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第200回 記念定期演奏会   2月24日(水)
児玉 宏

創立35周年記念シリーズ
【軌跡②~息子と父~】
 
 
2016年2月24日(水)19時00分開演
 
●ジークフリート・ワーグナー:交響詩「憧れ」
 
ジークフリート・ワーグナーは、1869年6月6日、スイスのトリープシェンで、リヒャルト・ワーグナーと、その2度目の妻コジマの間に生まれた。もっとも、その2人が正式に結婚できたのは翌1870年8月なのだが・・・・。
とにかく、リヒャルトにとって、ジークフリートは最初の息子だった。彼は1870年12月25日朝、愛妻の誕生日(24日)祝いとして楽劇「ジークフリート」からモティーフを採った小さな管弦楽曲を演奏したが、これに愛息ジークフリートの誕生をも祝す意味を籠めたのは周知の通り。この曲は、最初は「トリープシェン牧歌」と名づけられていたが、のちに「ジークフリート牧歌」と改題されたのであった。
さて、ジークフリートの、指揮者・プロデューサーとしての実力には定評があった。強力な存在だった母の下でバイロイト音楽祭のアシスタントを務め、1896年には「ニーベルングの指環」をモットルやリヒターとともに指揮、1901年には同音楽祭で初めて取り上げられた父の初期のオペラ「さまよえるオランダ人」を演出するなどして、次第に注目を集めていく。そして1908年からは母に代わって音楽祭の総監督を務め、優れた演出家を起用して新しい演出方式を導入し、自ら父の作品を指揮し、外国人指揮者を招聘して演奏に斬新さを求めるなど、バイロイト音楽祭の興隆に力を尽くしたのだった。だが健康を崩し、1930年8月4日、音楽祭開催のさなかにバイロイトで生涯を閉じる。折しも彼が心血を注いだ新プロダクション、「タンホイザー」が、トスカニーニの指揮で圧倒的な成功を収めていた。彼の追悼演奏会ではトスカニーニが「ジークフリート牧歌」を、ムックが「ジークフリートの葬送行進曲」を指揮した。
ジークフリートは、温厚な性格であったため、人望も高かったと伝えられる。20年代からは勃興するヒトラーのナチズムへの対応にも苦慮した。最初のうちは第1次大戦後の混乱のドイツを救うべき力としてのヒトラーに期待し、協力も惜しまなかったようだが、やがてその政治姿勢を警戒し、距離を置きはじめたという。その後のドイツの恐るべき変貌を知ることなく世を去ったのは、彼にとっては幸いだったかもしれない。
一方、作曲家としての彼は、フンパーディンクに作曲を学び、「熊の毛皮を着た男」(1898年作曲)、「星の掟」(1907年)、「異教徒の王」(1914年)など、20本近い数のオペラを作曲、また交響詩「幸福」(1924年)「交響曲ハ長調」(1925年)を含むいくつかの管弦楽曲や声楽曲も書いている。だが残念ながら、生前から彼の作曲家としての力量を評価されることはあまりなかったようである。
今回演奏される「憧れ」は1895年の作曲とされ、ドイツの詩人フリードリヒ・フォン・シラーの詩を題材にした、演奏時間20分ほどの交響詩である。同じ憧れの感情でも、父の「トリスタンとイゾルデ」におけるような上行の動機でなく、下行する旋律形によって始まるのが興味深い。途中に明るい昂揚感はあっても、全体には憂いのある曲想が多い。これらは原詩における、悲しみの谷底に沈みつつ、遠い救いに憧れ、自らの勇気を鼓舞しようとしている感情を描いているがゆえのものであろう。作品の性格は文字通り後期ロマン派的なもので、厚く重々しい響きが特徴的である。
 
 
●リヒャルト・ワーグナー:楽劇「ニーベルングの指環」抜粋(児玉宏編)

