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音楽の風景~外山雄三が見た日本の音楽界~

 
 
 
外山雄三 (C)K.Miura
 
外山國彦(写真提供:外山雄三)
外山國彦
(写真提供:外山雄三)
 
岡田九郎先生と私(写真提供:外山雄三)
岡田九郎先生と私
(写真提供:外山雄三)
 
有馬大五郎先生(写真提供:NHK交響楽団)
有馬大五郎先生
(写真提供:NHK交響楽団)
   
二宮(以下、N) 当団の『PROGRAM MAGAZINE』誌に今号から長期連載として、外山さんのこれまでの音楽人生をつれづれなるままに振り返っていただいて、お話して頂ければと考えております。よろしくお願いいたします。
外山(以下、T) わかりました。
 
N まず、外山さんがお生まれになったのは昭和6年(1931年)ですね。
T 6年です、はい。
 
N 幼少期の外山さんは、どういう風にお過ごしになったのでしょうか。そして音楽とどのように出会われたのでしょうか?
T えっと親父(外山國彦 とやま くにひこ1885-1960)が山田耕筰(やまだ こうさく1886-1965)先生と東京音楽学校の同期で、という家でしたので、当時としては案外珍しかったのかもしれませんね、音楽家の家に生まれるということ自体が。で、私が最初にピアノの手ほどきをして頂いたのが園田清秀(そのだ きよひで 1903-1935)という方で、その方は園田高弘(そのだ たかひろ 1928-2004)さんのお父様で、あれはどうして園田先生と私の父が親しかったのか、とうとう聞かないで過ぎてしまったのでわからないのですが、父が園田先生にピアノの手ほどきをしていただく考えで、東京・牛込の自宅から園田先生の駒込のお宅にお伺いしました。
 
N それはおいくつの時でしょうか?
T たぶん3歳か4歳かと思います。もちろん母に手を引かれてレッスンに通ったのを憶えております。たぶんバスだったんじゃないかと思うんですけど…。
 園田先生はご自分が健康状態がいつも万全でいらしたわけではないので、そういうこともあってかと後になって思いますが、ニコニコして「いいよー、しっかりなさい」なんていうことでは全然なくて、いつでもなんか子ども心に怖い、まぁ今考えると不機嫌な顔してらしたんじゃないかと思います。で、そのお宅に伺うと、坊ちゃんがいらして、それが高弘さん。高弘さんとその弟さんがいらしたんだけど、レッスンして頂く順番を待ってると高弘さんが「おーいケンケンしよう。なーんだ、ケンケンも出来ないのか!」とか言われたのを、私はあんまり記憶がないんですけれども、付いてった母がそういう話を後でしてくれました。園田先生はさっき申し上げたように、にっこりなさって、「いいよ、上手に弾けたよ」なんて仰る先生ではなくて、いつでも厳しい顔つきでレッスンしてくださったんですけれども、それはそんなに長くなかったのではないかと思います。つまり先生がご病気で亡くなられてしまったので…。だから園田高弘さんは、お父様を早くに亡くしておられるんだと思います。
 私の父の國彦と園田清秀先生が、外国の例を見ると音楽家たちはみんな小さい時から音楽教育を受けている、だから日本の子どもたちも早くから音楽教育を受けなければならないということで、児童早教育、それから音感教育、つまり絶対音感を身につけさせようということを考えて、やり始めて…。そういうふうに子どもたちに音楽を教えようと思った頃がちょうど笈田光吉(おいだ こうきち 1902-1964)さんもそういうお考えで、あちらは自由学園を本拠になさってらっしゃったのだと思います。で、笈田さんは後に、「音感教育をやっていると、アメリカの飛行機が日本爆撃にやってくる、その爆音を聞いただけで飛行機の種類がわかる!」、と仰って、そりゃそうなんでしょうけど、それは音感教育と関係ないだろう思うんですが、ご存じのとおり戦争中ですからねぇ…。
 それで子どもたちにそれまでの日本のいわゆる洋楽の教育にはなかった早い時から音感教育をする。で、いつから音感教育が絶対音感教育になったのか、あるいは初めから絶対音感教育だったのかは、私はその先生方、あるいは親父に確かめることはなくて過ぎてしまったので、残念ながらはっきりわからないのですが、親父から直接聞いたのは、絶対音感教育という言葉でした。園田先生や親父が鍵盤を叩くのを、私たち子どもは後ろ向きになって鍵盤を見えないようにして、「ラ!」とか「ド!」とか答える。そのうちに二音一緒に弾く、それから三和音になって、それから『ぐちゃー』って弾くなんていうのを当てさせられて、子ども心にそれは難しいとか、嫌だとかっていうんじゃなくて、なんとなく面白くて、当たると褒めてもらえるんで、そういうようなのが音感教育の始まりだったと思います。ピアノでそれをやりましたので、自然に絶対音感が身についたんじゃないかなと、今になってそう思っています。
 そういう小さい子どもから音楽教育をするということがそれ以前にはないので、もちろんはじめはピアノを弾くのも片手からですから、何を弾かせるっていうテキストが全然ない。そのテキストを作るというところから園田先生や、途中から有馬大五郎(ありま だいごろう1900-1980)先生もヨーロッパからお帰りになって参加されて、うちの親父もその例題を作って、それをお袋がひとつひとつゴム印で押してテキストを作ったそうです。
 有馬先生は非常にきっちりした方で、ご自分が何でも出来るという風にお思いになったわけではないし、それから、国立音楽学校の教師になられて、しかもたぶん当時土川正浩(つちかわ まさひろ 1906-1947)先生に頼まれて、音楽学校を充実させるということに一所懸命になっておられて、だから国立にお住いになられたのでしょうけど…。有馬先生がウィーンに長くおられたので、当時は子どもがピアノを始めるとバイエルからだったし、出回ってる楽譜もバイエルといった具合でしたから、もちろんそれもやるんだけど、その前にその全音符は4拍のばす、二分音符は2拍…というような基本を有馬先生が子どもたちに教えるテキストの中身をご自分でお作りになって、それをうちのお袋が非常に幅の広い五線を引いて、それに音符のゴム印を押して作ったそうです。
 それで児童早教育を実践する『外山國彦音楽教室』には園田先生や親父、それから後にあの国立の校長におなりになった岡田九郎(おかだ くろう 1905-1989)先生、これはたぶん有馬先生のお知り合いでいらして、参加されたんじゃないかと思いますが、教師として来てくださって、私は岡田先生にずいぶん丁寧にピアノを教えていただきました。
 
