大阪交響楽団 2017年度 定期演奏会 曲目解説

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第213回 定期演奏会   10月26日(木)
外山 雄三
コルネリア・ヘルマン

 
2017年10月26日(木)19時00分開演 
 
 
北爪 道夫(1948-)
パラレル・Ⅱ  ―オーケストラのための―
 
 この作品は、シンプルな2管編成オーケストラのために書きました。「現代の音楽」では、表現力の拡大のために様々な特殊奏法や珍しい楽器の導入等が必須であり、それが作曲上の前提条件のように語られる場合があります。そのことを否定するものではありませんが、今回は、「それならば!」ということで、通常の標準編成に絞り込み、弦楽器・管楽器・打楽器それぞれ本来の率直な表現力を生かすことを念頭に置いています。いわば、逆の挑戦ということです。これは、以下に記すこの作品のアイディアとよくマッチしています。
 全体に、おおよそ3層の音楽が並行して進みます。といっても和声学的なメロディー、内声、バスといった組み合わせではなく、それぞれの層が独自の呼吸で展開される音楽的表現をもち、それらが同じ時間軸上に並行して共存・混在している、その奥行きのある状態を提示しています。作品タイトルの「パラレル」はそうした意味合いから名付けました。やみくもに統合を求めるのではなく、混在すること自体が、個々にとっても全体にとっても、ひとつの大きな力(表現)となるはずである…これは最早、生き物としての響きを信じるしかありません。さあ、ご一緒に「音楽」であり続ける「何か」の存在を探し当てる旅に出発しましょう!
 ある作品が、ひとつの「音楽」として立派に成立しているとき、そこにはその作品固有の落ち着きを得る「自然で望ましい統合」があるのだと思います。
 私は、自然のなかでの樹々をはじめ生き物同士の共存や社会での人間同士の共存と共通するものを、音楽に感じています。まさに音たちの共存として…。そう、オーケストラが大好きなのも、そこに全く同じ意味を感じるからなのです。
 今回、この委嘱新作を世界初演して下さいます外山雄三先生と大阪交響楽団の皆様に、心よりお礼を申し上げます。
 
 
●作曲年代  2017年
●初  演
 2017年10月26日。 外山雄三指揮。ザ・シンフォニーホールにて。
●楽器編成
フルート3 (ピッコロ1持ち替え)、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、   大太鼓、ドラ、吊りシンバル、ムチ、ウッドブロック、シロフォン、
マリンバ、ヴィブラフォン、テューブラーベル、弦五部
 
(C)  北爪 道夫(作曲家)(無断転載を禁じる)
 
北爪 道夫
 
1948年生。東京芸大大学院修了。77~85年アンサンブル・ヴァンドリアンで企画・作曲・指揮を担当し内外の現代作品を紹介、79年文化庁派遣芸術家として渡仏。以降、多様な演奏家・団体からの委嘱により新作の発表を続け国際的に高い評価を得ている。また、NHK-FM「ベスト・オブ・クラシック」等のテーマ音楽や劇場・放送用音楽等、幅広い活動を展開。2度の尾高賞、中島健蔵音楽賞、ユネスコ国際作曲家審議会大賞、吹奏楽アカデミー賞等を受賞。愛知芸大名誉教授、東京音大客員教授、日本作編曲家協会理事。
 
 
ロベルト・シューマン(1810-1856)
ピアノ協奏曲 イ短調 作品54
 
 1841年、31歳のロベルト・シューマン(1810-1856)は、ピアノとオーケストラのための「ファンタジー」という楽曲を完成させた。これは同年に妻クララの独奏によって公開の場で試演されたが、出版の引き受け手が無く、そのまま放っておかれることになる。しかし4年後の1845年、彼はこの作品を第1楽章に据えた協奏曲を作ることを思いたち、残る2つの楽章を加えて「ピアノ協奏曲」を完成させた(但し、第1楽章も45年の時点で修正が施されているので「ファンタジー」の原型がどれだけ残っているのかは不明である)。
 「ロベルトは・・・美しい最後の楽章を書き上げました。・・・私はそれがとても楽しみです。なぜならこれまでロベルトの書いた、規模の大きく華麗な大曲というものを私は弾いたことがないからです」。1945年6月27日、クララは日記にこう書いている。4年越しで待った甲斐あってというべきか、この作品は、協奏曲の歴史に新しい頁をひらく独創的な音楽として結実した。最初の一撃の驚き、独立した楽曲のように響くカデンツァ、第2楽章末尾における冒頭主題の回想、そしてほとんど奇跡のように生き生きとした終楽章にいたるまで、ここには若き日のシューマンのアイディアと可能性の全てが詰まっている。
  第1楽章(「愛情を込めたアレグロ」)はオーケストラの一撃の後、独奏ピアノの下行パッセージが木管群へと移る(このC-H-AAという音の並びは、クララCLARAを表しているという)。元来は独立した楽曲であったという成立の事情は、はっきりとした第2主題を持たないことや、曲の中間でピアノとクラリネットによる夢のようなエスプレッシーヴォの部分が入ることなどからもうかがえる。また、独奏とオーケストラの間の細やかな旋律の受け渡しは、古典派の協奏曲とは明らかに一線を画すもの。そして先述したカデンツァは、ほとんど一つの小品といってよい完成度をほこる。
  第2楽章「間奏曲、典雅なアンダンティーノ」はおっとりとした牧歌。シューマン・ファンの作家の奥泉光はその著書で「…切れ目なく第3楽章がはじまったとき、第2楽章の平凡さは、必要不可欠な平凡さ、この音楽の鮮烈さを際立たせるために必要な休止、あるいは序奏だったと聴衆は知るだろう」と説明するが、まさしくそんな趣がある。
 第3楽章(アレグロ・ヴィヴァーチェ)は、豪快な主題と、休符を生かした舞曲風の副主題との対比によるロンドだが、時には荘厳に、時にはサロン的に、くるくると表情を変えながら、次々に新しい場面が呼び込まれてゆく様子は驚異というほかない。シューマンの書いた、もっとも素晴らしい瞬間のいくつかが、ここにはある。

