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第237回 定期演奏会   2月7日(金)
トーマス・ザンデルリンク

2020年2月7日(金)19時00分開演
 
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827)
交響曲 第4番 変ロ長調 作品60
 
 シューマンがこの交響曲を“2人の北欧の巨人に挟まれた清楚可憐なギリシャの乙女”と評したことは有名だが、この喩えは、控えめな規模と叙情性というこの曲の一面しか捉えていない。たしかに、“英雄”や“運命”のような超越的な理念はもたないが、開放的なオーケストラの扱いや、生き生きしたリズムや和音のコントラストが生み出す躍動性は紛れもなく“傑作の森”時代に相応しく、“田園”や第8番等、ベートーヴェンの偶数系列の交響曲の先駆的な作品であろう。
 第1楽章 : 【序奏】アダージョ、4分の4拍子、【主部】アレグロ・ヴィヴァーチェ、変ロ長調、2分の2拍子、ソナタ形式。冒頭において全曲を一貫する音楽的アイデアを提示する手法は、この曲でも変わらない。序奏の陰鬱な短調の響きから、勢いのある上行音型に導かれて、抑えていた喜びが爆発するかのようにアレグロ主部が開始されるように、長調/短調の対比は随所でエネルギーを生み出す源となる。展開部後半から再現部が導き出される長く劇的なクレッシェンドはその一番の聴きどころである。
 第2楽章 : アダージョ、変ホ長調、4分の3拍子、ソナタ形式に準じた構成をもつが、展開部は置かず主題の変奏が変化を生み出す。多様性に富んだオーケストラ書法や、各楽器の独奏の扱いなど、交響曲を聴く楽しさが満喫できる楽章だ。
 第3楽章 : 【主部】アレグロ・モルト・エ・ヴィヴァーチェ、変ロ長調、4分の3拍子、【トリオ】ウン・ポコ・メノ・アレグロ。これまでは“メヌエット”と表記されてきたが、実際にはスケルツォに近く(今回の演奏も「ベーレンライター版」に従い、メヌエットとは表記していない)、3拍子に2拍子を掛け合わせるシンコペーションのリズムや、長調/短調の対比がつよい推進力を生み出す。
 第4楽章 : アレグロ・マ・ノン・トロッポ、変ロ長調、4分の2拍子、ソナタ形式。強弱、リズム、長短調などあらゆる要素の対比のエネルギーが最大限に駆使される、ベートーヴェンならではの躍動的なフィナーレ。再現部では、素早いパッセージを任されるファゴットやクラリネットの名人芸も聴きものだ。
 
   作曲年代 1806年
 初  演 1807年3月、ロプコヴィツ伯爵邸での演奏会、ウィーンにて。
 楽器編成
フルート、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニ、弦5部
 
