大阪交響楽団 曲目解説 名曲コンサート 2016年度

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2016年度 名曲コンサート 曲目解説

 
 
第91回名曲コンサート   7月9日(土)
豊嶋 泰嗣

 
豊嶋泰嗣のモーツァルト
 
モーツァルト・ヴァイオリン協奏曲全曲演奏シリーズVol.1
モーツァルト生誕260年
 
 
2016年7月9日(土)
昼の部 13時30分/夜の部 17時00分 開演

 

 

曲目解説 / 萩谷 由喜子(音楽評論家)

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-1791)
ヴァイオリン協奏曲 第1番 変ロ長調 K.207


モーツァルトの35年の生涯は、生地ザルツブルクを拠点として旅に明け暮れた前半生25年間と、ウィーンに定住した後半生10年間とに二分されます。真作であることが確認されている彼の5曲のヴァイオリン協奏曲は、すべてその前半生ザルツブルク時代の一定期間に集中して書かれたものです。
1772年、16歳のモーツァルトはザルツブルク宮廷楽団の有給コンサートマスターに任命されました。職務上、自身で独奏者を務める機会もあり、また、同僚にアントニオ・ブルネッティというヴァイオリンの名手もいたこともあって、このコンサートマスター時代に彼は積極的にヴァイオリン協奏曲を書いたと推測されています。従来は、5曲とも1775年作曲と考えられていましたが、近年、この第1番のみそれより2年早い1773年、17歳の年に完成した作品であることが判明しました。他の4曲が装飾的な技巧を採り入れて華やかな演奏効果を狙ったフランス風のギャラント様式であるのに対して、この第1番のみ、オーストリア的な質実本意のスタイルであるのはそのためでしょう。とはいえ、この第1番もモーツァルトらしい優美な楽想と繊細な表情を持っています。3つの楽章ともソナタ形式で書かれていることも本作の特徴です。
なお、両端楽章、場合によっては第2楽章にも終わり近くでカデンツァと呼ばれる即興的独奏部分が演奏されますが、モーツァルト自身はどのヴァイオリン協奏曲にもこれを書きませんでした。もともと、独奏者の即興性に委ねるべき部分であるため、モーツァルトの時代には作曲者が書くことはほとんどなく、作曲者自身がカデンツァまで作り付けてしまうのはロマン派の時代以後に起きた現象です。モーツァルトやベートーヴェンの協奏曲には後世の名ヴァイオリニストたちによる何種かのカデンツァが伝わっていて、独奏者はその中から好みのものを選ぶか、既成のものに手を加えるなどします。豊嶋泰嗣さんはこの第1番では、ベーレンライター版カデンツァ集をもととする豊嶋版カデンツァを披露なさいます。
第1楽章:アレグロ・モデラート、変ロ長調、4/4拍子。オーケストラが明るい主題から生き生きと曲を開始し、一段落したところで独奏ヴァイオリンがその主題に装飾を加えて入ってきます。展開部では短調に転じて陰影を帯びますが、巧みに長調に戻って再現部に入り、カデンツァを経て溌溂としたコーダで曲を結びます。
第2楽章:アダージョ、変ホ長調、3/4拍子。ホルンの保持音をベースにオーケストラがひとしきり歌ったのち、独奏ヴァイオリンが新しい主題を掲げて登場し、穏やかな楽想を繰り広げます。
第3楽章:プレスト、変ロ長調、2/4拍子。ソナタ形式のフィナーレです。3つの主題を中心に華やかで活気ある音楽が展開されます。

作曲年代/1773年
初  演/不明
楽器編成/独奏ヴァイオリン、オーボエ2、ホルン2、弦5部
自筆譜の所在/ベルリン国立図書館


ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-1791)
ヴァイオリン協奏曲 第2番 ニ長調 K.211