N 有馬先生はどのような関わりを?
T 有馬先生はときどきお見えになるだけで…。今でも忘れもしないことがあるんですけれども、それは「音楽っていうのは必ず『山』がある。『山』って言ったって、雄坊、君には解らんだろうけど、それは【やきもち坂】を上がって来る、あれが『山』だ。で、【やきもち坂】をちょっと下がると家へ来るだろう、あれを『山』と言うんだ!音楽には必ずそういうものがある。」と仰ったのをとてもよく覚えてるんです。先生は人をお教えになることについて、非常にはっきりお考えを持ち、人を教える優れた能力をお持ちだったんだろうなぁ、と時々思い出します。
 もうちょっと後になって、東京にアメリカ軍の空襲が始まって、防火訓練なんてのを隣組で度々やりまして、そうするとどっかの家に焼夷弾が落ちた、と言って、水をかけて、火たたきで壁なんかを叩く。そうすると普段「何よ!」と思われてる家が標的になるんですよ。たぶんご近所からは、「外山國彦さんちの外山音楽教室なんてのは、兵隊さんが戦地で命がけで戦っているのに何だ!」と思ってた人がどうも少なくなかったらしくて、防火訓練になると必ず「外山に焼夷弾落下!」ってことになって、皆さんがバケツでジャージャー水かけて、火たたきで壁をバンバンやるんですよ。それはそんな恐ろしいことだと思わなかったんですが、記憶に残ってます。それと、今の新宿区、当時の牛込区加賀町という所に家があったんですが、20分くらい歩くと、あの~…、それこそあそこは何だったんだろう…。
 
N 陸軍ですね、市ヶ谷の。
T そうそう、陸軍士官学校。その頃戦争のためだというと、どんどん大きなお家を政府が接収して、兵隊さんたちを泊めたりしてた。うちのお隣の大きなお屋敷がそうなって、そこに将校たちがいたんですが、私たち一般市民は食べるものもあまりなかったのに、その兵隊さんたちは毎晩大宴会してるな、と思っていました。
 その後戦争がどんどん激しくなっちゃたもんですから、親父が私にピアノが弾けるようになる教育をしてくれた目的が何だったのか、まったく解らなくなってきましたし、それどころではなくなったというのが本当のところだったかも知れませんね。
 
 
「プログラム・マガジン」2017年9・10月号掲載 
 
 
 
 
 
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