序曲「ロメオとジュリエット」
 
 19世紀ロシア音楽といえば、民族主義や標題音楽を追求したロシア五人組と、西欧的なアカデミズムを信奉した西欧派との対立を軸に説明されることが多い。ペテルブルク音楽院で学び、卒業直後からモスクワ音楽院に就職したチャイコフスキーは、当然、後者の代表格と目されているが、実際には大いに違っていた。とりわけ五人組の指導者ミリイ・バラキレフは若きチャイコフスキーと頻繁に交流し、後年まで創作上の助言を与えた。《ロメオとジュリエット》も、バラキレフ自身がチャイコフスキーに標題を提案し、主題素材やその調まで助言している。その影響の下、チャイコフスキーはこの曲の初稿を1869年に完成したが、この曲を献呈したバラキレフからの細かな助言を受けて70年に改訂、さらに80年にも再改訂した。その結果、序奏とコーダの主題と、それに関連する展開部が大々的に変更されたが、他方、甘美な愛の主題はほぼ不変であり、若きチャイコフスキーの才能の充溢が実感される。
 全体は3つの主題によるソナタ形式であり、それぞれの主題が戯曲の主要な契機に対応する個性的な性格をもつのが特徴だ(冒頭のコラール的な序奏=修道士ロレンス、激しいアレグロの第1主題=モンタギュー家とキャプレット家の対立、叙情的な変ニ長調の第2主題=二人の愛)。特にコールアングレとヴィオラが奏する第2主題の官能性と、ハープと弦の揺れ動く和声は若き恋人たちの夜に相応しい。
 展開部は、序奏と第1主題の動機やリズムが徹底的に活用され、荒々しい勢いのまま再現部に突入するが、それにも増して第2主題が情熱的に歌い上げられる。葬送行進を経てロ長調で再現される第2主題のコーダは、チャイコフスキー的な“愛と死”の世界だ。
 
●作曲年代 1869年(第1稿)、1870年(改訂)、1880年(再改訂)。
●初  演
1870年3月4日、ニコライ・ルビンシュタイン指揮、ロシア音楽協会モスクワ支部第8回管弦楽演奏会(第1稿)、モスクワにて。
●楽器編成
フルート2、ピッコロ、オーボエ2、イングリッシュ・ホルン、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、シンバル、大太鼓、ハープ、弦5部
 
(C)  千葉 潤(音楽学・ロシア音楽)(無断転載を禁じる)
 
 
外山 雄三(1931-)
バレエ音楽「お夏、清十郎」より “パ・ド・ドゥ”
 
「お夏、清十郎」は東京シティ・バレエ団が昭和50年度文化庁芸術祭参加作品“邦人の作曲による日本創作バレエの夕べ”で初演された。当時、親しく仕事をしていた劇団「仲間」の演出家、中村俊一の台本・演出。振り付けは日本創作バレエの第一人者であり、東京シティ・バレエ団を率いていた石田種生。彼とは「仲間」の芝居を通して親しくなった。演劇、オペラ、バレエ、日本舞踊でひとつの舞台を作り上げる、という新しい試みであった。中村が理詰めな組み立てで演出プランを隙のないものにしたのに対して、石田は豊かな感覚を駆使して自由な舞台を作っているように私には見えた。この微妙なバランスがスケールの大きな舞台を生み出し、私たち音楽家も快い緊張の中で自分たちの力を発揮する喜びを味わったと記憶している。今回はこの作品の中からお夏と清十郎の Pas du deuxのみの演奏である。
 
●作曲年代 1975年
●初  演
1975年11月19日 虎ノ門ホ-ル『東京シティバレエ団第6回公演』
●楽器編成
尺八(本日はフル-トで代奏)、打楽器、和楽器(本日は一部を代奏)、弦5部
 
(C)  外山雄三(無断転載を禁じる)
 
 
外山 雄三(1931-)
ヴァイオリン協奏曲 第2番 作品60
 
 今年米寿を迎え、日本指揮界の大ヴェテランである外山雄三(1931-)だが、創作活動も活発であり、本年2月の大阪交響楽団による《交響曲》初演が記憶に新しい。彼の創作ジャンルの中心である交響曲や交響詩は、多くが作曲契機になった日本各地の地名をタイトルとしている。外山の出世作《管弦楽のためのラプソディー》(1960)が、「あんだがたどこさ」「そうらん節」「炭坑節」を引用していたように、“作曲家・外山雄三”は、本来は異質な文化どうしである日本の伝統音楽と、西欧オーケストラ音楽との対立をいかに解決し統合していくか、という日本の洋楽固有の問題に、長年にわたって取り組み続けてきた。
 外山の初期の代表作の一つ《ヴァイオリン協奏曲第1番》(1963、尾高賞受賞)や、《ヴァイオリン・ソナタ》(1964)もこうした探究の成果であり、《ヴァイオリン協奏曲第2番》(1966)は、後者を協奏曲に改編した作品である。しかし外山自身の言葉によれば、それは“ピアノ部分の置き換えではなく、逆にソナタのピアノパートの発想の根源に、オーケストラの響きがあった”という。全体は伝統的な3楽章制だが、終楽章は日本的情緒に溢れたレントの緩徐楽章と、急速なコーダからなる。