◆「ニーベルングの指環」の物語~「呪いの指環」

これは、世界を支配する権力を秘めた黄金の指環をめぐり、天上の神々、地上の巨人と人間、地下の侏儒(こびと)ニーベルングが激烈な争闘を繰り広げる物語━━。
ニーベルング族のアルベリヒはライン河の底から黄金を強奪し、世界を支配できる権力を秘めた指環を作り、一族の王となった。だがその指環を、同じく世界の支配を狙う天上の神々の長ヴォータンが、策略と暴力をもって彼から奪った。アルベリヒは怒りに燃え、指環に「呪い」をかける。指環を持たざる者はそれを奪おうと争い、その持主には呪いによる「死」が訪れよ━━と。
ヴォータンは「呪い」を避けるため、不本意ながら指環を手離し、それを神々の住居ヴァルハル城建設の代償として巨人族に与えたが、世界支配の夢は捨てていない。彼は自ら手を汚さずして指環を奪回すべく、地上に人間の英雄ジークムントを送り出したが、この計画は失敗に終る。幸いにも彼の遺児ジークフリートは逞しく成長し、巨人を斃して指環を手に入れた。ヴォータンの目論見は成功したかに見えた。だが、その英雄もまた呪いの力により、アルベリヒが地上に放った人間の奸雄ハーゲンの手にかかって、あえなく命を落とす。
指環は、地下の邪悪なニーベルング族の手に戻ってしまうのか?
だが、ヴォータンの娘ヴァルキューレの1人で、ジークフリートの妻となっていたブリュンヒルデが全てを救った。彼女は我が身を犠牲にし、指環をもとの清いライン河の底深くに返すのであった。
呪いは消えた。すべての醜い争いは終結する。指環を争った者たちは、ことごとく死んだ(アルベリヒのみ行方知れずになった)。天空のヴァルハル城は炎上し、神々も壮烈な黄昏を迎えていく。
━━これが「ニーベルングの指環」のドラマの内容だが、もちろんこれは、単なるおとぎ話ではない。一種の壮大な寓話であって、強烈な文明批評を含んでおり、権力欲と財産欲、文明と自然との相克、絶えざる世界の争闘、資本の暴力とその魅力、旧い社会と新しい社会の対立、そして争いに対する愛の勝利、といったさまざまな要素が象徴されているのである。今日の演出の多くは、これらの思想に基づいて試みられている。


◆発想から完成まで26年の歳月を要した大作

ワーグナーが最初のスケッチ「ニーベルンゲン神話」を書いたのは1848年のこと。まだ「ローエングリン」の総譜を完成させて間もない頃である。同年まず「ジークフリートの死」(現「神々の黄昏」の原型)を執筆したが、内容が非常に壮大で、とても1作には収まらぬことに気づいた彼は、1851年、それに先立つ物語として「若きジークフリート」(現「ジークフリート」)を書き、さらに1852年にかけてその前史たる「ヴァルキューレ」を、更にその序となる物語「ラインの黄金」を書く。つまり草稿と台本は、現在のこの祝祭劇の物語と逆の順序で書き上げられていったのだった。
物語は、最初はハッピーエンドの筋書であり、ブリュンヒルデはジークフリートともに神々の世界に赴き、神々は滅亡せずに世界を支配する━━という流れだったが、この制作過程の中で、神々の世界が没落するという終結に変更された。これは、彼がショーペンハウアーやフォイエルバッハの哲学に大きな影響を受けたことがその要因とされている。
作曲は物語の順序に従って進められ、まず「ラインの黄金」が1853~54年に、「ヴァルキューレ」が1854~56年に書かれた。次いで「ジークフリート」は、1856年から本格的に作曲が始められたものの、翌57年半ば、第2幕の森の場面のさなかで中断されてしまう。それでもその夏中にとりあえず第2幕最後までの草稿が書き上げられたが、その後長い間、この作品は中途で眠ったままになる。これは彼が、上演のメドの立たない「指環」よりも、「もっと簡単に」上演できそうな「トリスタンとイゾルデ」および「ニュルンベルクのマイスタージンガー」の作曲にかかったためでもある。だが1869年3月、「ジークフリート」の作曲は再開され、1871年2月に完成をみた。そして1874年11月には、「神々の黄昏」が完成されたのであった。
ワーグナー得意の、特定の人物や事象を象徴する主題「ライトモティーフ(示導動機)」活用の手法は、この作品で全面的に開花している。それら「動機」により管弦楽が織り成されるさまは、ワーグナー愛好者たちにとっての魅力のひとつである。作曲期間が長かっただけに、その音楽のスタイルにも、大きな変貌が見られる。特に「ジークフリート」の第2幕中頃からは管弦楽法にも目覚ましい円熟の手法が現われ、各ライトモティーフ(示導動機)の扱い方もいっそう複雑細微になり、動機の組み合わせにより新しい動機が生れるといったケースも生れてきた。「神々の黄昏」の総譜を見れば、無数の動機が交錯していく管弦楽編成の精緻極まる構築には舌を巻かざるを得ない。音楽における気宇の壮大さは卓越しており、サン=サーンスが、「神々の黄昏」の幕切れの瞬間に「指環」の音楽を振り返る時、「あたかもモンブランの頂上からアルプス連峰の威容を見るような思い」と賛嘆したという話も、もっともだと思えるだろう。


