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第238回 定期演奏会   2月27日(木)
外山 雄三 (C)飯島隆
 豊嶋 泰嗣(C)Michiharu Okubo     上村 昇

2020年2月27日(木)19時00分開演
 
 
  大阪交響楽団の2020年3回目の定期演奏会は、ミュージック・アドバイザーである外山雄三ならではの、ちょっとひねった興味深いプログラム。今年は誰もがご存じのようにベートーヴェンの生誕250年の記念の年に当たっている。普通ならベートーヴェン・プログラムを組んでもよさそうなものだが、そうはしないのがいかにも外山らしい。演奏会はブラームスの引き締まったシリアスな「悲劇的序曲」で始まる。しかも続く曲もブラームスで、それも彼の作品の中ではどちらかといえば渋い二重協奏曲。華やかさよりも中身の濃さに重点を置いた選曲だ。そして後半がまたひとひねり。やっとベートーヴェンが登場するが、それがベートーヴェンの交響曲としては、おそらく演奏頻度が最も少ない第2番。しかしこのひねりの効いた選択がさすがであると私は思う。ベートーヴェンの交響曲の中で、第3番「英雄」という画期的な名曲の前に書かれたという不運もあって、確かに演奏頻度も知名度も一番低いが、この曲の充実ぶりたるや、実は次の「英雄」に迫るものがあり、私はその価値がもっと見直されるべきだと思っている。まさに知る人ぞ知る傑作なのだ。外山は生誕250年だからこそこの曲を聴かせたいと思ったのだろう。それでは早速、外山の慧眼に満ちたプログラミングの妙をたっぷりと味わうことにしよう。
 
 
ヨハネス・ブラームス(1833-1897)
悲劇的序曲 作品81
 
 ブラームスには、交響曲や協奏曲を除けば、いわゆる純粋の管弦楽作品と呼ばれるものは、わずか5曲しか残されていない。ブラームスが1886年になっても、「扱い方をよく知らず、いつも頭の中でその音を想像するしかない楽器のために作曲するのは難しい」とクララに語っていたと伝えられているように、管弦楽を用いて作曲することに極めて慎重であった。そのことを考えれば、数が少ないのも当然の結果といえるかもしれない。
 この曲は、実はいかにもブラームスらしい面白い経緯で世に出た。すでに交響曲第1番や第2番も世に問い、大家としての地位を完全に確立していた彼は、1879年3月にブレスラウ大学から名誉哲学博士の称号を授与される。称号授与に対する返礼として、彼は非常に快活な性格を持つ《大学祝典序曲》と名付けられた序曲を作曲した。ところがこの時同時に、どこから依頼されたわけでもないのに、極めて渋く翳りを帯びた表情を持つ、前曲とは対照的な性格の作品を同じ避暑地イシュルで作曲したのである。ブラームスは作曲後に友人のジムロックに宛てた手紙で、「非常に楽しい《大学祝典序曲》を書いた後、《悲劇的序曲》も書かないではいられなかった」と述べているように、自身の心の均衡をとるためには、翳りを帯びた性格を持つ作品を書かないで済ますことはできなかったのだ。
 曲はこうした演奏会用序曲によく用いられるソナタ形式で書かれている。全合奏による2つの和音が最強音で奏された後すぐに登場する悲劇的な第1主題と、推移を経て現れる仄明るさを感じさせる第2主題の二つの主題を中心にソナタ形式が展開される。悲劇的とは名付けられているものの、決して弱々しい悲しみの音楽というわけではなく、むしろ劇的な性格を持ったシリアスな作品といった方がよいかもしれない。
  
   作曲年代 1880年
 初  演 1880年12月26日。ハンス・リヒター指揮ウィーン・フィルで。ウィーン楽友協会大ホールにて
 楽器編成
ピッコロ、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、弦5部
 
 
ヨハネス・ブラームス(1833-1897)
ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲 イ短調 作品102
 