モーツァルトは1774年の春頃からフランス風のエレガントで装飾性の強いギャラント・スタイルに開眼し、それを採り入れたソナタや協奏曲の作曲に傾注するようになります。当時はドイツ、オーストリアでもこのスタイルが持て囃されるようになった時期ですから、流行に敏感なモーツァルトがその作風に転じたのは当然と言える成り行きでした。1775年作曲の第2番から第5番の4曲のヴァイオリン協奏曲もその一連の作品に含まれています。第2番はそのギャラント・スタイルで書かれたヴァイオリン協奏曲の第1作にあたり、華やかな曲想であるばかりではなく、ニ長調というヴァイオリンにとってもっとも鳴りのよい調が選ばれ、堂々とした主題から曲を開始する手法にもこれから始まる一連の協奏曲創作への強い決意が反映されているかのようです。本日演奏されるカデンツァは、フランスの名ヴァイオリニスト、ジノ・フランチェスカッティ(1902-1991)のものです。
第1楽章:アレグロ・モデラート、ニ長調、4/4拍子。冒頭に示される全合奏主題は強弱の交代が煩雑におこなわれているのが大きな特徴です。次いで第2主題が第1ヴァイオリンから弱音で出され、やがて音量をあげて全合奏に至ります。このように、強弱の対比を軸として協奏風ソナタ形式の楽章が進められます。
第2楽章:アンダンテ、ト長調、3/4拍子。フランス趣味に彩られた旋律美にあふれる楽章です。一抹の翳りを見せる中間部も印象的です。
第3楽章:ロンド、アレグロ、ニ長調、3/4拍子。フランス風ロンド形式による生き生きとしたフィナーレ。短調部分も交えた2つのエピソードが織り込まれています。

作曲年代/1775年6月14日
初  演/不明
楽器編成/独奏ヴァイオリン、オーボエ2、ホルン2、 弦5部
自筆譜の所在/ベルリン国立図書館


ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-1791)
ヴァイオリン協奏曲 第5番 イ長調 K. 219 「トルコ風」


1775年に作曲された4曲のヴァイオリン協奏曲の最後を飾るこの第5番は演奏時間約30分という、5曲中最大規模を持つ大作です。《トルコ風》という愛称は終楽章のメヌエットの中間部にトルコ風の旋律とリズムを持つ楽想が登場することに由来します。のちに書かれるピアノ・ソナタK.331の第3楽章が有名な《トルコ行進曲》であるように、この時代のウィーンの人々にとって、かつて恐怖すべき相手であった強国トルコは国力が弱まったために侵攻される危機感が薄れ、むしろ、東方エキゾティズムへの好奇心と憧れの象徴となっていました。モーツァルトはそれを巧みに音楽に採り入れたのです。そのほかにもこの曲には、第1楽章ソロの冒頭にアダージョを置く、展開部を短調で始める、などの斬新なアイディアが駆使されています。第5番のカデンツァとしてはブラームスとの交友で知られるドイツの巨匠ヨーゼフ・ヨアヒム(1831-1907)のものが圧倒的な傑作で、今回もこのカデンツァが選択されています。
第1楽章:アレグロ・アペルト、イ長調、4/4拍子。英語のオープンに相当するイタリア語アペルトを発想標語とする明るく堂々とした開始楽章です。オーケストラによる主題呈示が一段落すると、波打つ弦のトレモロにのって独奏ヴァイオリンが主和音をゆっくりと上昇します。その後再びアレグロ・アペルトとなり、オーケストラによる冒頭主題の弱奏を対旋律としてソロが新しい主題を力強く開始します。
第2楽章:アダージョ、ホ長調、2/4拍子。2つの主題を中心とするソナタ形式の緩徐楽章。情感に満ちた楽想が連綿と歌われます。
第3楽章:ロンド、テンポ・ディ・メヌエット、イ長調、3/4拍子。主部は優雅なメヌエットですが、中間部は一転して、イ短調、2/4拍子の荒々しい表情のアレグロとなります。ここがトルコ風と言われる部分です。トルコの音楽は打楽器が重要な役目を果たしますが、この協奏曲は編成に打楽器を含んでいないため、低音弦楽器が弓の木枠の部分で弦を叩くコル・レーニョ奏法を用いて打楽器的な音響効果をあげています。トルコ風部分のあと、再びチャーミングなメヌエットに戻り、次第に力を弱めていって最後は静かに終結します。

作曲年代/1775年12月20日
初  演/不明
楽器編成/独奏ヴァイオリン、オーボエ2、ホルン2、弦5部
自筆譜の所在/ワシントンD.C、アメリカ議会図書館
 
 
 
         (C)萩谷 由喜子(音楽評論家)(無断転載を禁じる)
 
 
 
 

    


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
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