大阪交響楽団 2017年度 定期演奏会 曲目解説

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第215回 定期演奏会   1月12日(金)
寺岡 清高

2018年1月12日(金)19時00分開演
 
2016~2018年度全6回シリーズ
ウィーン世紀末のルーツ
~フックスとブラームスから始まる系譜(4)
 
ハンス・ロット(1858-1884)
「ハムレット序曲」(日本初演)
 
夭折の天才と言われ、近年リヴァイヴァルが急速に進んでいるハンス・ロット(1858-84)。彼が管弦楽曲をはじめとする作曲活動を本格的に開始したのは、1876年のことだった。1874年、ウィーン楽友協会音楽院に入学した当初、彼はアントン・ブルックナー(1824-96)のもとで、もっぱらオルガン演奏を学んでいたからである。
やがてロットは、ブルックナーに師事するかたわら、楽友協会音楽院で例えばフランツ・クレン(1816-97)に作曲を、ロベルト・フックス(1847-1927)に和声学などを学ぶようになる。(そもそもブルックナーからして、名オルガニストと同時に、気鋭の作曲家だった。)さらにロットは…当時音楽院の後輩で親友だったグスタフ・マーラー(1860-1911)と同様…、リヒャルト・ワーグナー(1813-83)に心酔し、第1回バイロイト音楽祭にも足を運ぶ。
こうした状況の中、ロットがオペラ創作に憧れたのは当然だろう。1876年に完成された「ハムレット序曲」はその顕著な例だ。だがユニークなのは、「型破り」なワーグナーに感化されきってしまうのではなく、「型」を守ることもおこなっていたという点。このあたりには、「型」の典型である交響曲の作曲にこだわったブルックナー、あるいは彼らのライヴァルと喧伝されたヨハネス・ブラームス(1833-97)からの影響を見て取れる。
「ハムレット序曲」に現れた「型」とは、古典派から引き継がれたソナタ形式に他ならない。提示部で第1主題〔譜例1〕・第2主題〔譜例2〕が示された後、両主題が相互に交わる展開部、変容を経た各主題が出現する再現部、という定型に当作品も則っている。ただし…ソナタ形式の拡大を実践したブルックナーに私淑したロットの特徴だが…、単に定型に安住せず、型あるがゆえの型破りを実践した点も見逃せない。各主題の極端なまでのコントラストや、…マーラーに受け継がれることになる…管弦楽の分厚い響きの中を管楽器よろしく活躍するティンパニの乱れ打ち〔譜例3〕は、格好の例となっている。
 
 
譜例作成:森 洋久
  
   作曲年代 1876年
 初  演 2014年6月5日 ウィーン コルネリウス・マイスター指揮 ORF放送交響楽団
 楽器編成
フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、弦五部
 
 
 
ハンス・ロット(1858-1884)
「管弦楽のための組曲 変ロ長調」からの二章(日本初演)
「管弦楽のための組曲 ホ長調」からの二章
 
「〈管弦楽のための組曲 変ロ長調〉からの二章」、「〈管弦楽のための組曲 ホ長調〉からの二章」は、それぞれ1877年と1878年頃の作品。2つともに奇妙な題名…といおうか呼称になっているが、その背景は微妙に異なる。
変ロ長調の場合は、元々4楽章構成で予定されていた組曲中、管弦楽用に一応の完成を見たのが第2楽章(スケルツォ)と第4楽章(フィナーレ)だけだったため、このようなタイトルとなった。ロットが様々な「若書き」に挑んでは途中で筆を折っていった、顕著な証拠となっている。いっぽうホ長調は、元々単一の曲として構想された後、2つの楽章(前奏曲とフィナーレ)に分けられた。
西洋音楽史において「管弦楽組曲」といえば、J・S・バッハ(1685-1750)のものが有名だ。ブルックナーやブラームスは、19世紀におけるバッハ再発見に重要な役割を果たしたが、彼らから影響を受けたロットも…またやがてバッハ作品の編曲をおこなうこととなるマーラーも…この流れに掉さした人物に他ならなかった。
 
 【変ロ長調】
   作曲年代 1877年
 初  演
2013年10月5日(公開初演) ベルリン クリストフ・ハール指揮
CDJ(ドイツキリスト教青少年村)管弦楽団
 楽器編成
フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、弦五部
 
 【ホ長調】
   作曲年代 1878年頃
 初  演 2005年4月12日 ハーゲン  アントニー・ヘルムス指揮
ハーゲン・フィルハーモニー管弦楽団
 楽器編成
フルート2、ピッコロ、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、ティンパニ、弦五部
 
 
 
グスタフ・マーラー(1860-1911)
交響形式による二部の音詩「巨人」

1893年ハンブルク稿(国際マーラー協会新校訂全集版)
 
