大阪交響楽団 2017年度 定期演奏会 曲目解説

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第222回 定期演奏会   10月11日(金)
ジョナサン・ヘイワード
アンドリュー・タイソン

 
2018年10月11日(木)19時00分開演 
 
レナード・バーンスタイン(1918-1990)
スラヴァ! (政治的序曲)
 
 本日のプログラムはアメリカのレナード・バーンスタイン(1918~1990)とソ連のドミートリー・ショスタコーヴィチ(1906~1975)による、20世紀の米ソ超大国による「政治的プログラム」とでも呼べばよいだろう。幕開けの音楽は政治的序曲「スラヴァ!」。
 「スラヴァ」とは旧ソ連に生まれ、アメリカに渡った大チェリストであり指揮者でもあったムスティスラフ・ロストロポーヴィチを指す。ムスティスラフのように「~スラフ」で終わる名前の愛称がスラヴァ。バーンスタインは盟友ロストロポーヴィチのワシントン・ナショナル交響楽団音楽監督就任を祝うために、この序曲を作曲した。
 コミカルな主題で陽気に開始され、意気揚々としたエレキギターの主題が続く。曲の中ほどで録音による政治的な演説と群衆の歓呼が再生され、政治集会の興奮を再現する。続いて、ムソルグスキーのオペラ「ボリス・ゴドゥノフ」の戴冠式の場面の音楽(スラヴァ=栄あれ)が引用される。最初の主題が帰り、浮かれた雰囲気のなかで、最後は楽員たちによる「スラヴァ!」のかけ声によって閉じられる。
 
●作曲年代 1977年
●初  演
1977年10月11日。ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ指揮ワシントン・ナショナル交響楽団、ワシントン、ケネディ・センター。
●楽器編成
フルート2、ピッコロ、オーボエ2、イングリッシュホルン、クラリネット2、ESクラリネット、バスクラリネット、ソプラノサクソフォン、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、スネアドラム、バスドラム、チャイム、シンバル、グロッケンシュピール、ラチェット、スライドホイッスル、スチールパイプ、タンバリン、トライアングル、ヴィブラフォン、シロフォン、マリンバ、ムチ、ウッドブロック、エレキギター、ピアノ、録音テープ、弦5部
 
 
レナード・バーンスタイン(1918-1990)
交響曲 第2番「不安の時代」
 
 生前のレナード・バーンスタインは、まずなによりも大指揮者だった。カラヤンと双璧をなす二大スター指揮者として注目を集め、次にどんな作品をとりあげ、なにをレコーディングするかは、音楽ジャーナリズムの大きな関心事だった。指揮者バーンスタインに比べれば、作曲家バーンスタインが注目を浴びる機会は限られ、しかもその機会はしばしば「ウェストサイド・ストーリー」をはじめとするミュージカルの作曲家という文脈に留まる傾向があったことは否めない。
 ところが生誕100年を迎えた現在、作曲家バーンスタインの存在感ははるかに大きくなっいる。シリアスな作品がアメリカに限らず世界各地のオーケストラでレパートリーに定着しつつある。今や作曲家バーンスタインは20世紀アメリカ音楽の歴史の一部として振り返られる存在になったといってもいいだろう。1949年に初演された交響曲第2番「不安の時代」は、そんな「名曲」の仲間入りを果たしたバーンスタインの傑作のひとつである。
 タイトルの「不安の時代」とは、20世紀を代表する詩人のひとり、W・H・オーデンの長篇詩に由来する。オーデンの「不安の時代―バロック風田園詩」は1948年にピューリッツァー賞を受賞した作品。第二次世界大戦末期のニューヨークを舞台に、信仰が揺らぎ、時代の危機に直面した人々を描く。1947年の夏、この長篇詩を読んで「髪の毛が逆立つほど感動的」と評したバーンスタインは、これを交響曲に仕立て上げたいという強い衝動に駆られる。世界各地を飛び回る多忙な指揮活動の合間を縫って、「ときには空港で、ときにはホテルのロビーで」作品が書き進められた。
 オーデンの詩では3人の男性とひとりの女性がバーで酒を飲みながら語るという構成がとられ、全体は6つのセクションにわかれている。バーンスタインはこれに従って全曲を6つの部分から構成した。全曲は大きく2部に分けられ、各部に切れ目のない3曲ずつが配置される。オーケストラに独奏ピアノが加わるが、作曲者の意図は名技的な意味での協奏曲ではなく、あくまでピアノ付きの交響曲にある。ピアノ独奏は初演者でもあるバーンスタイン自身の内面の独白のような役割を担っていると考えてよいだろう。

第1部
 「プロローグ」 クラリネットの寂しげな二重奏で始まる導入部。バーでたたずむ孤独な人々の肖像。それぞれが物思いに沈んでいる。ラジオで戦争のニュースが伝えられる。
 「7つの時代」 ピアノ独奏によって開始される。7つの時代とはシェークスピアの「おきに召すまま」に由来する、幼年期から老年期までの人生の7段階を指している。一種の変奏曲だが、特定の主題の変奏ではなく、直前の楽想を次々と展開させて変容する。
 「7つの段階」 ここでの「段階」は、思弁的で宗教的な旅の段階を指す。切れ目なく新たな7つの変奏が続く。4人は時空を超越した夢のような旅で、さまざまな事物や人々を目にして、最後は閉店を迎えるバーで覚醒する。