 
●作曲年代  1841-1845年
●初  演
 1845年12月4日。フェルディナント・ヒラー指揮、クララ・シューマン独奏。ドレスデンにて。
●楽器編成
独奏ピアノ、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニ、弦五部
 
 
 
ヨハネス・ブラームス(1833-1897)
交響曲 第3番 ヘ長調 作品90
 
 今年で没後120年を迎えるヨハネス・ブラームス(1833-97)ほど細部まで手を抜かない作曲家も珍しい。とりわけ交響曲は緻密にして重厚な傑作ぞろいだが、その中にあって「交響曲第3番」は、時としてオペラ的ともいえる派手な表現に溢れており、意外なほどの開放感が特徴といえる。以下、この曲が持つ独特の明るさの原因を、3つの角度から考えてみたい。
 最初に指摘できそうなのは、イタリア旅行の影響。ブラームスは「第3」に先立つ数年の間、3回もこの地を訪れている。彼はすっかりこの陽光溢れる土地に夢中になってしまったらしく、いくつかの資料からは子供のようにはしゃぐ大作曲家の姿が伝わってくる。ハンブルグ出身のブラームスにとって、それまでイタリアは距離的にも心理的にも、ひどく遠い場所だったに違いない。事実かどうかはともかく、「第3」の持つ明るさがこんなところに由来していると考えるのは楽しいことだ。
 もう一つ考えられるのは、彼がこの交響曲を書くために滞在したヴィースバーデンに住む、ヘルミーネという女性歌手との淡いロマンス。ほとんど娘ほども年が離れたヘルミーネに惹かれたブラームスは、後に彼女のためにいくつもの作品を書くことになる。生涯を独身で過ごしたブラームスにとって「第3」を作曲していた数ヶ月はかなり楽しい時期であったことは間違いない。
 しかし、こうした2つの理由以上に重要だと考えられるのは、この作品に着手する直前の1883年2月13日、あのリヒャルト・ワーグナーがこの世を去っているという事実である(ワーグナーも晩年、4度に渡るイタリア旅行に出かけ、結局ヴェネチアで没した)。ワーグナーの音楽に対しては一定の敬意を払い続けてきたブラームスであるが、よく知られているように、この時期において彼らは様々な事情から、敵対する派閥に組み入れられてしまった。しかし、ともかくこの「第3」以降は、こうした派閥争いとは無関係に創作を行なうことが可能になったわけである。どんなに気持ちが楽になったことか。
 おそらくは以上のような様々な理由が絡み合って、「第3」は4つの交響曲の中でもひときわ明るく、伸びやかな響きを持つことになった。とはいえ、第3楽章の憂愁には忘れがたいものがあるし、なんと言っても両端楽章が弱音で終わるというのは、交響曲としては大変珍しい。以下、それぞれの楽章についてごく簡単に述べる。
 第1楽章(アレグロ・コン・ブリオ)は、管楽器によって2つの和音が鳴らされて始まる。初演指揮者のリヒターがこの作品をブラームスの「英雄」だと述べたのは、この部分の印象が強いからだろう。勢いのいい第1主題は、主調であるヘ長調の分散和音からできているのだが、しかしヘ短調に属する変イ音も含まれているため、独特のゆらめくような効果を産み出している。
 第2楽章(アンダンテ)は、民謡風の主題を持った緩叙楽章。管楽器のアンサンブルに弦が答えるという冒頭部分のアイディアが、まずは楽しい。そしてところどころで現れる精妙な転調は、演奏に細心の注意を要求するもの。
 第3楽章(ポコ・アレグレット)は、儚いワルツ。冒頭の旋律は、ブラームスの作品中でも屈指の美しさを誇るが、この旋律を支えている弦楽器の伴奏の素晴らしさにも注目してほしい。こうした緻密な仕事は作曲者ならではのもの。ごく単純な3部形式だが、主部が戻る際にいくつかの管楽器のソロが担当する箇所も、聞きどころの一つ。
 第4楽章(アレグロ)は全曲の頂点を成す部分で、ファゴットのくすんだ音色を生かした開始部からドラマティックに曲が進んでいく。様々な工夫が惜しげもなく投入されているあたりに、絶好調のブラームスの姿が伺える。嵐のように曲が過ぎ去ると、柔らかにヘ長調の主和音を鳴らして全曲を閉じる。

 
●作曲年代  1883年
●初  演 1883年12月2日。ハンス・リヒター指揮ウィーン・フィル。ウィーン楽友協会ホールにて。
●楽器編成
 フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、弦五部
 
 (C)  沼野雄司(音楽学)(無断転載を禁じる)
 
沼野 雄司 
 
1965年東京生。東京藝術大学大学院博士課程修了。博士(音楽学)。現在、桐朋学園大学教授。著書に『リゲティ、ベリオ、ブーレーズ 前衛の終焉と現代音楽の未来』『ファンダメンタルな楽曲分析入門』(いずれも音楽之友社)など。2008年から2009年にかけてハーバード大学客員研究員。現在、web春秋にてE.ヴァレーズの評伝を連載中。
 
 
 
外山雄三写真 撮影:三浦興一
 
 
 
 
 
 
                                     
 
 
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