大阪交響楽団 2016年度 定期演奏会 曲目解説

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第208回 定期演奏会   2月22日(水)
外山 雄三
横山 幸雄

2017年2月22日(水)19時00分開演
 
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827)
ピアノ協奏曲 第4番 ト長調 作品58


  現代と異なり、かつては優れた演奏家が作曲家を兼ねていた。ベートーヴェンも、まずピアニストとしてウィーンにデビューし、名を馳せた。その際に大きな役割を担ったのがピアノ協奏曲。オーケストラを従えて独奏楽器が華々しく活躍する協奏曲は、演奏技巧と作曲技術を同時に披露するのに最適であった。初演時に難聴が悪化していた第5番以外のピアノ協奏曲は、全てベートーヴェン自身が初演のピアノを弾いている。また、この第4番は、ベートーヴェンが公開の演奏会でピアノを弾いた最後の曲となった。
  協奏曲において、従来、伴奏に徹することの多かったオーケストラに、ベートーヴェンは交響曲のような色彩を与え、「オーケストラとピアノの対話」とも言うべき新しいスタイルを確立した。当時、ピアノは産業革命下で劇的に進化したが、現代のピアノと比較するとまだまだ音量は小さかった。その少ない力でオーケストラと渡り合うため、分散和音やトレモロを駆使して音響効果を上げている。オーケストラ側も、ピアノと親密に語り合うためか、第1楽章の編成にはティンパニとトランペットを含まず、第2楽章は弦楽のみである。現代のピアノで演奏すると、ピアノが目立つソリスティックな協奏曲になりがちだが、それら華々しいパッセージの当初の意図はヴィルトゥオジティではなく、楽器の特性を補うものであったことに留意したい。

  第1楽章 Allegro moderato
  ト長調、4/4拍子。協奏的ソナタ形式。この形式は、オーケストラのみの前奏で全ての要素が現れ、第1主題と第2主題は共に主調で提示される。提示部の反復にあたる部分で初めて独奏楽器が登場し、その際には第1主題は主調、第2主題は属調(主調が短調の場合は平行調)で提示される。ところがベートーヴェンは常識を破り、冒頭を夢見るような弱音のピアノソロで始める。初演に立ち会った聴衆は驚き、耳を澄ませたに違いない。ト長調のピアノソロを受けて、オーケストラが3度上のロ長調で応える柔らかさも幻想的。
  この楽章は第2主題をどこに見るか論が分かれる。哀切と緊張をはらんだイ短調、ホ短調、ロ短調と5度ずつ転調する第29小節か(堀内敬三、門馬直美、藤本一子など)、独奏提示部で初めて現れるニ長調の第119小節か(属啓成など。藤本一子は第3主題、門馬直美は新しい第2主題とする)。筆者は今回、東京芸大大学院の鐵百合奈氏の分析に啓示を受け、上記のどちらでもなく、前奏の結尾近くに定石通りの主調で朗々と提示される第50小節のテーマを第2主題とする。その後、重なり合う第1主題の断片に導かれて再登場したピアノは、流れる水のように奔放に装飾を繰り広げ、ベートーヴェンが即興の名手であったことを感じさせる。弦楽によるニ長調のエピソードは属調にあたるため、あたかも第2主題のように思えるが、すぐにロ短調へゆらめき、5度上へ転調する短調エピソードへ続き、本来の第2主題(第157小節)がフルートとオーボエを主とする管楽によって規定通りのニ長調で提示される。その後、「運命」のテーマと共通する同音連打が第1主題を誘い出し、自在に飛翔する展開部へ繋がる。

  第2楽章 Andante con moto
  ホ短調 2/2拍子。物語の一部分を切り取ったような楽章。オーケストラは弦楽のみ、ピアノは楽章を通じて弱音ペダルを使うよう指示されている。
  拒絶すら感じさせる威厳のある弦楽と、哀愁漂う息の長いピアノの歌が交互に奏される。弦楽が熱を帯びて迫っても、ピアノは静かなまま訥々と訴える。やがて弦楽が語気を和らげると、ピアノは左手で竪琴のような音型を奏でながら雄弁に語り出し、トリルを皮切りに、なだれ込む半音階で堰を切ったように心情を吐露する。思い詰めたものが沈みながらひそやかに竪琴の音に包まれると、受容をほのめかす弦楽が寄り添い、次の楽章へ切れ目なく続く。
 
 第3楽章 Rondo Vivace
  ト長調、2/4拍子。ロンド形式。前の楽章の最後の和音(ミソシ)と構成音を2つ共有するハ長調の主和音(ドミソ)の弦楽によって始まる。冒頭の事実上のハ長調は、第1楽章から、ト長調→ホ短調→ハ長調へ3度ずつ下がるコンセプトとも思われる。ト長調主題は装飾とシンコペーションに彩られたピアノに引き継がれ、展開部はピアノが縦横無尽に華やかさを増す。再現部は管楽が活躍、カデンツァの後テンポを上げ、歓喜に駆け抜ける。
 