現在『交響曲第1番』として知られているマーラーの作品には、複雑な成立史がある。①:交響詩として1888年に完成され1889年にブダペストで初演された稿(ブダペスト稿)、②:①を改訂し1893年にハンブルクで初演された交響形式による二部の音詩(以下「音詩」と略)「巨人」(ハンブルク稿)、②’:②を改訂し1894年にヴァイマールで初演された音詩「巨人」(ヴァイマール稿)、③:②’を改訂し1896年にベルリンで初演された交響曲(ベルリン稿、これに修正を加えたものが1899年に出版されて『交響曲第1番』となる)。
なお①そのものは散逸してしまっているため、現存する音詩のもっとも古い形は②ということ。ただし、本日演奏される稿=②’’ウニヴェルザール社から貸楽譜の形で出版されているラインハルト・クービク(1942-)校訂によるもの(おそらくは②’にもっとも近い形と考えられるが、詳細についての校訂者のコメントが公開されていない)は、オーケストレーションやアーティキュレーションといった細かな点で、②とは様々に異なっている。
たとえば、②では木管が三管編成・ホルンが4本のところ、②’’では木管が四管編成でホルンが7本。第1楽章の開始部分において、②ではすべての楽器が最初から舞台に上がっている一方、②’’ではトランペットとホルンの一部が舞台裏に配置されており、ある程度曲が進んでから舞台上に入ってくる。また第3楽章冒頭は②では低弦にティンパニが加わっているところ、②’’では低弦のみ。第4楽章の最初のメロディを奏でるのは、②ではチェロとコントラバスの各ソロだが、②’’ではコントラバスのみのソロといった具合である。つまり②’’には、後の③との共通性も少なくない。
また②においては『巨人』というタイトルはもとより、多くの楽章に標題が付けられていたところを、②’’ではタイトル自体は残されたものの、それぞれの楽章の標題が消滅してしまっている(これもまた、③により近づいた形と言えよう)。ちなみに②につけられていた標題は以下の通り。第1部『青春の日から』:第1楽章『終わりのない春!』・第2楽章『花の章』・第3楽章『スケルツォ』、第2部『人間喜劇』:第4楽章『<カロ風>の葬送行進曲、葬送行進曲風のテンポに基づく間奏曲』・第5楽章『煉獄から楽園へ』。
なお①~②’と③のもっとも顕著な違いはといえば、前者が全5楽章形式(第1-3楽章が第1部、第4・5楽章が第2部)の交響詩ないし音詩であるのに対し、後者は全4楽章形式の交響曲に改訂されているという点。前者の第2楽章(「花の章」)が削除された結果だが、マーラー自身すでに②’の時点でこれを削るすべきがどうか悩んでいた経緯がある。
ちなみにこの楽章は、マーラーがカッセルの宮廷歌劇場指揮者として働いていた時代に作られた劇附随音楽『ゼッキンゲンのトランペット吹き』(散逸)に基づいており、当時彼が恋していた歌手のヨハンナ・リヒター(1858-1943)への思慕が背景に存在すると言われている。つまりきわめて私的な体験が反映された楽章であり、しかも音楽的関連性という点から見ても他の楽章から浮いてしまうため、最終的には削除されたのだろう。
ただしマーラーの恋愛体験の反映という点では、③においても状況は変わらない。リヒターへの失恋体験を込めた歌曲集『さすらう若人の歌』からの旋律が第1楽章や第3楽章の中核を成したり、郷里での恋人ヨゼフィーヌ・ボイスルとの恋によって生まれた歌曲『緑の野での5月の踊り』(後に『ハンスとグレーテ』に改訂)の基本リズムが第2楽章に用いられたり、あるいはこの音詩そのものが人妻のマリオン・フォン・ウェーバー(1856-1931)との道ならぬ恋の中で書き進められていったりといった具合。
いずれにしても、③の交響曲に改めるにあたり、マーラーは伝統的な全4楽章形式に従った。しかもそこに、同時代の偉大な先達であるブラームスの『交響曲第1番』への意識があったことは間違いない。苦悩から勝利へという、19世紀的な交響曲のあり方に則って書かれたこの作品のひそみに、マーラーも倣った形である。もちろん③は、②’’で既に顕著になっている舞台上と舞台裏の響きの差異を用いた音の遠近法や、②’’をさらに拡大した巨大編成といった点で、ブラームスのさらに先を行く作品だったのだが。
先ほども書いたように、②において各楽章や各部に付けられた標題が、②’’では完全に削除され、ドイツ・ロマン派の文学者ジャン・パウル(1763-1825)の小説『巨人』にマーラーが影響を受けたことを物語るタイトルだけが残されている。いや、それでもパウルの『巨人』に書かれた若者の挫折や闘いや勝利といった熱い内容は、②だけではなく②’’にも受け継がれているというべきだろう。③では絶対音楽としての交響曲を意識して「巨人」というタイトルそのものすら取り払われている状況を顧みると、①~②’’は標題性を少なからず意識した「交響詩」ないし「音詩」だったことが分かる。
それが顕著に現れた一例が、第5楽章の最後。ホルンが勝利の凱歌を上げる中で、ベートーヴェンやブラームスの運命の動機を彷彿させるリズムをティンパニが刻む箇所〔譜例4:③ではティンパニが休み〕である。そこには紛れもなく、運命に打ち克つ意志を漲らせた小説の主人公に自らを重ね合わせた、若きマーラーの姿が刻印されているとはいえないか。
 
 
譜例作成:森 洋久
 
   作曲年代 1884-1888年。その後折にふれて②〜③への改訂作業あり。
 初  演
初演①
1889年11月20日 ブダペスト
作曲者指揮 ブダペスト・フィルハーモニー管弦楽団

初演②
1893年10月29日 ハンブルク
作曲者指揮 ハンブルク市立歌劇場管弦楽団
 
初演②’
2014年5月9日 ハンブルク
トーマス・ヘンゲルブロック指揮 ハンブルク北ドイツ放送交響楽団
 
初演③
1896年3月16日 ベルリン
作曲者指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
 楽器編成
フルート4(ピッコロ3持ち替え)、オーボエ4(イングリッシュ・ホルン1持ち替え)、Esクラリネット(バスクラリネット持ち替え)、クラリネット3(ESクラリネット1持ち替え)、ファゴット3(コントラファゴット1持ち替え)、ホルン7、トランペット4、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、トライアングル、シンバル、トルコ風シンバル、大太鼓、タムタム、ハープ、弦五部
 

(C)小宮 正安(ヨーロッパ文化史研究家・横浜国立大学教授)
 
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