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第226回 定期演奏会   2月28日(木)
外山 雄三 (C)飯島隆

2019年2月28日(木)19時00分開演
 
曲目解説 /伊東 信宏(大阪大学教授・音楽学)

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-1791)
歌劇「後宮からの逃走」序曲
 
 1781年5月、モーツァルトは、父も仕えていたザルツブルクのコロレド大司教と衝突し、ウィーンで独立した音楽家として生計を立てようとします。これは、宮廷か教会に奉職するのが普通だった当時の音楽家としては、大胆な試みでしたが、もちろん極めて困難なものでもありました。その夏に皇帝ヨーゼフ2世から歌劇「後宮からの逃走」作曲の依頼を受けたモーツァルトは、独立後初の大仕事としてこれに取り組みますが、作曲には時間がかかり、結局翌年5月に完成、夏に初演となりました。
 この「後宮からの逃走」というオペラは、いわゆる「トルコもの」の一つです。つまり、キリスト教徒側のお姫様なりお妃なりがトルコの後宮にさらわれ、それを彼女の夫なり許嫁なりが助け出しに行く、という「救出劇」です。途中、男性もトルコ側に捕らえられて窮地に陥り、さらに太守が現れて絶体絶命となりますが、そこでなぜかその太守が寛大なところを見せて許してくれ、二人はめでたく帰途につく、というのが「トルコもの」の一般的な筋書きです。オペラ「後宮からの逃走」もほぼこの定型通り進行します。ここには当時の「高貴な野蛮人」の観念が表されていました。
 音楽的には、なんといってもこの「トルコ」的な要素が焦点になります。ウィーンの市壁の外までトルコ軍が迫ってきたのは1683年。オペラの100年前の出来事でした。その後、トルコの脅威は薄らぎ、1743年にはウィーンの宮廷に、トルコ自慢の軍楽隊がプレゼントされます。これによってウィーンの人々の間には、トルコ音楽がどういうものかということが次第に共有されるようになっていました。モーツァルトは、ここでそのトルコの軍楽の響きを用いています。序曲の中に現れる軍楽風のリズムに注意してください。大太鼓とシンバルが響き、フォルテとピアノが短い単位で交代するところです。これこそ、当時最新の話題だった異教の響きだったのです。
   
   作曲年代 1782年
 初  演 1782年7月16日。ウィーンのブルク劇場にて。
 楽器編成
フルート(ピッコロと持ち替え)、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、
ティンパニ、大太鼓、トライアングル、シンバル、弦5部
 
 
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827)
交響曲 第1番 ハ長調 作品21
 
 ベートーヴェンは、故郷ボンから出てきて、ウィーンに居を移し、ハイドンやアルブレヒツベルガーに師事し、さらにこの曲にとりかかった1799年頃(この時ベートーヴェンは29歳でした)にはサリエリにも師事していたようです。この長い修行時代のなかで、彼は何度か交響曲を書こうとしたようで、とりわけ1795-96年に取り組んでいたハ長調交響曲については、かつてなかったほどのスケッチが書かれました。結局この作品は、完成しませんでしたが、それでも冒頭楽章の主題は、数年後に書かれることになる、交響曲第1番の終楽章の主題へと転用されることになります。交響曲第1番ハ長調は、自作を発表する演奏会の最後で初演されたもので、それまでの修行時代の成果の全てを盛り込んだ意欲作だったと言えます。
 第1楽章は当時の標準的なアレグロのソナタ形式による楽章ですが、ハイドン後期の交響曲に倣ってゆっくりした導入部が付いています。その冒頭は大胆な和音で始まって、聴き手を思わぬ方向に導きますが、これこそベートーヴェンがその後追求することになる「新しさ」の萌芽でした。
 第2楽章はアンダンテ。典雅な旋律ですが、きちんとした展開部を備えた、やはりソナタ形式の楽章です。楽章末尾で動き続ける付点のリズムは、ベートーヴェンのあり余る意欲がこの時期にはまだやり場もなく滞留しているようにも聞こえます。
 第3楽章はメヌエットと書かれていますが、すでに急速なもので後年のスケルツォを予告しています。強烈なアクセントと、そのアクセントの位置がどんどん変わっていくところは、もうこの音楽が単純な踊りの添え物ではなくなっていることを示しています。
 そして第4楽章は急速なフィナーレ。ここにもごく短い前置きが付いています。エッセンスだけのような前置きですが、その後の主題の必要十分な導入となっています。それに続く主部の音楽は、ハイドンのような熟達ぶりとも、モーツァルトのような瑞々しさとも異なる、若いベートーヴェンの意志の強さが感じられるものと言えるでしょう。
 
   作曲年代 1799-1800年
 初  演
1800年4月2日。作曲者自身の指揮、ウィーンのブルク劇場にて。
 楽器編成
フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニ、弦5部
 
 
 
曲目解説 /小味渕彦之(音楽学・音楽評論)
 