 第1楽章、アレグロ・モデラート、4分の4拍子。短い序奏の後、ヴァイオリン独奏が第1主題を提示する。西洋風の和音と、そこから逸脱する野性的な旋律との衝突が印象的だ。ハープの和音を背景にした第2主題は、より一層民謡風の節まわしをもつ。

 第2楽章、プレスト・スケルツァンド、4分の3拍子。ハープとクラリネットの反復句を軸にして、ヴァイオリン独奏が無窮動的パッセージを奏しつづけ、時折、わらべ歌風の2拍子の主題が重なる。中間部では対照的に、民謡調の歌が開放的に歌われる。

 第3楽章、レント・アッサイ~アレグロ・モルト、4分の4拍子。落ち着いたノクターン風の和声に支えられて、ヴァイオリン独奏がピチカートで三味線風の響きを醸しだし、つづいて第1楽章と関連した主題を歌い継いでいく。すると突然、第2楽章のアレグロの音楽に変わり、最後に第1楽章第1主題が堂々と再現され、畳み掛けるように結ばれる。
 
●作曲年代 1964(ソナタ)/66年(協奏曲)
●初  演
1966年12月10日、東京にて。海野義雄のヴァイオリン独奏、外山雄三指揮、東京フィルハーモニー交響楽団
●楽器編成
独奏ヴァイオリン、フルート2、ピッコロ、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、シンバル、トライアングル、グロッケンシュピール、ハープ、弦5部
 
(C)  千葉 潤(音楽学・ロシア音楽)(無断転載を禁じる)
 
 
ドミートリイ・ショスタコーヴィチ(1906-1975)
交響曲 第15番 イ長調 作品141
 
 長らくソ連音楽をリードしてきたショスタコーヴィチだが、1966年(60歳)に心筋梗塞で倒れて以後、その創作活動は大きな転換期を迎える。相変わらず対外的なソ連の“顔”としての公務をこなしつつも、体力は確実に衰え、創作のペースも落ちていく。他方、西欧の前衛音楽を吸収した次世代の作曲家たちは、従来の社会主義リアリズムとは全く異なる、新しいロシア音楽の地平を開拓しつつあった。人生と創作の終焉、世代交代の波を否応なく意識しつつ、晩年のショスタコーヴィチは、禁じられた12音まで駆使しながら、自分自身の人生と芸術の集大成にふさわしい孤高の世界へと入っていく。
 1971年に作曲された交響曲第15番は、第10番以来18年ぶりに、標題や歌詞を用いずに古典的な交響曲様式に回帰した作品であり、全体は、ショスタコーヴィチの交響曲創作全体への回顧的な要素に溢れている。他方、それと対照をなすのが、有名作品からの引用と随所に現れる12音主題であり、いわば、異質な引用素材や無機的な響きに取り囲まれることで、ショスタコーヴィチのかつての表現語彙が新たな意味や表情を獲得している。
 
 第1楽章は、交響曲というよりも協奏曲のようであり、随所でショスタコーヴィチの自由闊達な筆致が冴えわたる。フルート独奏が提示する第1主題は、処女作である交響曲第1番冒頭の自由な逆行形だ(第2楽章末尾のチェレスタ独奏には、その原形が現れる)。
 
 第2楽章は、前楽章から一転して、沈痛な表情の緩徐楽章。重苦しい金管とチェロ独奏(12音主題)の交替は、まるでレクイエムのようであり、中間部は葬送行進曲となる。12音による謎めいた二つの和音も弔鐘のように聞こえる。
 
 第3楽章はショスタコーヴィチらしい冷笑的なスケルツォ。トリオ後半とコーダに登場する機械仕掛けの時計のような打楽器アンサンブルは、交響曲第4番やチェロ協奏曲第2番でお馴染みの手法である。
 
 第4楽章は、唐突にヴァーグナー《ニーベルングの指環》、それに《トリスタン》前奏曲の引用に導かれ、古風なロマンスのような主部に至る。中間部はショスタコーヴィチが偏愛したパッサカリアであり、その主題も交響曲第7番の“侵略の主題”に酷似している。コーダでは、最期の時を刻む打楽器を背景にこれまでの楽章の主題が次々に回想され、イ長調主和音の鐘の音が、ショスタコーヴィチ最後の交響曲に終わりを告げる。
 
●作曲年代 1971年
●初  演
1972年1月8日、マキシム・ショスタコーヴィチ指揮、全ソ連邦放送交響楽団、モスクワにて。
●楽器編成
フルート2、ピッコロ、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、大太鼓、シンバル、小太鼓、タムタム、ムチ、カスタネット、トライアングル、ウッドブロック、トムトム、グロッケンシュピール、シロフォン、ビブラフォン、弦5部

 (C)  千葉 潤(音楽学・ロシア音楽)(無断転載を禁じる)
 
 
外山雄三写真 撮影:三浦興一
 
 
 
                                   
 
 
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