リヒャルト・シュトラウス(1864-1949)
楽劇「ばらの騎士」より 抜粋
リヒャルト・シュトラウス(1864~1949)が作曲した全15作のオペラのなかで、今日まで最も数多く上演され、広く親しまれている名作といえば、オペラ作曲家としての名声を確立した「サロメ」(1905、オペラとしては3作目)と5作目のオペラ「ばらの騎士」(1911)を措いてない。前者は激烈な悲劇オペラ、後者は優雅な喜劇オペラと、ごく対照的な2作品が代表作というところに、この作曲家の表現力の幅広さがある。
「サロメ」に続く4作目のオペラは、これも激しく悲劇的な「エレクトラ」(1909)だった。それを台本作者フーゴー・フォン・ホフマンスタール(1874~1924)の協力で作曲したR.シュトラウスは、明るく楽しいオペラを書きたくなり、「次はモーツァルト・オペラを書く」と公言、台本を再びホフマンスタールに依頼した。2人で構想を練り、台本が部分的にできたそばから作曲もほぼ同時進行で進められた。
「ばらの騎士」における愛と官能の喜劇、無頼漢を皆で懲らしめる、といった内容がモーツァルトの「フィガロの結婚」に由来する設定であることは誰もが認めるところだろう。元帥夫人マルシャリンは伯爵夫人ロジーナ、オクタヴィアンはケルビーノ、懲らしめられるオックス男爵はアルマヴィーヴァ伯爵の生まれ代わりだ。そのようにして古き良き時代(18世紀)のウィーン貴族社会の恋愛喜劇が、R.シュトラウスの手で20世紀初頭によみがえったのである。
音楽面の最大の特徴は、ウィンナワルツが全曲を通してふんだんに用いられ、格調のある陽気な雰囲気を醸し出していることだろう。3管編成の大オーケストラは色彩感に富み、劇的効果、心理表現などにも優れた手腕が発揮されて魅力的だ。
全曲は全3幕、約3時間半の長編だが、本日はそのなかから5つの場面を抜粋して演奏する。
1.第1幕冒頭:元帥夫人マルシャリンの寝室、朝。夫が不在の夜、マルシャリンは17歳の青年貴族オクタヴィアンと愛の一夜を過ごした。ベッドで愛の余韻にひたりながら別れを惜しむ2人。開幕冒頭からベッドシーンという設定は型破りで非常に刺激的だが、官能性を一方的に強調するのでなく、うしろめたさや不安感、2人の年齢差などといった複雑な感情が入り乱れる様子が、緊迫感を伴いつつ表現される。
2.第1幕元帥夫人マルシャリンのモノローグ:オックス男爵の予期せぬ登場、オクタヴィアンの女装、謁見式といった変化に富んだ場面の後、人々が退場して一人になったマルシャリンは長いモノローグを歌う。自分の若かったころに思いをはせ、同時に今の年齢を考えて感傷的にもなる。部屋に戻ってきたオクタヴィアンに「いつかあなたも私を捨てて若い女性を愛するようになる」といい、今は夫人に夢中のオクタヴィアンを困惑させる。
3.第2幕ばらの騎士の登場~2重唱:オックス男爵が結婚することになっている若い女性ゾフィーの家。結婚のしるしとして銀のバラをとどける役目を依頼されたオクタヴィアンが、「ばらの騎士」としてうやうやしく登場。次いでオックス男爵も姿を現すが、態度があまりに粗野で横柄なのでゾフィーは失望し、怒りを隠せない。オクタヴィアンとゾフィーは2人だけになったすきにお互いに惹かれあっていることを確かめ合い、愛の2重唱を歌う。
4.第2幕オックス男爵のワルツ:オックス男爵とオクタヴィアンは決闘となり、オックスが軽いケガをする。一度はわめきたてたオックスだが、逢引きに誘う恋文を受け取り、ワナとも知らずに上機嫌になってワルツを口ずさむ(本日はオーケストラのみ)。
5.第3幕3重唱~2重唱:料亭の一室、夜。オックス男爵とゾフィーの結婚を破談にしようとする陰謀がこれでもかとばかりに繰り広げられて大騒ぎ。元帥夫人のとりなしで、男爵はほうほうの体で料亭を去る。オクタヴィアンとゾフィーは愛を確かめ合い、それをみた元帥夫人は2人の愛を認め、自分は身を引く決心をする。恋の三角関係ではあるが、元帥夫人の節度と品格、若い2人の恋の喜びが美しく高まって幕となる。
●作曲年代 |
1909年5月~1910年9月 |
●初 演 |
1911年1月26日。指揮:エルンスト・フォン・シューフ、演出:マックス・ラインハルト。ドレスデン宮廷歌劇場(現:ザクセン州立歌劇場)にて。
日本初演は1956年、都民劇場主催で出演は二期会(現・東京二期会)による。
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●楽器編成 |
フルート3(1名はピッコロ持ち替え)、オーボエ3(1名はイングリッシュ・ホルン持ち替え)、クラリネット3、バス・クラリネット(バセット・ホルン持ち替え)、ファゴット3(1名はコントラ・ファゴット持ち替え)、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、バス・テューバ、ティンパニ、大太鼓、シンバル、トライアングル、タンブリン、
グロッケンシュピール、中太鼓、小太鼓、カンパネラ、カスタネット、チェレスタ、ハープ2、弦五部。
全曲上演の場合はバンダ、歌手19人、合唱、児童合唱を含む。舞台上演では助演者も。
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