第2部
 「哀悼歌」 緩徐楽章に相当する。4人はタクシーに乗って女性のアパートへと向かう。正しい道へと導いてくれる偉大なる父の不在を嘆く。
 「仮面劇」 女性のアパートでパーティが始まる。こちらは一種のスケルツォとみなせるだろう。ピアノとパーカッション、ベースを中心としたジャズの語法による気晴らしの音楽。ふたりの男女の婚礼の仮面劇が執り行われる。
 「エピローグ」 独奏ピアノはいったん沈黙し、トランペットが「純粋なるもの」をあらわす主題を奏でる。残されたふたりは再会を約束して別れ、すぐに相手の存在を忘れて各々の思いにふける。オーケストラが頂点を築くと、独奏ピアノによるカデンツァ(1965年に書き加えられた部分)があらわれる。最後は新たな信仰の獲得を告げるように、清澄ですがすがしいコーダで結ばれる。
 
●作曲年代 1947~1949年
●初  演
1949年4月8日。セルゲイ・クーセヴィツキー指揮ボストン交響楽団、作曲者自身による独奏。ボストン、シンフォニー・ホールにて。
●楽器編成
独奏ピアノ、フルート2、ピッコロ、オーボエ2、イングリッシュホルン、クラリネット2、バスクラリネット、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ1、スネアドラム、バスドラム、テナードラム、タムタム、シンバル、テンプルブロック、トライアングル、グロッケンシュピール、シロフォン、ハープ2、ピアニーノ(アップライトピアノ)、弦5部
 
 
ドミートリー・ショスタコーヴィチ(1906-1975)
交響曲 第5番 ニ短調 作品47 「革命」
 
 1936年1月28日、ソ連共産党の機関紙「プラウダ」の音楽評は、ショスタコーヴィチのオペラ「ムツェンスク郡のマクベス夫人」を、音楽史に残る有名な言葉で酷評した。「音楽ではなく荒唐無稽」。日本語訳のインパクトも抜群で、一種の「名ゼリフ」のような趣がある。現代人の意識では芸術作品に対する「荒唐無稽」とは称賛のようにも聞こえかねないが、ソヴィエト体制下の芸術家にとって、当局の批判は生死にかかわる深刻な問題になりえた。それまでは「ソヴィエト文化の最高の伝統のなかで育った、ソヴィエト作曲家によってしか書くことができない」作品と評価されていたオペラが、一転して攻撃の対象となったのだ。この批判はショスタコーヴィチのみならず、ソヴィエト音楽全体のモダニズム的な傾向に対する警告と解釈された。ショスタコーヴィチは初演を控えていた交響曲第4番を撤回し、より明快で古典的なスタイルで書かれた交響曲第5番の作曲に取り組む。
 十月革命20周年を祝って行われた交響曲第5番の初演は、大きな成功を収めて、作曲家を安堵させることになった。「正当な批判に対するソヴィエト芸術家の創造的応答」と呼ばれたこの交響曲によって、ショスタコーヴィチは若い世代を代表するソヴィエトの作曲家としての地位を回復する。あたかもベートーヴェンを思わせるような「苦悩から勝利へ」と至る交響曲は、国家が求める社会主義リアリズムに合致した傑作として評価されることになった。
 しかし作品全体の構図をどうとらえるべきかは、一筋縄では行かない問題をはらんでいる。ベートーヴェン以来の交響曲におけるマジックナンバー「第5」を背負ったこの作品は、本当に「苦悩から勝利へ」と至っているのだろうか。終楽章は歓喜の音楽とも、歓喜を装ったパロディの音楽とも解することができる。その点では、むしろ同じ「第5」でもマーラーの交響曲第5番と似た構図を持っていると言えるだろう。いわば「苦悩から勝利?」の交響曲。同じ結末からハッピーエンドとバッドエンドの両方を同時に読み取れるという重層性は、作品の奥深さに大きく貢献している。

第1楽章
モデラート 鋭く厳かな弦楽器の掛け合いで開始され、ヴァイオリンがひっそりとした不安げな主題を続ける。その後、弦楽器の静かな刻みに乗って登場する弦楽器ののびやかな主題は、ビゼーのオペラ「カルメン」の「ハバネラ」を連想させる。
 
第2楽章
アレグレット おどけたスケルツォ。中間部はレントラー風の舞曲。奇怪でグロテスクなダンス。
 
第3楽章
ラルゴ 一転して真摯な哀歌へ。ゆったりとした荘重な楽想が、痛切な悲しみを表現する。
 
第4楽章
アレグロ・ノン・トロッポ けたたましく開始されるフィナーレ。ティンパニとともに金管楽器が荒々しい主題を強奏する。この主題は前述の「ハバネラ」中の一節との類似が指摘される。最後は異様なほどに力強いファンファーレ風のコーダで曲を閉じる。

 
●作曲年代 1937年
●初  演
1937年11月21日。エフゲーニ・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団。レニングラードにて。
●楽器編成
フルート2、ピッコロ、オーボエ2、クラリネット2、エス・クラリネット、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、スネアドラム、バスドラム、トライアングル、シンバル、タムタム、グロッケンシュピール、シロフォン、ハープ2、ピアノ、チェレスタ、弦5部
 

 (C)  飯尾 洋一(音楽ジャーナリスト)(無断転載を禁じる)
 
 
ジョンサン・ヘイワード写真 (C) Jeremy Ayres Fischer
アンドリュー・タイソン写真 (C) Sophie Zhai
 
 
                                   
 
 
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