   作曲年代 1805-06年
 初  演 1807年3月中旬、ロプコヴィッツ公爵邸にて(非公開)
1808年12月22日、アン・デア・ウィーン劇場にて、ベートーヴェンのピアノ(公開)
 楽器編成
 独奏ピアノ、フルート1、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、トランペット2、ティンパニ、弦五部


ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(1840-1893)
交響曲 第6番 ロ短調 作品74 「悲愴」

  チャイコフスキー自身の指揮による初演の際、「悲愴」という標題はプログラムに記載されておらず、聴衆の反応も新聞の批評も芳しくなかった。初演の2日後、チャイコフスキーは「悲愴」というタイトルを付けて出版するよう指示し、数日後、急死する。葬儀の直後、最後の大作として再演され、その時になって聴衆は、この交響曲にうずまく苦悩と魂の慟哭に打ちのめされ、号泣し、喝采した。この交響曲の背景には、チャイコフスキーの性的マイノリティとしての葛藤、社会情勢の混沌など、多くの苦衷がある。
 
第1楽章 Adagio - Allegro non troppo
  ロ短調、4/4拍子。序奏付きソナタ形式。死の調性とされたロ短調の下属和音、コントラバスの第3音を含まない空虚5度の響きの上で、ファゴットが呻吟する序奏主題を吹く。ヴィオラとチェロが序奏主題と同じ音列による第1主題を提示。序奏の重苦しさに不安と焦燥が加わる。ニ長調の第2主題は確定性に欠け、浮遊する儚さを持つ。弱音器付きの弦楽で奏するため靄がかかり、手の届かなかった幸せを夢想するよう。中間部の管楽器の上行を経て第2主題に回帰、伸びやかに歌われるが、それもクラリネットで沈み込み、ファゴットの最弱奏(pppppp)で消え入る(今回は、通例どおり、バスクラリネットでこの部分を吹きかえる)。突然のffで叩き起され、展開部に入り、管楽器が激しく闘いに駆り立て、そのまま再現部のクライマックスに突入。第2主題はロ長調で再現され、終結部はピッチカートの上で管楽が諦めと達観を漂わす旋律を奏して消える。
 
 第2楽章 Allegro con grazia
  ニ長調、5/4拍子。複合三部形式。2+3拍子によるワルツ。ロシアの民謡の特徴を備えるが、メロディーはチャイコフスキーの創作。優雅ながら虚構と頽廃を感じさせる主題を、装飾、変化を加えながら繰り返し、11回目のテーマの出だしが次の中間部に同化してロ短調になる。中間部も情緒不安なため息音型がしきりに現れる。
 
 第3楽章 Allegro molto vivace
  ト長調。12/8拍子のスケルツォと4/4拍子の行進曲の交代による。タランテラのように急速な弦楽の無窮動から始まる。行進曲の断片がオーボエに現れ、ホルンやトランペットに伝播し、存在感を強める。ホ長調に転調し4/4拍子となり、クラリネットが行進曲テーマの全貌を吹く。ここでも根底に弦楽がタランテラのリズムを刻む。またト長調に戻り、ひそやかにスケルツォが進んでゆくが、再び行進曲のテーマが侵入し、幾重にも反復し響きを増幅させ、ついには行進曲の断片とタランテラのリズムが融合して、弦楽器群と管楽器群のなだれのような応酬で追い込み、勝利の行進曲に到達する。
 第4楽章 Finale. Adagio lamentoso
  ロ短調、3/4拍子。複合三部形式。悲哀を訴える第1主題は、第2ヴァイオリンと第1ヴァイオリンが1音ずつ交互に奏してメロディーをつなげている。オーケストラの配置によっては両翼から響き、会場全体が悲嘆に包まれる。ため息音型を連ねた第2主題はppから始まり惨痛を増して号泣する。チャイコフスキーの死因についてはコレラ、自殺など諸説あるが、筆者は音楽的な理由から自殺と見ている。この楽章の終わり、タムタムが鳴らされた後に、トロンボーンとテューバが厳かなハーモニーを奏でる。これはヨーロッパで葬儀の際に奏でられる数本のトロンボーンによる《エクワーレ》を表すと見ていい。チャイコフスキーはここで自らを埋葬したのである。
 
   作曲年代 1893年2月着手、8月12日(旧暦)完成
 初  演 1893年10月16日(新暦28日)ペテルブルクにて、チャイコフスキーの指揮。
 楽器編成
 フルート3(ピッコロ1持ち替え)、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、
トロンボーン3、テューバ1、ティンパニ、大太鼓、シンバル、タムタム

  
   (C) 梅津 時比古(音楽評論家)(無断転載を禁じる)
 
 
 
 
                                     
 
 
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