 ブラームスがどれほどチェロの扱いに長けていたかは、数多く残された室内楽作品やピアノ協奏曲第2番のアンダンテ楽章における美しいチェロ・ソロ、さらには交響的作品におけるチェロ声部の美しさ(例えば交響曲第3番の第3楽章)を聴けば直ちに了解される。だから彼がチェロ協奏曲を書かなかったのは非常に残念だが、それはただ機会が訪れなかったからに過ぎない。その意味で物事、「出会い」がなければ何も始まらないのだ。
 逆にこの二重協奏曲の誕生にはある機縁がある。それはブラームスの長年の親友ヨアヒムとの関係悪化である。彼は親友ヨアヒムの離婚問題に絡んで、その夫人のアマーリエとの仲を疑われたのだ。クララ・シューマンによると、この協奏曲は、そんな中で「和解の協奏曲」として作曲されたというのだ。独奏ヴァイオリンをアマーリエ、独奏チェロをヨアヒムに見立て、ヨアヒム夫妻、さらにはブラームスとヨアヒムの和解がこの曲によってもたらされたと見なしたのだ。19世紀にはすでに珍しい形態となっていた二つの独奏部を持つ二重協奏曲というスタイルを敢えて採用したこと、1887年10月にケルンで行われた初演では、ヨアヒムのヴァイオリン、ハウスマンのチェロ、ブラームスの指揮によって行われたことなどを考え合わせるとクララの解釈もまんざら単なる思い込みではないかもしれない。
 曲はバロックの合奏協奏曲のような懐古的な形態によったためか、響きも含めてやや古風なもの。第1楽章はオーケストラによる提示部につづいて、独奏楽器による提示部、さらに第1主題を中心に二つの楽器の技巧的なパッセージが展開される展開部、そして再現部を経てコーダでもって曲を閉じる、いわゆる協奏風ソナタ形式による楽章。3部形式の緩徐楽章である第2楽章で特筆すべきは、中間部分における二つのソロ楽器の絡みの非常な美しさ。第1楽章での二つのソロ楽器の激しい掛け合いを思えば、互いに争っていた夫妻や関係の悪化していたブラームスとヨアヒムがここで対話を始め、二つのソロ楽器が大活躍する、軽快で力強いロンド(ソナタ)形式による第3楽章で、「和解」のデュオを展開すると読み取れないこともない。いずれにせよ、古風な中にも、ブラームスらしい渋さや重厚さ、ノスタルジックな歌、それにロマン派らしい物語性が詰まった名曲である。
 
   作曲年代 1887年
 初  演
1887年10月18日、ブラームス指揮、ヨーゼフ・ヨアヒム(ヴァイオリン独奏)ローベルト・ハウスマン(チェロ独奏)ケルンにて
 楽器編成 独奏ヴァイオリン、独奏チェロ、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、ティンパニ、弦5部
 
 
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827)
交響曲 第2番 ニ長調 作品36
 
 それぞれ3桁(104曲超)や2桁(41曲超)もの交響曲を残したハイドン、モーツァルトの先輩二人に比べて、ベートーヴェンは交響曲をわずか9曲しか残さなかった。しかしそれは彼に才能が無かったからではない。先輩二人との間に、音楽の享受や作曲についての考え方に大きな変化が起こっていたからなのである。ベートーヴェンにおいては、1800年(30歳)以降の作品は、どれもが単なる消費のための音楽ではなく、作曲家自身の骨身を削って創作される芸術作品となった。つまり何度も演奏されたり、未来へと伝えられたりしていくことが意図されたため、彫琢に彫琢を施した結果、量産が抑えられることになったのだ。
 1802年10月に完成された交響曲第2番は、ベートーヴェンの交響曲の中では一番演奏頻度の少ない作品である。しかし作曲家にとって極めて重要な意味を持つ第1番を発表した後、いよいよ自らの世界を高らかに打ち出し始めたこの作品の意味を見過ごすわけにはいかない。1802年10月といえば、ベートーヴェンの聴覚の異常が隠し切れない状態になり、それに対する絶望や失恋の痛手から「ハイリゲンシュタットの遺書」を書いた頃に当たっている。しかし作品にはそうした不幸の影はほとんど見られず、極めて充実した輝きと情熱に満ち、次の交響曲第3番「英雄」にも通ずる表現力や創意の豊かさには驚くばかりなのだ。
 小節数で比べても、交響曲第1番の約3倍の長さをもつソナタ形式による第1楽章の堂々としたたたずまい。やはりソナタ形式による緩徐楽章の第2楽章における情緒表現の深まり、スケルツォを初めて採用することによって、より精神的な重みを増した第3楽章、ここでもソナタ形式を用いて、作品全体の構築性を高めた第4楽章。いずれにせよ、ベートーヴェンはこの曲をもって、伝統にのみ捉われず、自らの個性を積極的に打ち出す方向へと大きな一歩を踏み出したのであった。
 
   作曲年代 1800年~1802年
 初  演 1803年4月5日、ベートーヴェン指揮、アン・デア・ウィーン劇場にて
 楽器編成
フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニ、弦5部
 
 
(C)中村 孝義(大阪音楽大学名誉教授・音楽学)(無断転載を禁じる)
 
 
   
 
 
 
                                     
 
 
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