外山雄三(1931-)
前奏曲(2012)改訂版
 
 外山雄三(1931- )は現代日本を代表する指揮者で作曲家。外山自身は以前より、自身は単に指揮者でも作曲家でも、またピアニストでもなく「音楽家」なのだと繰り返し表明してきた。
 作曲家としての外山の最もよく知られた作品は、1960年に行われたNHK交響楽団の世界一周演奏旅行にアンコール・ピースとして書かれた《管弦楽のためのラプソディ》(1960)であろう。コンパクトな構成の中に、「あんたがたどこさ」「ソーラン節」「炭坑節」「串本節」「八木節」と民謡が登場する。外山は、それ以前の《小交響曲(Kleine Symphonie)》(1953)から、音楽の素材として日本民謡、もしくは民謡風のメロディを用いていて、その後現在に至るまでこの手法が一貫して外山作品のトレードマークとなってきた。近年は、旋律をそのままの形で用いるのではなく、より抽象化して、響きの組み合わせの中でメロディが息づいていることが多い。もう一つの外山作品の特徴は、ほとんどの管弦楽作品が、打楽器に和楽器が必要なことはあっても、3管編成までの通常のオーケストラ編成で演奏できるということ。それが再演の機会にもつながる。現場を知り尽くした外山でこその配慮だ。
 《前奏曲》は2013年1月14日につくば市のノバホール、翌15日には東京芸術劇場で、作曲者指揮の読売日本交響楽団によって初演された。外山が80歳を迎えたことを記念した、ヤマハ音楽振興会による委嘱作品となる。雑誌の連載で外山は「現在の私の持っているもの、考え、感じていることのすべてが表われるように全力を尽くしたい」と記している。本日の演奏は、作曲者自身による改訂版の再演となる。
 
(2013年4月12日第175回定期演奏会プログラムより転載)
 
   作曲年代 2012年
 初  演
2013年1月14日つくば市のノバホール、翌15日東京芸術劇場にて、作曲者自身の指揮、読売日本交響楽団により初演。
 改訂初演 2013年4月12日。作曲者自身の指揮。大阪交響楽団「第175回定期演奏会」(ザ・シンフォニーホール)にて。
 楽器編成
フルート2、ピッコロ、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン2、バストロンボーン、テューバ、ティンパニ、シンバル、バスドラム、トライアングル、弦5部
 
 
曲目解説 /外山 雄三(ミュージック・アドバイザー)
 
外山 雄三(1931-)
交響曲(世界初演)

 
「小交響曲」という名前の作品を書いたのは1953年。NHKが管弦楽曲を募集していて、それに応募したのだが入選しなかった。たまたまN響を指揮するために初めて来日したジャン・マルティノンが「第九」の演奏会で日本の作品を演奏したいと考えて、いくつかの作品に目を通した時に、その「小交響曲」が目に留まったらしい。N響の副指揮者として朝から晩まで彼と一緒に居て雑用を片付けていた私が作者と知って彼はびっくりしたが、第2楽章に現れる「五木の子守唄」が微妙な変拍子であるのを面白がり、第3楽章の冒頭は彼の師匠の作品に似ていると言ったりした。
 交響曲は、その作者の全的告白であると言われる。ベートーヴェンを見ると、なるほど、そうかと思える。ベートーヴェンの息遣いが聞こえてくるような、一種の切迫感が私たちを圧倒する。
 この新しい交響曲は、どう取り繕ってみても現在の私を、すっかり投影するだろう。1948年、音楽学校に入学した時からオーケストラに打楽器陣の端に居ることを許され、以来今日まで、オーケストラと一緒に暮らすことは一度も途絶えたことがない。学校を卒業してすぐにNHK交響楽団の打楽器練習員になり、そのうちに何となく指揮者の見習いのような立場を戴き、当時、実際にN響を指揮することなど一度もなかったが、次々と現れるヨーロッパやアメリカの指揮者たちがN響を指揮して、どのように「演奏」を実現するのか、あるいは「苦労」するばかりなのか、そういう現場を体験することで、私は幸運にもオーケストラという、途方もない集団を日々実感していった。オーケストラの先輩楽員たちは、皆さん例外なく親切に日常の立ち居振る舞いの欠点や、見るべきポイント、聴き逃さないようにするべき場面などを折に触れて事細かに教えてくれた。それは、しかも「教えてやる」風ではなくて、優しい先輩が新入りを導いてくださるという温かさに溢れていた。私にとって、忘れがたい幸せな日々であったと言えるのである。
 そのように、1日の例外もなくオーケストラと暮らしてきた私の、いわば心からの「オーケストラ讃歌」が、この作品である。そして更に付け加えるなら。この「讃歌」は、これで終わることはない。私が作曲を続ける限り、オーケストラの為に作曲することは終わらない。
 
   作曲年代 2018年
 初  演 2019年2月28日。作曲者自身の指揮。大阪のザ・シンフォニーホールにて。
 楽器編成
フルート2、ピッコロ、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン2、バストロンボーン、テューバ、ティンパニ、弦5部
 
 
(C)伊東 信宏(大阪大学教授・音楽学)(無断転載を禁じる)
(C)小味渕彦之(音楽学・音楽評論)(無断転載を禁じる)
(C)外山 雄三(ミュージック・アドバイザー)(無断転載を禁じる)
 
 
 
                                     
 
 
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