大阪交響楽団 2016年度 定期演奏会 曲目解説

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第205回 定期演奏会  10月27日(木)
外山 雄三
有希 マヌエラ・ヤンケ

~ショスタコーヴィチ生誕110年~
 
2016年10月27日(木)19時00分開演
 
ショスタコーヴィチ生誕110年

  ドミトリー・ショスタコーヴィチ(1906-75)の創作は“国民の秘密の日記”と呼ばれる。それは旧ソ連の社会主義体制の内側で生きた人々の「声なき声」を、言葉を越えた音楽によって表現したからである。生誕110年を迎えた今、さまざまな偏見を脱して、あらためて音楽に刻まれたその「声」に耳を傾けてみたい。


ドミトリー・ショスタコーヴィチ(1906-1975)
「前奏曲とスケルツォ」 作品11(弦楽合奏版)


  ショスタコーヴィチが青春時代を過ごした1920年代のレニングラードは、内戦時代の世界的孤立から解放されて西側との文化交流が復活し、西側の作曲家が訪ソして当時の前衛音楽を紹介した。本来、弦楽八重奏のために書かれた《前奏曲とスケルツォ》は、音楽院卒業を間近にひかえたショスタコーヴィチが、急激に前衛的な作風に傾斜し始めた時期の作品であり、卒業作品となった交響曲第1番と同時期の作品とは到底思えない、バルトークの民族主義や新ヴィーン楽派の表現主義を彷彿させる作品である。
 
   作曲年代  1924年12月(前奏曲)、1925年7月(スケルツォ)
 初  演
1927年1月9日、モスクワにて。
グリエール弦楽四重奏団とストラディヴァリ弦楽四重奏団の合同演奏
 楽器編成
 ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ



ドミトリー・ショスタコーヴィチ(1906-1975)
ヴァイオリン協奏曲 第1番 イ短調 作品77


  ショスタコーヴィチがこの作品に着手したのは1947年7月、革命30周年に盛り上がる最中であった。ところが翌年早々、党書記ジダーノフは、昨年発表されたムラデリのオペラ《偉大なる友情》を槍玉にあげ、12年前の《マクベス夫人》における形式主義的誤りが再び繰り返されていると批判、ソ連音楽界の有害分子を告発するよう求めた。戦後の東西対立を背景にした新たな文化・芸術統制の始まりである。激化する形式主義批判のあおりを受け、ショスタコーヴィチは協奏曲の発表を見送ることに決めた。
  7年間も留め置かれたこの作品が復活する機会は、スターリン没後2年目にやってきた。1955年、オイストラフ初のアメリカ・ツアーの目玉演目として、アメリカの興行主が幻の協奏曲を提案し、それに先立ってソ連初演が行われた。いわばスターリン体制末期にお蔵入りとなった作品が、今度は東西の緊張緩和の象徴として復活したわけである。作品全体は、スケルツォや緩徐楽章を擁する4楽章で、交響曲に匹敵する構成をもつ。
  第1楽章「ノクターン」、モデラート、イ短調、4分の4拍子。二つの主題が自由に変形・変容する形式で、終始一貫、ヴァイオリン独奏が暗い叙情にあふれた歌を紡いでゆく。
  第2楽章「スケルツォ」、アレグロ、変ロ短調、8分の3拍子。中間部はユダヤ音楽風の舞曲となり、つづいてスケルツォ主題によるフガートが展開される。
  第3楽章「パッサカリア」、アンダンテ、へ短調、4分の3拍子。ショスタコーヴィチはパッサカリア形式を偏愛したが、中でもこの楽章の清澄な美しさは全創作の白眉である。荘重な主題による9つの変奏が展開されたあと音楽が沈静し、やがて先立つ楽章の主要主題を回想する力強いカデンツァへと移行し、その高揚のまま終楽章に突入する。
  第4楽章「ブルレスケ」、アレグロ・コン・ブリオ、イ長調、4分の2拍子、ロンド形式。チャイコフスキーの協奏曲を彷彿させる土俗的でユーモラスな音楽だが、後半には第3楽章のパッサカリア主題が回帰し、プレストのコーダを熱狂的に終結させる。
 