◆児玉宏編による「ニーベルングの指環」
(全曲は切れ目なく接続され演奏される)


■序夜「ラインの黄金」
 
【ストーリー主旨】

アルベリヒがラインの黄金から作った指環が、ヴォータンの手に渡り、それが巨人ファーフナーに与えられ、神々が永遠の繁栄を信じつつ、虹の橋を渡って夕陽に輝くヴァルハルに入城して行くまでが描かれる。幕開きのライン河底の場は「生成の動機」と「ライン河の動機」を中心に盛り上がる、壮大なドラマの開始にふさわしい音楽で彩られる。

【音楽】
 
第1場より 
序奏、ラインの河底━━ラインの乙女たちの歌━━アルベリヒが乙女たちを追う━━ラインの黄金が明るく光を放ち始める━━アルベリヒが黄金を強奪する━━河底は暗黒に━━第2場への移行の音楽

第2場より 
天上の神々の世界の場面冒頭の音楽
 

■第1夜「ヴァルキューレ」
 
【ストーリー主旨】

大神ヴォータンが地上に送り出した英雄ジークムントは、生き別れとなっていた妹ジークリンデとめぐり会い、結ばれるが、彼女は粗暴なフンディングに奪われ、妻となっていた身だった。婚姻の女神フリッカの抗議を受け、ヴォータンはやむなくジークムントを見殺しにする。だがヴァルキューレの1人ブリュンヒルデは、父ヴォータンの本心を知り、その命に叛いてジークムントを助けようとし、辛うじてジークリンデを東の森の奥深くへ逃亡させた。ヴォータンはブリュンヒルデを罰するが、愛する娘の願いを聞き入れ、魔の炎で囲んだ岩山に彼女を眠らせる。

【音楽】
 
第1幕より 
ジークムントとジークリンデの愛の二重唱
 
第2幕より 
2人の逃避行━━追手の恐怖に慄くジークリンデ
 
第3幕より 
ヴァルキューレの騎行━━ヴァルキューレたちの逃走と第3場への移行の音楽━━ヴォータンの告別


■第2夜「ジークフリート」
 
【ストーリー主旨】

ジークリンデが森の中で産んだ男子は、恐れを知らぬ英雄ジークフリートとして成長していった。彼はファーフナーを斃して指環を手に入れ、ブリュンヒルデを岩山から救い出して妻とする。ヴォータンは秘かに喜び、アルベリヒの野望を打ち砕くため世界を彼に託し、みずからは後見の立場になることを夢見ていた。

【音楽】
 
第3幕より 
ヴォータンとジークフリートの対決━━ジークフリートはヴォータンの槍を折る━━炎を超え岩山へ向かうジークフリート━━ブリュンヒルデの眠る岩山の頂上

■第3夜「神々の黄昏」
 
【ストーリー主旨】

だが、アルベリヒが地上に送り出した息子、邪悪な豪勇ハーゲンが、隙を衝いてジークフリートを暗殺した。ヴォータンの目論見は無に帰したが、ブリュンヒルデが全てを救済する・・・・。

【音楽】
 
序幕より  
夜明けとジークフリートのラインへの旅
 
第1幕より 
ハーゲンの見張り
 
第2幕より 
ハーゲン、ギービヒ家一族に下知
 
第3幕より 
ハーゲン、ジークフリートを暗殺━━ジークフリートの葬送行進曲━━第3場冒頭の音楽━━ブリュンヒルデの自己犠牲「太い薪をラインの河辺に積み上げよ」━━同「彼は太陽の如く輝き」━━同「鴉たちよ、飛んで行き、主人に伝えよ」━━同「歓喜する炎がお前を誘う」━━終曲 ライン河の氾濫、ライン河に戻る指環、ヴァルハルの炎上と神々の終   
  
 
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