大阪交響楽団 2017年度いずみホール定期演奏会 曲目解説

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第30回 いずみホール定期演奏会 10月18日(水)
大井 剛史
エドゥアルト・クンツ

第30回いずみホール定期演奏会
秋深まるブラームス
 
2017年10月18日(水)
<昼の部>14時30分開演 <夜の部>19時00分開演
いずみホール
 

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827)
ピアノ協奏曲 第3番 ハ短調 作品37
 
 素材を吟味し、推敲を重ねつつそれを丹念に組み立てていく――ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827)の堅固に構築された作品(楽譜)からはそんな仕事ぶりが覗われる(遺されたスケッチ帳もそのことを裏付けるものだ)。だが、反面、彼の音楽からはそうした「堅固さ」を壊しかねないような奔放さも見え隠れする。そして、それが色濃く現れているのが、彼自身が巧みに弾きこなしたピアノを主体とする作品、とりわけ協奏曲だ。ベートーヴェンが名を成したのは、まず、ピアニストとしてである。そんな自身の技を披露し、聴衆の注目を集めるのにピアノ協奏曲はまさに格好の曲種だった。
 やがて耳の不調のために演奏活動から離れざるを得なくなるベートーヴェンだが、第3番の頃はまだまだ好調で、初演の独奏も当然、自身で行っている。ところが、実はこの時点ではピアノ・パートは完成しておらず、かなりの部分を即興で切り抜けねばならなかった。しかし、若い頃は即興演奏家で鳴らしたベートーヴェンのこと。さぞかしスリリングな名演を繰り広げたことだろう(なお、翌年には完全に書き上げた楽譜による再演が弟子のフェルディナント・リースを独奏者に迎えて行われた)。
 全曲は急・緩・急の3つの楽章から成る。第1楽章はハ短調、2/2拍子のソナタ形式。古典派協奏曲の定石通り、まず管弦楽のみによって2つの主題が提示されたのち、ピアノを加えて再提示がなされる。一見回りくどいが、これはおそらく、独奏のありようを際立たせるための知恵であろう。第1主題が分散和音に基づくものであるのに対して、第2主題は優美な旋律だ。提示部でのピアノの入りは上行音階によるが、展開部の始まりもまた、同じふうに告げられる。しかし、この部分はさほど長くはなく、ピアノも技巧を披露するよりもむしろ、音楽の組み立てに奉仕するかのよう。やがて再現部に至り、カデンツァが奏でられる(これは独奏者が自由に弾いてよい箇所。ベートーヴェンはいちおう案をつくってはいるが)。興味深いのはその締めくくり。主調(ここではハ短調の)属7和音から主和音に入るのが定石なのだが、この場合、構成音がほとんど同じのヘ長調の属7に入り、しばし解決が遅らされる。全曲中もっとも魅力的かつ神秘的な場面ではなかろうか。第2楽章はホ長調、3/8拍子の三部形式。主部はまずピアノ独奏に始まり、管弦楽がこれを承けて楽節を仕上げる。中間部もまずはホ長調で始まるが、やがてト長調に転じ(この変化は主部のピアノ独奏部の中で予示されている)、ピアノが奏でる分散和音の波間を種々の楽器による旋律の断片が浮かんでは消えていく。再現部では元の調に戻り、終始ピアノと管弦楽が対話を繰り広げる。第3楽章はハ短調、2/4拍子のロンド・ソナタ形式。提示部ではまず独奏ピアノが切迫感のある第1主題を示し、管弦楽がそれに続く。第2主題は長調によるもので、ここで音は軽やかに戯れる。再び第1主題に戻ったのち、展開部へ。ここで最初に現れる長調の旋律は第1主題中に含まれる動機に基づくものであり、続く管弦楽のみによるフーガ調の部分も同様。そこにピアノも戻ってきて、しばしのちに再現部に。その終わりに管弦楽が山場をつくる。そして、属和音からピアノのカデンツァ(これは総譜にも書かれている。ここでハ長調、6/8拍子に転じる)を経て、終わりに向かって音楽は疾走していく。
 
 
作曲年代  1796-1803年(決定稿は1804年)
初  演
 1803年4月5日。作曲者自身のピアノ独奏。アン・デア・ヴィーン劇場にて
楽器編成
独奏ピアノ、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニ、弦五部
 
 
 
