大阪交響楽団 2017年度 定期演奏会 曲目解説

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第211回 定期演奏会   7月27日(木)
ガブリエル・フェルツ
木澤 佐江子

 
2017年7月27日(木)19時00分開演 
 
リヒャルト・シュトラウス(1864-1949)
交響詩「死と変容」 作品24
 
 本日のコンサートは、シューベルトとリヒャルト・シュトラウスによる、死や絶望、また悲劇的なるものをテーマとした作品が並べられている。31年の短い生涯に尽きることなく溢れ出る楽想を紡いだシューベルトと、作曲と指揮に精力的な活動を続け、二つの世界大戦を挟む激動の時代を生き抜いて85歳の天寿を全うしたシュトラウス。二人の作曲家は死や絶望をどのように描いたのだろうか。
 「死と変容」はリヒャルト・シュトラウスの3曲目の交響詩で、病床に伏す芸術家の死と、その魂が死後に変容(浄化)して天に召されるさまが、ソナタ形式の枠組みの中で描かれる。スコアには、若きシュトラウスにリストやワーグナーの新しい音楽を教えたアレクサンダー・リッターによる詩が掲げられているが、これは作品の完成後に音楽を詩で表現して標題としたものである。
 曲はラルゴの序奏で始まり、死に直面した芸術家の不規則で弱々しい心臓の鼓動が聞こえる。やがてハープのアルペッジョに乗ってフルートが病人のかすかな微笑みを描き、オーボエの下行音型による「若き日の動機」が子供の頃の楽しい思い出を回想する。
 アレグロ・モルト・アジタートの提示部に入ると、激しい死との闘争が始まり、低弦のうごめくような進行が繰り返され、死に敢然と立ち向かう力強い動機が続く(第1主題部)。喘ぐような経過部ののちに、金管により決然と上行する「芸術家の理想の動機」がくっきりと現れる。テンポが落ちて(メノ・モッソ)、フルートによる「若き日の動機」が青春時代を美しく回想する(第2主題部)。
 展開部に入り、再び死との闘争が力強く始まる。「若き日の動機」が繰り返し展開され、そして、弦・金管・ハープによる「理想の動機」が大きく浮かび上がる。それが静まると、ティンパニが死の足音を刻む。短い再現部に移り、またも死との闘争が始まるが、タムタム(銅鑼)が静かに打ち鳴らされ、死が訪れる。
 モデラートのコーダに入り、崇高なハ長調の響きの中、「若き日の動機」が繰り返されたのち、荘厳に現れる「理想の動機」は「変容の動機」となって高揚し、浄化された魂は天に召されてゆく。
 
 
●作曲年代 1888~89年
●初  演
1890年6月21日 アイゼナッハ(市立劇場) 作曲者指揮
●楽器編成
フルート3、オーボエ2、イングリッシュホルン、クラリネット2、バスクラリネット、ファゴット2、コントラファゴット、
ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、タムタム、ハープ2、弦五部
 