 作曲年代  1947年7月21日~48年3月24日
 初  演
 1955年10月29日、レニングラードにて。
エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮、レニングラード・フィルハーモニー交響楽団、ダヴィード・オイストラフの独奏
 楽器編成
フルート3(ピッコロ 持ち替え)、オーボエ3(イングリッシュ・ホルン 持ち替え)、クラリネット3(バス・クラリネット 持ち替え)、ファゴット3(コントラファゴット 持ち替え)、ホルン4、テューバ、ティンパニ、シロフォン、タムタム、タンバリン、ハープ2、チェレスタ、弦五部



ドミトリー・ショスタコーヴィチ(1906-1975)
交響曲 第5番 ニ短調 作品47 「革命」


  諷刺と悲劇、実験と通俗を織り交ぜるショスタコーヴィチ初期の自由奔放なスタイルは、1930年代前半の傑作―オペラ《ムツェンスク郡のマクベス夫人》と交響曲第4番で頂点に達する。他方、この頃のソ連国内の文化政策は、多様な主義主張の容認から画一的な社会主義的スタイルの確立へと大きく方向転換し、1936年1月28日、共産党中央機関誌「プラウダ」は、当時成功の絶頂にあった《マクベス夫人》を“音楽ではなく荒唐無稽だ”とこき下ろす。これにより、ソ連の文化芸術が共産党の厳格な管理下に置かれることが明白となった。世界的名声を博していたショスタコーヴィチは格好の標的であった。
  約2年の沈黙の後、ショスタコーヴィチは交響曲第5番を発表。前作とは対照的に、古典的な様式とベートーヴェン風の英雄主義を前面に押し出し、輝かしく楽観的に結ばれるこの作品は、作曲家自身が社会主義に覚醒した証と認められ、社会主義リアリズムの傑作として歴史に名を留めた。しかし彼は、ただ易々と体制に屈してはいなかった。この曲の直前に作曲された歌曲集《プーシキンによる4つのロマンス》の第1曲「復活」が秘かにフィナーレに引用され、交響曲の解釈を覆しかねない重要な鍵となっている。こうして引用と二枚舌を武器としながら、ショスタコーヴィチはスターリン体制との紆余曲折に満ちた創作活動を歩んでいくことになる。
  第1楽章、モデラート-アレグロ・ノン・トロッポ、ニ短調、4分の4拍子、序奏と2つの主題によるソナタ形式。展開部では、威嚇的な行進曲とグロテスクな二重カノンがクライマックスを形成し、第1主題の悲痛な再現を導く。
  第2楽章、アレグレット、イ短調、4分の3拍子、スケルツォ。中間部はマーラーの交響曲によく似たレントラー風のワルツである。
  第3楽章、ラルゴ、嬰ヘ短調、4分の4拍子。荘重な緩徐楽章。エピソード風の部分には、マーラー《大地の歌》やロシア正教聖歌等、死と関連する音楽が秘かに暗示される。
  第4楽章、アレグロ・ノン・トロッポ、ニ短調、4分の4拍子、ソナタ形式。金管群による第1主題は、前述の歌曲「復活」の最初の4音と一致し、中間部最後に現れるハープの清澄なパッセージは同歌曲の結びの引用である。歌詞概要:未開人の画家が天才の絵を汚い筆致で塗りつぶすが、年月と共にその塗料は剥がれ落ち、天才の創造物が以前の美しさを取り戻す…このように想像することで、魂は苦しみから解放され、迷いが消えていく…。
 
 作曲年代 1937年4月18日~9月20日または10月下旬
 初  演
 1937年11月21日。レニングラードにて。
エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮、レニングラード・フィルハーモニー交響楽団
 楽器編成
フルート2、ピッコロ、オーボエ2、クラリネット2、Esクラリネット、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、大太鼓、小太鼓、トライアングル、シンバル、タムタム、グロッケンシュピール、シロフォン、ハープ2、チェレスタ、ピアノ、弦五部


      (C) 千葉 潤(音楽学、ロシア音楽) (無断転載を禁じる)
 
 
 
 
                                     
 
 
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