大阪交響楽団 曲目解説 名曲コンサート 2017年度

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2017年度 名曲コンサート 曲目解説

 
 
第100回名曲コンサート    2月3日(土)
ディエゴ・マルティン・エチェバリア
村治 奏一

 
スペインからの風
-ロッシーニ没後150年/ビゼー生誕180年-
 
2018年2月3日(土)
昼の部 13時30分/夜の部 17時00分 開演
 
 
ジョアッキーノ・ロッシーニ(1792-1868)
歌劇「セヴィリアの理髪師」序曲
 
 「セヴィリアの理髪師」は、19世紀初め頃の傑出したオペラ作曲家、ジョアッキーノ・ロッシーニ(1792、ペザロ ― 1868、パリ)の代表作であり、同時に当時のオペラ・ブッファ(喜歌劇)中、最高の当り作となったものである。ロッシーニは少年の頃から才能を表し、20歳代にはもう一流歌劇作曲家の仲間入りをしていた。「セヴィリアの理髪師」を書き上げたのは24歳の時で、それまでにも彼は「絹のはしご」「アルジェのイタリア女」などの当り作を発表していたとは言え、この作品をもって真にその地歩を確立したのであった。名高いボーマルシェの戯曲にもとづいてチェザレ・ステルビーニが書いた台本による2幕のオペラで、主人公のアルマヴィーヴァ伯爵が、気転の利く理髪師フィガロの助けを得て、美しい娘ロジーナとの結婚を果たすいきさつを描いている。この歌劇は「序曲」の美しさ、楽しさにおいても名高いが、実はこの序曲はこの歌劇のために書かれたものではなく、前年の1815年にナポリで初演された歌劇「イギリス女王エリザベス」の序曲を転用したものだ、という“裏話”がある。
 ともあれ、この序曲が、南スペイン、アンダルシアの主な都セヴィリア(セビーリャ)に繰りひろげられる恋と策略のおもしろおかしいドラマにふさわしい、快調な調べであることは間違いない。
 
作曲年代 1815年~1816年
初  演  (歌劇に関して)1816年2月20日、ローマのアルジェンティナ劇場にて
楽器編成
 フルート2(ピッコロ1持ち替え)、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、大太鼓、シンバル、弦五部
(トロンボーンとシンバルは、版によって使用しないこともある。)
 
 
 
ホアキン・ロドリーゴ(1901-1999)
アランフェス協奏曲
 
 20世紀一杯を生きたホアキン・ロドリーゴ(1901、スペイン東部の町サグント ― 1999、マドリード)は、3歳のとき悪性ジフテリアのため失明するという運命を背負いながら、アルベニス、グラナドス、ファリャなど先人たちが興したスペイン民族主義楽派を引き継いで、「ネオ・カスティシズモ(新しい“お国ぶり”の楽派)」を確立した非凡な作曲家である。20世紀の作曲家としては、ほとんど前衛的な手法をとらず、伝統的な調性音楽の範囲にとどまったため、「後ろ向き」との批判を蒙ったこともあるが、「たとえいっときでも聴く人を楽しませ、幸せにする音楽を書きたい」というモットーを貫き、独自の個性にもけっして欠けてはいなかったロドリーゴの価値を、いたずらに低く見ることは許されまい。
 ロドリーゴは、いずれかと言えばピアノ曲、歌曲など小規模で親密な趣の分野に本領を発揮したが、いっぽうではとりわけ協奏曲のジャンルを好み、ピアノ、ヴァイオリン、チェロ、ハープ、フルートなどに、それぞれ美しいコンチェルトを書き残している。そして、けっして忘れられないのが、ギターと管弦楽を協奏させた作品である。「アランフェス協奏曲」「ある貴紳のための幻想曲」「ある宴のための協奏曲」「(4台のギターのための)アンダルシア協奏曲」などが想起されるが、中でも「アランフェス協奏曲」は、ロドリーゴの名を一躍世界的なものに高めた名作であり、とりわけその第2楽章「アダージョ」の旋律は、「ラフマニノフの第2ピアノ協奏曲」のそれと並んで、「20世紀に書かれた協奏曲の旋律中、最も広く人びとに親しまれるもの」とまで言われている。
 ロドリーゴは、当初故郷のバレンシア地方で音楽の勉強を始めたのち、パリへ留学し、大家ポール・デュカス(名曲「魔法使いの弟子」の作曲家)に師事した。やがて祖国スペインは不幸な内戦(1936-39)に突入し、その間ロドリーゴは援助も絶えて貧窮生活を送らねばならなかったが、ちょうどその頃、スペインの高名なギタリスト、マドリード音楽院ギター科教授であったレヒーノ・サインス・デ・ラ・マーサ(1896-1981)の協力を得ながら着想し書き上げたのが、この協奏曲だったのである。ギターと管弦楽のための協奏曲は、かつて19世紀の初め頃、ギター音楽の古典期において、ジュリアーニ、カルッリ、モリーノなどの作例はあったが、「20世紀に入ってのちは全く忘却されていたジャンルである。その点、ロドリーゴの新作は、「ギター協奏曲」というジャンルを現代に甦えらせる、史上に貴重な一石となったのだった。
 曲の表題となった「アランフェス」は、スペイン中央高原地帯に位置する首都マドリードから、ほぼ南方へ47キロほど隔たった土地の名である。おおむね乾燥した中央スペインにあって、大河タホの水源にあたるここは珍しく森の緑に恵まれ、ひとつのオアシスをなしている。従って古くから王家の離宮もここに建てられ、現在では有数の観光地となっている。ロドリーゴは妻と共にここを訪れたことがあり、目に見ることはできなくとも、鳥の声、せせらぎ、あるいは花の香りから、この土地の美しさを充分に感じ取った。また、ここに繰りひろげられた歴史物語なども、妻(ビクトリア夫人、生涯にわたりロドリーゴの目となり、手足となって彼を支えた)から詳しく説明を受けた。そこから彼は、「貴族的なものと民衆的なものとがひとつに溶け合っていた18世紀頃のスペインの姿」を音に描いてみようという試みを、この協奏曲に托したのである。
 曲は古典的な3楽章形式をとり、次のように展開する。