 
フランツ・シューベルト(1797-1828)
交響曲 第4番 ハ短調 「悲劇的」 D417
 
 シューベルト19歳の時の作品。シューベルトは10代で第5番までの交響曲を完成し、この第4番の2年前には「糸を紡ぐグレートヒェン」、前年には「魔王」というリートの二大傑作を作曲している。当時シューベルトは小学校の助教員の職に就いていたが、教職は自分には合わないと感じ、作曲に専念したいと考えていた。「悲劇的」という副題はシューベルト自身が付けたもので、尊敬するベートーヴェンのような、劇的で強固な構成をもつスケールの大きな曲を作り上げようという意欲が漲っている。
 第1楽章:アダージョ・モルト~アレグロ・ヴィヴァーチェ ハ短調 ソナタ形式。冒頭、トゥッティ(全合奏)がフォルティッシモでド(C)音を叩き付け、次いで混沌とした序奏が続く。提示部では第1主題、第2主題ともにヴァイオリンで現れる。展開部は変ロ短調を中心とし、再現部はト短調で始まり、ハ長調に至るという、自由な調性構造をとっている。
 第2楽章:アンダンテ 変イ長調 ロンド形式(A-B-A-B-A)。おだやかで親密な雰囲気の主要主題(A)と、不安感を湛えたヘ短調(2度目は変ロ短調)の副次主題(B)が対比される。副次主題の上行音型は第1楽章の第1主題と関連している。
 第3楽章:メヌエット、アレグロ・ヴィヴァーチェ ハ短調。ユニゾンで提示されるメヌエット主題は4分の3拍子の3拍目にアクセントが付き、2小節単位の2分の3拍子に聞こえる特徴的なもので、スケルツォ風な性格をもつ。トリオ(変ホ長調)はおだやかなレントラー舞曲で、木管の主題の上行音型は第1楽章の第1主題と関連している。
 第4楽章:アレグロ ハ短調 ソナタ形式。ヴァイオリンが奏する第1主題は不安げな8分音符の刻みを伴い、ヴァイオリンとクラリネットが掛け合う第2主題も伴奏に絶えず8分音符の動きが続く。楽章のほぼ全体を通じて8分音符が絶え間なく連なり、常動曲のような性格をもっている。再現部はハ長調に転じ、暗から明への移行が明瞭に示される。最後にトゥッティがド(C)音を3回強奏して終わるが、これは第1楽章の冒頭と呼応している。
 
 
●作曲年代 (1815~)1816年
●初  演
1849年11月19日 ライプツィヒ(公開初演)
おそらく作曲後まもなくウィーン(オットー・ハトヴィヒ邸)で私的に演奏されたと考えられる。
●楽器編成
フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、ティンパニ、弦五部
 
 
フランツ・シューベルト(1797-1828)
交響曲 第7(8)番 ロ短調 「未完成」 D759
 
 シューベルトの「未完成交響曲」は謎に満ちた作品である。未完成に終わった理由も様々な説が唱えられているが、決定的な答えは得られない。言うまでもなく、シューベルトの人生にはあと6年の年月が残されていたのだから、ブルックナーの第9番やマーラーの第10番のように、作曲者の死によって未完に終わったのではない。第3楽章の断片が残されているので、2つの楽章で完成したと考えていたわけでもない(ただし、第3楽章の作曲を始めたものの、やはり2つの楽章で完結したと考え直した可能性は捨て切れない)。シューベルトの数多い未完成の作品の一つに過ぎないとする説もあるが、2つの楽章の完成度が異常なほど高いのだから、作曲を続けなかったのはやはり不思議である。また、自筆譜についても、従来言われてきた、グラーツのシュタイアーマルク音楽協会の名誉会員に推挙された返礼として2つの楽章を贈ったものの、演奏されずに放置されたという説は、資料的証拠に乏しく、近年では疑問視されている。この交響曲を作曲中のシューベルトは、梅毒が原因と思われる重い病気を患っており、25歳の若さで死の恐怖を切実に感じていた。暗黒の淵を覗き込むような絶望感が時折襲ってくるのは、そのためであろうか。
 第1楽章:アレグロ・モデラート ロ短調 ソナタ形式。低弦が奏する、冥界から響き出るかのような序奏主題は、楽章全体を統一する重要な役割を果たす。第1主題はヴァイオリンのさざ波のような動きに乗ったオーボエとクラリネットの嘆きの歌で、第2主題はチェロが表情豊かに歌う。展開部とコーダはもっぱら序奏主題を中心に展開し、劇的な盛り上がりを見せる。
 第2楽章:アンダンテ・コン・モート ホ長調 二部形式(展開部のないソナタ形式)。冒頭のコントラバスのピッツィカートの下行とホルンの上行は、楽章全体を統一する重要な役割を果たす。このホルンの3音からなる上行音型は、第1楽章の序奏主題の最初の2小節と関連している。第1主題はヴァイオリンとヴィオラの慰めの歌で、クラリネット(再現部ではオーボエ)による第2主題は3度音程を連ねただけの単純なメロディーだが、言い知れぬ寂寥感に満ちている。コーダで突然変イ長調に転じ、一瞬後光のような柔らかい光が射すのが印象的で、楽章冒頭と同じ低弦のピッツィカートで結ばれる。
 
