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長島喜一郎コラム

 

クラシック・おもちゃ箱

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第3回 ワーグナー トリープシェン
2016-09-12
ワーグナー トリープシェン

ワーグナーが好きで、彼の作品が上演されれば必ず観に行く友人がいます。そんな彼でも、ワーグナーの作品は素晴らしいが、人間性は好きになれないので、一緒に話をしたいと思わないと言います。確かに彼の破天荒な行動については枚挙にいとまがありません。
たとえば、
・マイアベーアの推薦によりドレスデンで『リエンツィ』が上演され、その成功で宮廷歌劇場の指揮者になったにもかかわらず、反国王の革命に参加してお尋ね者となり逃亡することになる。
・逃亡後リストの助力でチューリヒに落ち着くが、ユダヤ人作曲家が社会的に成功していることを妬み、金儲け主義のユダヤ人にはまともな作品は書けないとして、かつて推薦してくれたマイアベーアや、メンデルスゾーン=バルトルディを攻撃した。
・チューリヒで裕福な商人ヴェーゼンドンクの援助を受けて、彼の邸宅のそばに家を提供されたが、こともあろうにヴェーゼンドンク夫人マチルデと相思相愛の関係となり、それが原因でチューリヒから退去せざるを得なくなる。
・マチルデとの恋愛感情を昇華させた作品『トリスタンとイゾルデ』上演のためウィーンに行くものの、歌手が病気となったため上演はキャンセル。ロシアでの演奏会で稼いだお金を元手に豪華な家具を買い入れて、贅沢な暮らしをしたつけがまわってウィーンから夜逃げするはめとなる。
・バイエルン国王ルートヴィヒ2世からミュンヘンへ招かれると、かつて革命に参加した反骨精神はあっという間にどこかへ消えうせ、申し出に従って莫大な借金を肩代わりしてもらい、作曲のための館の提供を受ける。
・ワーグナーの要請でミュンヘンへ来た指揮者ビューローの妻コジマと不倫し、2人の娘、1人の息子をもうける。
・国費を浪費しモラルもないワーグナーに対する反感が高まり、ついにミュンヘンを出てルツェルンへ移り住むことになる。etc. etc…
こう書いただけでも、とても友人にしたいタイプではありません。それでも彼は魅力的な人だったようで、ユダヤ人を含めて多くの取り巻きがいました。
ルツェルンでワーグナーがコジマや子どもたちと共に暮らした家はトリープシェンといい、目の前にフィーアヴァルトシュテッターゼー(通称ルツェルン湖)が広がっています。写真のように3階建ての大きな1軒家です。さぞかし高かったと想像される賃料は、もちろんルートヴィヒ2世が払ってくれました。現在はワーグナー博物館として公開されています。ここに彼は1866年から1872年まで住み、『マイスタージンガー』、『ジークフリート』を完成させ、『神々の黄昏』の一部を作曲しました。ルツェルン駅から博物館まで歩くと少しかかりますが、そばに船着場があり、船で行くことも可能です。『ジークフリート牧歌』は、長男ジークフリートを生んでくれたコジマに対する感謝の念から作曲され、1870年12月25日早朝に、この家で初演されました。演奏者は階段に立ったとされています。そうだとすると階段は曲がっているので、指揮をしたワーグナーを見ることができなかった演奏者がいたと思われます。もともと曲の原題は長く、要約すると『トリープシェン牧歌』だったのですが、楽劇に出てくる旋律から現在の名前に落ち着きました。
数々の愚行を繰り返したワーグナーですが、恋愛を昇華させて大傑作『トリスタン』を作曲し、ついには自分の作品のみを上演するための専用劇場をバイロイトに建てるといった実行力は、さすがと言わざるをえません。天才が故に許された愚行というものでしょう。もちろん巻き込まれた人にとっては、とんでもない奴ですけれども…
 
音楽ジャーナリスト 長島 喜一郎
「プログラム・マガジン」2016年9・10月号掲載
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