マックス・ブルッフ(1838-1920)
ヴァイオリン協奏曲 第1番 ト短調 作品26
マックス・ブルッフの作品はそれほど多く知られていない。作品目録を見ると3曲のオペラ、14曲の教会合唱作品、32の合唱曲(曲集)があげられている。生前は優れた合唱曲の作曲家として評価されていた。器楽曲は3曲の交響曲、ピアノ三重奏曲、ピアノ作品などもあるが、彼がもっとも得意としていたのは弦楽器の協奏的作品である。チェロ、ヴィオラを独奏とする曲は6曲あり、その中で《コル・ニドライ》は有名である。ヴァイオリンと管弦楽のための作品は10曲で、その中に有名な《スコットランド幻想曲》も含まれる。協奏曲は3曲あり、そのうち最も人気があり、ブルッフの代表作となっているのがこのヴァイオリン協奏曲第1番である。
ブルッフは一流のオラトリオ歌手を母として、ドイツのケルンに生まれた。そこで音楽教育を受け、マンハイム、コブレンツ、ゾンダースハウゼンの指揮者を歴任する。その後イギリスのリヴァプールやプロイセンのブレスラウなどで活躍し、50代からはベルリンの音楽院の教授となり、後進の指導にあたった。彼は年とともに保守的になり、大衆の受けの良い作品を作ろうとしたようだ。また当時前衛の最先端をゆくリスト、ワーグナーらの新ドイツ派には理解を示さなかった。
ヴァイオリン協奏曲第1番は、1866年コブレンツの若き音楽監督として活動し始めたころに作曲され、同じ年の4月24日にケルンのヴァイオリン奏者ケーニヒスロウと作曲者の指揮でコブレンツで初演された。その後ブルッフは作品に手を入れ、2年後名手ヨアヒムの手で再演され、大成功となる。ブルッフの名前は一躍有名となり、彼はこの曲をヨアヒムに献呈した。この協奏曲は、28歳のブルッフの青年らしいしなやかな感性が豊かな旋律と和声に浸透し、若き俊英の覇気がみなぎって見事な傑作となった。ロマン派を代表する名協奏曲である。
第1楽章
ト短調、自由なソナタ形式。「前奏曲」と題されているが、充実した冒頭楽章である。第1主題から華やかな技巧が展開される。第二主題はゆったりと歌う歌謡主題である。ピウ・レントの移行部はとても美しい。再現部は主題が展開され、展開風再現部と見ることも出来る。アタッカで次の楽章に続く。
第2楽章
変ホ長調、二部形式。甘美で瞑想的な旋律に満ち溢れている。アリアのように豊かなメロディが次々と現れるところは、ブルッフの面目躍如だ。後にはR.シュトラウスの薔薇の騎士やアルプス交響曲を思わせる旋律も現れる。
第3楽章
ト長調、ABABAのロンド形式。力強いロンド主題は、ブラームスのヴァイオリン協奏曲の主題に似ているとよく言われるが、ブルッフのほうが先である。挿入楽句は跳躍音を含む、やはり力強い歌である。ヴァイオリンの様々な技巧をちりばめて、最後はテンポを速めて見事に作品を締め括る。