大阪交響楽団 2017年度 定期演奏会 曲目解説

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第217回 定期演奏会   4月27日(金)
寺岡 清高

2018年4月27日(金)19時00分開演
 
2016~2018年度全6回シリーズ
ウィーン世紀末のルーツ
~フックスとブラームスから始まる系譜(5)
 
 
フランツ・シュレーカー(1878-1934)
弦楽のための間奏曲 作品8
 
 フランツ・シュレーカー(1878-1934)は、モナコの生まれ。意外な出生の地に思えるかもしれないが、ボヘミア出身のユダヤ人…このあたり、当シリーズの主人公の1人マーラー(1860-1911)とよく似た出自である…である父親が、彼の地で宮廷写真家の職にあったことが理由である。
 というわけで、元々シュレーカーはオーストリアと密接な関わりを持っていた。さらに父親が若くして亡くなった後、一家はウィーンへと移住。シュレーカーは、奨学金を得た上、わずか14歳でウィーン楽友協会音楽院へ入学する。最初はヴァイオリン科、やがて作曲科に学び、ローベルト・フックス(1847-1927)に師事した。
 そんなシュレーカーが、同音楽院を卒業した1900年に書いたのが、『弦楽のための間奏曲』作品8。ちなみにこの曲は、翌1901年に開催された新音楽時報(ウィーンで1895年に創刊された音楽週刊誌であり、音楽ジャーナリズムの一大権威となっていた)主催の作曲コンクールで1位に入賞したことをきっかけに、彼の名前は徐々にではあるものの楽壇で知られるようになっていった。
 ヨハネス・ブラームス(1833-97)に認められ、特に弦楽セレナーデで一世を風靡したフックスに範をとったのだろう。シュレーカーの当作品も、まずは短調の悲しげな調べが長調の慰めに手練する歌謡風の主題が登場し、それをがっしりとした和声が支える。ただしそこに、突如不安げなトレモロが加わるあたり、新時代の音楽を創り上げていったシュレーカーならではの特徴に他らない。狩猟風のリズムと特徴とする中間部を挟んで、冒頭の主題が回帰する、3部構成となっている。
   
   作曲年代 1900年
 初  演
1902年12月9日 ウィーン楽友協会大ホール
フェルディナント・レーヴェ指揮/ウィーン演奏会管弦楽団
 楽器編成
 ヴァイオリン4部、ヴィオラ2部、チェロ2部、コントラバス
 
 
 
エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト(1897-1957)
左手のためのピアノ協奏曲 嬰ハ調 作品17
 
 シュレーカーをはじめ、19世紀末から20世紀初頭にかけて花咲いたウィーンの「世紀末文化」は、時に早熟の天才を輩出した。1930年代以降、ハリウッドとの関係を強め、数々の映画音楽を作ったことで知られるエーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト(1897-1957)も、その1人である。
 現在のチェコのブルノに生まれ、ウィーンの音楽ジャーナリズム界の大立者だったユリウス・コルンゴルト(1860-1945)を父とし、幼少期から神童として音楽活動を始めた彼は、やがてフックスに師事。成人して後も押しも押されもせぬ作曲家として、世界中から引く手あまただった。
 そんな状況の中、コルンゴルトに新曲を委嘱した人物がいる。ウィーン出身のユダヤ系ピアニストのパウル・ヴィトゲンシュタイン(1887-1961)だが、彼は第一次世界大戦の前線で負傷し、右手を失うものの、左手のピアニストとして活動続行を決意。同時代の有名作曲家に、左手のためのピアノ作品を依頼してゆくが、中でもコルンゴルトは彼が最初に接触した作曲家の1人となる。
 こうして生まれたのが、『左手のためのピアノ協奏曲 嬰ハ調』作品17である。「嬰ハ調」という曖昧な調性表記になっているのは、譜面では♯が4個(つまり嬰ハ短調)記されているも、長調とも短調とも判じがたい、うねるような調性が展開された末、最後は嬰ハ長調の和音で解決するからに他ならない。(さらにそこへ、多彩な音色の大管弦楽がピアノと濃厚に絡み合い、未曾有の超体験がもたらされる仕掛けになっている。)
 全体は単一楽章で書かれているが、3つの部分…協奏曲ではおなじみの急-緩-急の3楽章形式を彷彿させる…から成っている。とはいえそれらが切れ目なく、とうよりもむしろ区切れの境も曖昧になるほどに溶け合っている様こそ、情念や官能が絶え間なく渦巻く後期ロマン派の特徴、またその流れを色濃く汲んだコルンゴルトの真骨頂といえよう。
 
   作曲年代 1923年
 初  演
1924年9月22日 ウィーン楽友協会大ホール
ヴィトゲンシュタイン独奏/作曲者指揮/ウィーン交響楽団
 楽器編成
独奏ピアノ、フルート3(ピッコロ1持ち替え)、オーボエ2(イングリッシュホルン1持ち替え)、クラリネット2(バスクラリネット1持ち替え)、ファゴット2、コントラファゴット1、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、ティンパニ、小太鼓、大太鼓、シンバル、タムタム、タンバリン、トライアングル、グロッケンシュピール、シロフォン、ハープ、チェレスタ、弦五部


 
アルノルト・シェーンベルク(1874-1951)
交響詩「ペレアスとメリザンド」(シュタイン編)
 