 
第1楽章 アレグロ・コン・スピーリト(精気を込めて) ソナタ形式をとるが、8分の6拍子と4分の3拍子を混在させたリズムはたいへんスペイン的なもので、主題旋律にも豊かな“お国ぶり”を感じさせる。

第2楽章 アダージョ A-B-A’-C-A”の形で書かれ、とりわけ主題旋律に聴くギターとイングリッシュ・ホルンの対話は、一度耳にすれば忘れられぬほどの感銘をもたらす。後段、Cの部分に入るギターのカデンツァもまた豊かな詩情を醸し出す。
 
第3楽章 アレグロ・ジェンティーレ(優美に) ロンド形式をとり、第1楽章の軽快さが戻ってくる。リズミカルな生気に満ちみちた終楽章。
 
作曲年代  数年を費やして1939年に完成。
初  演
 1940年11月9日、バルセロナにて。ギター独奏者はレヒーノ・サインス・デ・ラ・マーサ。
[3年続いた内戦の直後であり、傷つき疲れたスペイン人の心に大きな希望と慰めを与えた、と伝えられる。]
楽器編成  独奏ギター、フルート2(ピッコロ1持ち替え)、オーボエ2(イングリッシュ・ホルン1持ち替え)、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、弦五部
 
 
 
ジョルジュ・ビゼー(1838-1875)
「カルメン」組曲より
“前奏曲” “ハバネラ” “アルカラの竜騎兵” “闘牛士の歌”
“間奏曲” “アラゴネーズ” “ジプシーの歌”
 
 ジョルジュ・ビゼー(1838、パリ ― 1875、パリ近郊ブージヴァル)と言えば、まずは「カルメン」というほど、この歌劇は有名であり、事実、彼の最高傑作であることは疑いない。ただし、ビゼーはけっして「カルメン」のみの作曲家ではなく、歌劇では他に「真珠とり」「美しいパースの娘」などを書いているし、劇付随音楽の管弦楽曲「アルルの女」も広く親しまれるものである。ただ1曲ながら、魅力に欠けていない「交響曲(ハ長調)」や、声楽曲、ピアノ曲にも秀れた作品が残されている。
 ともあれ、「カルメン」があってこそのビゼー、というのも確かなこと。この歌劇を、彼はその生涯の最後の年にあたる1875年に完成し、初演した。舞台はスペインのセヴィリア、時代は1820年頃という設定で、ヒロインに奔放で世間の常識には収まらないジプシー女性を登場させ、彼女に恋し、さまざまな経緯ののち彼女を自ら手にかけてしまう竜騎兵伍長ドン・ホセをその相手役とするこのオペラは、初演当時、非道徳的、反社会的と見なされ、評判が悪かったという。しかし、その後、作品としての魅力と価値が見直され、フランスのみならず諸国で上演を繰返すようになった。しかし、当のビゼーは、栄光に浸ることもなく、初演のその年に病没してしまうのである。
 「カルメン」は、おおむねスペイン的な風味を帯びた魅力的な楽想に満たされているため、それらを抽出して「組曲」の姿に編み演奏することが、早くから行われてきた。ここに聴くのもそれである。以下、1曲ごとに短く注釈を施しておこう。

