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長島喜一郎コラム

 

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第5回 『魔笛』をめぐるあれこれ
2017-01-20
第5回
『魔笛』をめぐるあれこれ

  かつてウィーンは城壁と堀に囲まれた城塞都市で、19世紀半ば過ぎに取り壊されるまでは、11の城門を通り抜けることでのみ郊外の町と出入りすることができました。最も重要な門はケルンテン門で、市内からこの門を抜け、防衛上の理由から建物を建てることを禁止されていた平原(専門用語で斜堤と言います)と、その真ん中を流れていたウィーン川を越えて郊外ヴィーデンに入るとすぐに巨大な建物フライハウスがありました。ここには200を越える住居、教会、図書館、さまざまな作業場などがあり、1785年にヴィーデン劇場(通称フライハウス劇場)も建てられました。この劇場は斜堤に街灯を整備して城壁内から人が来やすくする企業努力を行い、1789年にエマヌエル・シカネーダーが経営に携わるようになると、多くのヒット作で名を知られるようになります。その最高傑作は1791年9月30日に初演されたモーツァルトの『魔笛』で、シカネーダーは台本を書き、パパゲーノを創唱しました。
  ニッセン(モーツァルト未亡人コンスタンツェの再婚相手)によるモーツァルトの伝記では、客が集まらずに資金難に苦しんでいたシカネーダーの求めでモーツァルトが不滅のオペラを作曲したことになっています。そのように信じられていた時代もありましたが、当時実際にお金に困っていたのはモーツァルトの方だったので、モーツァルトがシカネーダーに泣きついたというのが本当のところでしょう。シカネーダーはザルツブルク時代からの友人のためにオペラを注文して一肌脱ぎました。
  『魔笛』は大評判となり、連日上演されて劇場は客であふれます。そんな中モーツァルトは初演の約2ヵ月後の12月5日に35歳で急逝しました。2人の協力関係がこの作品だけに終わったことはとても残念なことです。シカネーダーはその後も成功を収め、1801年6月13日に郊外ライムグルーベのウィーン川沿いに、より大きな劇場:アン・デア・ウィーン劇場(ウィーン河畔劇場の意)をオープンさせました。そこはベートーヴェンの『フィデリオ』や交響曲第5,6番、シュトラウス2世の『こうもり』やレハール『メリー・ウィドー』の初演劇場として知られ、第2次世界大戦後はウィーン国立歌劇場のアンサンブルが1955年の劇場再建まで活動しました。現在も歌劇場として使用されています。劇場側面の入口上に、パパゲーノの像が飾られています。前回の写真をご覧ください。
  ヴィーデン劇場は、アン・デア・ウィーン劇場開場の前日の公演を最後に閉鎖されました。フライハウスは1913年から次第に取り壊されましたが、一部は1970年頃まで残っていたそうです。劇場の跡地付近に『魔笛』初演を記念する銘板が掲げられています。笛を吹いているタミーノのように見えますが、鳥かごを背負ったパパゲーノです。劇場の中庭にモーツァルトが『魔笛』の作曲をしたと伝えられるあずまやがありました。作曲の遅れていた彼をシカネーダーがそこへ連れ込んで作曲を強要したと言い伝えが残っています。しかしこれはあくまで伝説で実際にそうだったのか分りません。ただし小屋は劇場のすぐそばにあったので、そこでモーツァルトが休み、曲の一部を構想した可能性はあるでしょう。この作曲小屋は建物の取り壊しが検討され始めた1873年にザルツブルクのモーツァルテウムに寄贈されました。小屋はザルツブルクへ運ばれ、まずミラベル庭園内で、ついで1877年からカプツィーナーベルク山頂で公開されました。第2次世界大戦中に砲撃によって戦火を受けましたが補修され、1950年からはモーツァルテウム大劇場の中庭に移されて、春夏の音楽祭などでこの会場が使用される際は誰でも見ることができます。モーツァルト当時のオリジナルの木材がどれほど残っているのか分りませんが、この小さなあずまやで偉大な歌劇が構想されたと感慨にふけることができます。カプツィーナーベルク山頂の以前の公開場所には、現在モーツァルト像が置かれています。
 
写真左:『魔笛』初演を記念する銘板 ウィーン4区 Operngasse 26
写真右:『魔笛』作曲小屋 ザルツブルク Schwarzstraβe 26/28
 
 
音楽ジャーナリスト 長島 喜一郎
「プログラム・マガジン」2017年1・2月号掲載
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