 
ドミートリイ・ショスタコーヴィチ(1906-1975)
交響曲 第10番 ホ短調 作品93
 
 1953年3月5日、奇しくもプロコフィエフと同日にスターリンが死去する。厳しい批判を浴びた前作第9番から8年を経て、ショスタコーヴィチが満を持して発表したのが、交響曲第10番である。この年12月の初演は、長らく停滞したソ連作曲界にとって、創作上の“雪どけ”に向けての決定的な一歩となり、第5番によって確立されたショスタコーヴィチの純器楽的な交響曲シリーズは、この曲で頂点を極めることになった。
 とはいえ、近年の研究は、第10番がスターリンの死によって初めて着想されたわけではなく、長い雌伏の時を経ていたことを明らかにしつつある。例えば、1945年初頭に書かれたと推測される交響曲第9番第1楽章の初稿の一部は(2003年に発見された未完成の断章)、その後完成された交響曲第9番よりも、むしろ第10番の第1楽章第2主題に酷似している。また45年6月に着手し、その後放棄された《ヴァイオリン・ソナタト短調》にも、第1楽章の序奏や第1主題によく似た音型が登場するのである。1947年6月、ショスタコーヴィチが友人の作曲家カラ・カラーエフに宛てた手紙の一節は、この推測を裏付けるものだ。“交響曲第7番と第8番が、私にとって3番目の交響三部作を成していると申し上げてきました。しかし第9番はその終結部ではありません。第10番がそうなることを願っています。”
 一方、この交響曲は自伝的な要素を含んでいることでも知られる。この曲の第3楽章に、ショスタコーヴィチのドイツ語の音名象徴「D-S(Es)-C-H(レ-ミ♭-ド-シ)」のみならず、かつての音楽院の教え子であり、この時期、親密な関係にあった女性エリミーラ・ナジーロヴァの音名象徴「E-L(a)-Mi-R(e)-A(ミ-ラ-ミ-レ-ラ)」が現れて、主題展開されるのである。彼女宛ての手紙でショスタコーヴィチは、この主題が敬愛するマーラーの交響曲《大地の歌》の冒頭主題に類似していること、そしてこのマーラーの主題(野猿の叫びの模倣といわれる)が死や別離を意味する不幸の象徴であることを説明しているが、まさにその言葉を裏書きするように、この楽章の展開部は二つの音名象徴によって演じられる壮絶な悲劇となるのである。
 しかしながら、この交響曲の意味が作曲家の私小説的な内容に還元されることはあり得ない。ショスタコーヴィチの交響曲が、しばしば“国民の秘密の日記”に喩えられる通り、謎めいた暗示や象徴をもつ第10番は、現実世界をありありと連想させる音楽語法や(ショスタコーヴィチは生涯にわたって映画音楽を作曲した)、完璧な論理的構造に媒介されて、私的な次元をはるかに超えた意味の広がりを達成している。この作品以降、ショスタコーヴィチがこのような様式に戻ることはなかった。抑圧的な体制の下で、時代と個人の真実を体現してきたショスタコーヴィチの交響曲創作は、その体制の終焉と共に転機を迎えるのである。
 第1楽章 : モデラート、ホ短調、4分の3拍子、一貫して中庸なテンポによるソナタ形式。謎めいた性格の序奏主題、クラリネットによって歌われる叙情的な第1主題、拍子のずれたワルツのような第2主題、以上の3つの主題が、792小節にも及ぶ長大な楽章を途切れることのない緊張の糸で貫徹する。特筆されるのは、“主題の野蛮化”とも呼ばれるショスタコーヴィチ独自の主題性格の極端な変容であり、主題再現を兼ねた悲劇的クライマックスに向けて、有無を言わせず着実に展開が積み重ねられていく。
 第2楽章 : アレグロ、変ロ短調、4分の2拍子、前楽章とは対照的に、疾風怒濤のように走り抜けるスケルツォ。冒頭のスケルツォ主題は、為政者の悲劇を描くムソルグスキイの歴史オペラ《ボリス・ゴドゥノフ》の序奏に類似しているが、中間部のクライマックス(同じくムソルグスキイの《はげ山の一夜》に類似)でトロンボーンによって再現される様は、まさに“主題の野蛮化”の極致といえよう。
 第3楽章 : アレグレット、ハ短調、4分の3拍子、中間部に激しい展開部をもつロンド・ソナタ形式。冒頭のロンド主題は第1楽章序奏に由来し、ショスタコーヴィチの音名象徴が原調で登場する舞曲風のエピソードを挟んで再帰する。前述の通り、エリミーラの音名象徴がホルンによって奏された後には、第1楽章の序奏自体が回想されると共に、徐々に第4楽章の主題が木管によって形成されていく。展開部は急に攻撃的な性格を帯び始め、二つの音名象徴がドラマティックに交差するが、コーダでは、マーラー《大地の歌》の最後を彷彿させる東洋的な和音を背景に、“二人”が寄り添うように楽章を結ぶ。
 第4楽章 : 【序奏】アンダンテ、8分の6拍子、ロ短調、【主部】アレグロ、4分の2拍子、ニ長調、ソナタ形式。重々しい低弦の序奏で開始されるが、手のひらを返したように、モーツァルト的な軽快さと滑稽さをあわせ持つアレグロ主部となる。展開部のクライマックスでは、第2楽章スケルツォの威嚇的な音楽が回帰するが、その流れは全オーケストラによるショスタコーヴィチの音名象徴によって圧倒される。ユーモラスなファゴットの主題再現を経て、コーダではホ長調の終止和音と衝突しながら、ホルン~トロンボーン~ティンパニによって、音名象徴が何度も連呼される。
 
   作曲年代 主要な作曲時期は1953年6月から10月にかけて。第1楽章の完成は8月5日、第4楽章の完成は10月25日。
 初  演 1953年12月17日、エフゲニ・ムラヴィンスキイ指揮、旧レニングラード・フィルハーモニー交響楽団、旧レニングラードにて。
 楽器編成
ピッコロ、フルート2(うち1名はピッコロ持ち替え)、オーボエ3(うち1名はイングリッシュホルン持ち替え)、クラリネット3(うち1名はEsクラリネット持ち替え)、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、トライアングル、スネア・ドラム、バス・ドラム、シンバル、タムタム、シロフォン、弦5部
 
 
曲目解説:(C)千葉 潤(音楽学、ロシア音楽)
 
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