 
★前奏曲
歌劇の始めに奏されるオーケストラ曲で、まず快活な行進曲(闘牛士の入場の音楽)から始まり、名高い「闘牛士の歌」へと続く。やがて、突然、曲は暗くかげった感じとなり、カルメンの悲劇的な最期を暗示する「運命のテーマ」が現れる。以上、人のさだめの明と暗を組み合わせた「前奏曲」のうちに、このオペラのすべてが込められるわけである。

★ハバネラ
「カルメンのハバネラ」として周知の旋律。じつはこの曲はスペインの作曲家、S・イラディエル(1809-1865)の作品なのだが、ビゼーは作者不詳の民謡だと思って歌劇の中に用いたのだという。中米の島国キューバに興ったハバネラのリズムに乗る官能的な調べ。第1幕で、カルメンがホセを誘惑しようと歌う。

 
★アルカラの竜騎兵
第2幕への前奏となる間奏曲で、第2幕でホセが歌う特徴的な歌の旋律によっている。

 
★闘牛士の歌
歌劇中でも有名なこの勇ましい旋律は、ホセの恋敵となる人気者の闘牛士、エスカミーリョのテーマ音楽である。

 
★間奏曲
このたいへん抒情的な旋律(第3幕への前奏曲)は、もとは劇音楽「アルルの女」のために書かれたのが転用されたもので、しっとりと響く。

 
★アラゴネーズ
“アラゴン地方(スペイン北部)の調べ”の意だが、とくに根拠は無いようである。第4幕(最終幕)への前奏曲で、急テンポの波打つ調べが、終幕の悲劇を予告する。

 
★ジプシーの歌
第2幕、町はずれの酒場でジプシーたちがタンバリンを手に浮かれて踊る場面の音楽。たいへんリズミカルで楽しげな中にも、一抹の哀愁が宿っている。
 
 
作曲年代  メリメの小説から脚色されたアレヴィおよびメイヤックの台本により、ビゼーが「カルメン」を書き上げたのは1872~1875年である。
初  演  (歌劇に関しては)1875年3月3日、パリ、オペラ・コミック劇場
楽器編成
フルート2(ピッコロ1持ち替え)、オーボエ2(イングリッシュ・ホルン1持ち替え)、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、タンバリン、カスタネットほか打楽器、ハープ、弦五部(「組曲」の場合、編曲によって多少の違いが生ずる)
 
 
 
モーリス・ラヴェル(1875-1937)
ボレロ
 
 近代フランス音楽大家中の大家で「音の錬金術師」と呼ばれたモーリス・ラヴェル(1875、シブール ― 1937、パリ)。その作品では歌劇(「スペインの時」「子供と魔法」)やピアノ協奏曲、ピアノ独奏曲、室内楽曲、歌曲なども重要だが、中でも交響詩「ダフニスとクロエ」、バレエ曲「マ・メール・ロワ」、「スペイン狂詩曲」などの管弦楽曲は、オーケストレーションの見事さからも、きわめて高い価値を認められている。そうした中でも最も広く知られた作品「ボレロ」は、スペインの伝統的な舞曲のリズムにもとづいて書かれたバレエのための音楽である。作品としてまことに特異なのは、1本のメロディーを変化・発展させることなく幾度でもリズムに乗せて繰返し、ただ楽器だけを次つぎと変えてゆく…という、彼以前には誰も思いつかなかった手法である。言ってみれば、これは、メロディー、リズム、ハーモニーを変化させるのではなく、楽器すなわち音色を変化させることによって作られる一種の「変奏曲」ということになる。なんとこれは「コロンブスの卵」的な、思いきった発想であろうか。
 
 
作曲年代 舞踊家イダ・ルビンスタインよりの委嘱を受け、1928年に作曲
初  演
1928年11月22日、パリ・オペラ座。イダ・ルビンスタインと彼女の舞踊団公演。ヴァルテル・ストララム指揮による。
楽器編成 フルート2(ピッコロ1持ち替え)、オーボエ2(オーボエ・ダモーレ1持ち替え)、イングリッシュ・ホルン、クラリネット2(ESクラリネット1持ち替え)、バスクラリネット、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、ピッコロトランペット、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、サクソフォーン(ソプラノ、テノール)、ティンパニ、小太鼓2、大太鼓、シンバル、タムタム、チェレスタ、ハープ、弦五部
 
 

     (C) 濱田滋郎(音楽評論家)(無断転載を禁ずる)

 

 

 

 

 

 

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