 無調音楽、さらには十二音技法と、20世紀音楽を作り上げた代表的存在であるアルノルト・シェーンベルク(1874-1951)。ウィーン生まれということからも、この街と深い関係を持つユダヤ人という点で前半のプログラムに登場した2人の作曲家と共通するものがあるが、家庭の経済状況ゆえ、20歳を過ぎる頃までは音楽に関してはアマチュアにすぎなかった。ところが、アレクサンダー・フォン・ツェムリンスキー(1871-1942)との出会いを通じ、彼の下で本格的に作曲の勉強を開始。ブラームスやリヒャルト・ワーグナー(1813-83)といった同時代の大先輩をはじめ、ウィーン古典派の巨匠たちの作品を吸収してゆく。
 そんな若きシェーンベルクの心を捉えたのが、当時、象徴主義の詩人として知られていたモーリス・メーテルリンク(1862-1949)の戯曲『ペレアスとメリザンド』。謎に満ちた美女メリザンドを巡る、男女の三角関係を描いた内容に多くの作曲家が魅了され、幾つもの作品が生まれることとなった。このような状況の中、シェーンベルクは当作品のオペラ化を当初予定していたが、クロード・ドビュッシー(1862-1918)が先に同じ路線で大成功を収めたこともあり、最終的には交響詩『ペレアスとメリザンド』という形に落ち着いた。
 交響詩といえば、シェーンベルクの同世代では、ワーグナーに傾倒していたリヒャルト・シュトラウス(1864-1949)の諸作品が思い浮かぶかもしれない。ただしシェーンベルクの『ペレアスとメリザンド』については、ブラームスも踏襲した交響曲の基本形である4つの楽章を、単一楽章に収めた構成になっていると見なすこともできる。あるいは作品全体を見渡すと、ブラームスのごとく古典的なソナタ形式を踏まえつつ(その場合は、展開部にあたる部分にスケルツォと緩徐楽章が相当すると考えられよう)、ワーグナーの楽劇を彷彿させる指示動機(ライトモチーフ)が用いられるといった具合。こうした要素を目にするにつけ、…シェーンベルクが自らの先達と仰いでいたマーラーの場合と同様…19世紀後半のドイツ語圏の音楽界を二分した「ブラームス vs. ワーグナー」の論争が、見事に止揚されている。
 作品そのものは、戯曲の『ペレアスとメリザンド』に沿った展開となっているが、指示動機(ライトモチーフ)については3人の主要登場人物=メリザンド(正体不明の美女  譜例1)、ゴロー(没落しつつある小国の王の孫  譜例2)、ペレアス(ゴローの異母弟 譜例3)を押さえておくと、音楽上の理解の助けになるだろう。
 全体は、4つの部分に分けられる。第1部:運命の指示動機(ライトモチーフ)(譜例4)が明滅する中、森の中にたたずんでいるメリザンドをゴローが見初め、自らの城に連れ帰る。だが、その城に住むペレアスとメリザンドは互いに惹かれあってしまうのだった。第2部:幸せな時間を過ごすペレアスとメリザンド。ところが、自分が送った指輪をメリザンドがしていないことに気づいたゴローは疑いと嫉妬に苛まれ、ついにはペレアスに対する尋問や脅迫にまで発展する。第3部:ペレアスは城を去ることを決意。最後の密かな逢瀬に、ペレアスとメリザンドは互いの胸の内を吐露し合い、感情を爆発させるものの、それを見つけたゴローはペレアスを刺し殺す。第4部:ペレアスを失ったショックで、瀕死の状態に陥るメリザンド。ゴローからの執拗な問いに完全に答えることもなく、彼女は息を引き取り、ゴローは独り残される。
 なおオリジナルの楽器編成は、マーラーやR・シュトラウスのそれと同様、ワーグナーの楽劇の影響を受けた大がかりなものとなっている。巨大な音響への志向や、多彩を極めた音色が追求された結果だが、これでは演奏の機会に恵まれない。
 そんな巨大に過ぎる当作品の楽器編成をスリム化したのが、エルヴィン・シュタイン(1885-1958)だ。ウィーンのユダヤ人家庭に生まれ、1906年から10年にかけてはシェーンベルクに個人的に師事。作曲活動をおこなういっぽう、ウィーンの楽譜出版社ウニヴェルザールに勤務しながら、シェーンベルクやマーラーといった新時代の作曲家の大編成の作品を、室内楽編成をはじめとする小規模編成に編曲し、作品の普及に努めた。(なお後年、ナチスがオーストリアを併合して以降は、ユダヤ人という理由から亡命の途につき、シェーンベルクやコルンゴルトと同様アメリカで後半生を送ることを余儀なくされた。)
 
 
 
譜例作成:森 洋久
 
   作曲年代 1902-03年
 初  演
1905年1月25日 ウィーン楽友協会大ホール
作曲者指揮/ウィーン演奏会管弦楽団
 楽器編成
【オリジナル版】
ピッコロ、フルート3(ピッコロ1持ち替え)、オーボエ3(イングリッシュホルン2持ち替え)、イングリッシュホルン、Es管クラリネット、クラリネット3(バスクラリネット1持ち替え)、バスクラリネット、ファゴット3、コントラファゴット、ホルン8、トランペット4、トロンボーン5、テューバ、ティンパニ2組、シンバル、中太鼓、大太鼓、タムタム、トライアングル、グロッケンシュピール、ハープ2(倍増しても可)、弦五部(第1ヴァイオリン16、第2ヴァイオリン16、ヴィオラ12、チェロ12、コントラバス8)
 
【シュタイン編曲版】
フルート3(ピッコロ2持ち替え)、オーボエ2、イングリッシュホルン、
クラリネット2(Es管クラリネット1持ち替え)、バスクラリネット、ファゴット3(コントラファゴット1持ち替え)、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、シンバル、中太鼓、大太鼓、タムタム、トライアングル、グロッケンシュピール、ハープ2(倍増しても可)、弦五部
 
 
 
 
年譜作成:小宮 正安
 
 
小宮 正安(ヨーロッパ文化史研究家・横浜国立大学教授)
 
(無断転載を禁じる)
 
 
 
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