 
●作曲年代 1822年
●初  演
1865年12月17日 ウィーン(王宮のレドゥーテンザール(舞踏会の間))、ヨハン・ヘルベック指揮
●楽器編成
フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、弦五部
 
 
リヒャルト・シュトラウス(1864-1949)
4つの最後の歌
 
 リヒャルト・シュトラウスの事実上最後の作品で(この後に書かれたのはピアノ伴奏歌曲「あおい」のみ)、第1~3曲はヘルマン・ヘッセの詩、第4曲はヨーゼフ・フォン・アイヒェンドルフの詩による。心ならずもナチスに利用されるなど、苦難の時代を耐え忍んだ84歳の老作曲家の遺言とも言える歌曲である。これら4曲は出版の際にまとめられ、現在演奏される順序に並べられたもので、連作歌曲ではないが、第1曲「春」を除いて、生の疲労や死の予感が歌われ、それを象徴するかのような下行音型が全曲に統一感を与えている。
 第1曲「春」:陰鬱な冬を経て、美しい春がやって来た。歌詞の1行目「薄暗い地下の墓所で」は冬の暗喩とも解釈できる。重苦しいハ短調で始まり、光溢れるハ長調に転じて春が訪れ、さらに優しいイ長調に進んで春を迎えた幸福が歌われる。
 第2曲「九月」:冷たい雨の降る庭で夏は静かに終わりを待ち、ゆっくりと疲れた目を閉じる。ドイツの九月は日本とは異なり、天候が不順で冷たい雨の降る日も多く、夏が終わったかと思うと、短い秋を経て、やがて長い冬を迎える。冒頭の付点リズムの動機と4小節目にヴァイオリンで現れる下行音型の動機で構成される。後奏の後ろ髪を引かれるようなホルンのソロが美しい。
 第3曲「眠りにつくとき」:昼の営みに疲れて寝床につくとき、まどろみの中で魂は思いのままに飛び巡る。冒頭に低弦で現れる下行する4音からなる動機を中心に構成される。ヴァイオリン・ソロが陶酔的に歌う間奏は冒頭の4音動機から派生したもので、下行音型がふんだんに使われている。その後、対照的に上行音型が現れ、まどろみの中の魂の飛翔が歌われるが、再び下行音型が現れて静かに終わる。
 第4曲「夕映えに」:夕映えの中を歩む老夫婦。ひばりがさえずり、夕闇が迫るなか、この疲労は死なのだろうか。眼前に美しい夕映えの景色が広がる印象的な前奏で始まり、2本のフルートのトリルが2羽のひばりのさえずりを描写する。老夫婦が死を予感する時、本日の1曲目に演奏された交響詩「死と変容」の「変容の動機」がホルンに現れ、弦と木管は死を受け容れるかのように下行を続けてゆく。
 
 
●作曲年代 1948年
●初  演
1950年5月22日 ロンドン(ロイヤル・アルバート・ホール) キルステン・フラグスタート独唱、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮、フィルハーモニア管弦楽団(第3、2、1、4曲の順序で演奏された)
●楽器編成
フルート3(ピッコロ2持ち替え)、オーボエ2、イングリッシュホルン、クラリネット2、バスクラリネット、
ファゴット3(コントラファゴット持ち替え)、ホルン4、
トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、チェレスタ、ハープ、弦五部、ソプラノ独唱(曲ごとに編成が異なる)
 
 
 

(C) 鶴間 圭(音楽学)(無断転載を禁じる)
 
 
ガブリエル・フェルツ写真 Foto:Magdalena Spinn
 
 
 
 
 
                                     
 
 
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