ヨハネス・ブラームス(1833-1897)
交響曲 第1番 ハ短調 作品68
 
 「僕は決して交響曲を作曲しないだろう!君には思いも寄らないだろうが、あんな巨人[=ベートーヴェン]がいつも背後から迫ってくるのを聞けば、僕らのようなものはそんな気にはなれないよ」 ― 親しい指揮者ヘルマン・レーヴィにヨハネス・ブラームス(1833-97)はこう語ったという。1870年代のことである。なるほど、こんなふうに思った瞬間もあったのかもしれない。が、交響曲作曲こそは長年のブラームスの悲願であり、数年後にはめでたく成就した。
 もっとも、その仕込み期間の長さは尋常ではない。事の発端は1855年。前年に書いた《2台のピアノのためのソナタ》を元にブラームスは交響曲の完成を目指した。が、これは頓挫(し、現存しないこのソナタの題材は《ピアノ協奏曲第1番》に引き継がれる)。とはいえ、常に機会を覗っていた彼は、62年、1つの楽章を書き上げた。のちに第1番の第1楽章になるものである。もっとも、まだ機は熟していなかった。結局、本格的に作業に取り組んだのは70年代に入ってからのこと。その中でつい弱気になって、件の台詞が口から出たのだろうか。ともあれ、ブラームス最初の交響曲は76年に完成する。それがいかに大きな重圧と苦闘の中で生まれたかは、第1楽章の序奏(62年の時点ではなかったもの)、さらには第4楽章の序奏を聴けばたちどころに了解されよう。
 全曲は4つの楽章からなる。第1楽章はハ短調、6/8拍子のソナタ形式。序の中では2つの主題の種が蒔かれている。すなわち、順次進行で上行する動きと、逆に下行する動き、分散和音の動きだ。この楽章を通じて、これらが縦横に駆使され、そこにベートーヴェンの「運命」交響曲のリズム動機(タ・タ・タ・タン)も絡む。堅固に組み立てられた音が現出させるのは壮絶な闘争のドラマであり、序奏と対を成す結尾で安息に至る。第2楽章はホ長調、緩やかなテンポによる3/4拍子の三部形式。ここで目を惹くのは主部の途中で甘美な新たな旋律を奏で、短調に転じる中間部の出だしも担うオーボエだ。また、再現部では件の旋律を独奏ヴァイオリンが奏で、そのまま最後まで音楽を牽引する。第3楽章は変イ長調、2/4拍子の三部形式。主部を担うのは冒頭にクラリネットで示されるどこか飄々とした旋律と、それに応答するかのような付点リズムの下行音型だ。中間部では6/8拍子のロ長調に転じ、同音反復の動機を主体に音楽が繰り広げられ、元の拍子と調に戻った再現部で両者が統合される。第4楽章はハ長調、4/4拍子のソナタ形式。最初に重厚長大なアダージョの序奏が付くが、ハ短調のいかにも陰鬱とした前半と、それを打ち破るハ長調の後半から成る(第1楽章同様、ここでもソナタ本編の素材が予め提示されることに)。アレグロのソナタ提示部第1主題は弦が朗々と奏でる旋律(その後半はベートーヴェンの「歓喜の歌」の一部によく似ている)。他方、第2主題はト長調による屈曲した動きであり、両者共に十分に敷衍されたのち、ただちに再現部に至る。が、そこで第1主題が存分に展開され、しかも長大な結尾が付くので不足感はない。ハ短調の終止形に続くその結尾は弱音のもやもやした状態に始まるも、次第に勢いを増し、ハ長調2/2拍子に転じたのち、序で登場済みのコラール(なお、楽譜ではテンポを落とす指示はされていない)に至り、やがて壮大な最後を迎える。
 
作曲年代  1862-76年(決定稿は1877年)
初  演
 1876年11月4日。フェリックス・オットー・デッソフ指揮。カールスルーエの宮廷劇場にて
楽器編成
 フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、コントラファゴット1、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、弦五部
 
            
 (C)大久保 賢(音楽評論家)(無断転載を禁じる)
 
 
大久保 賢 
 
1966年金沢市生まれ。大阪大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。名古屋芸術大学、京都市立芸術大学非常勤講師。主な関心領域は音楽美学、20世紀の西洋音楽、ピアノ(作品と演奏)。著書に『黄昏の調べ ― 現代音楽の行方』(春秋社、2016年)、訳書にジム・サムスン『ショパン 孤高の創造者』(春秋社、2012年)がある。
 
 
 
大井剛史写真 Photo K.Miura
 
 
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