2014年8月23日(土)13時30分/17時00分開演
ザ・シンフォニーホール
≪“真夏のオルガン!”≫
「真夏のオルガン」と題して、サン=サーンスの交響曲第3番をメインに、1976年東京生まれで、現在はアメリカ・ジョージア州のオーガスタ交響楽団の音楽監督を務める、シズオ・Z・クワハラの指揮により、ほかにはベルリオーズの序曲「ローマの謝肉祭」と、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲も演奏された。なおヴァイオリンの独奏には、同じく76年生まれのハンガリーの中堅、シャンドール・ヤボルカイが招かれていた。
今回のハイライトは何といっても、ヤボルカイの弾くチャイコフスキーで、久しぶりに真の意味でのヴィルトゥオーソ・タイプの名人芸を堪能させて貰った。正確で切れ味の鋭いテクニックは勿論だが、彼には19世紀から20世紀へかけての、やや古風な演奏スタイルが身についていて、第2楽章のカンツォネッタなど、しゃくり上げるような独特の表情があり、そのまるで甘えるようなうたわせ方は、現代の若い演奏家からは味わえない、貴重なチャーム・ポイントであろう。彼はヴァイオリンを弾くことに熱中するタイプらしく、アンコールに演奏したエルンストの「庭の千草」変奏曲など、最近のヴァイオリニストは決して採り上げないレパートリーである。つまり特殊奏法のハイライトのような曲を演奏して、聴き手を喜ばせようとする、ヴァイオリン・エンターテイナーなのである。クワハラ指揮の大阪響は、ソロに対してやや生真面目であり過ぎたが、基本をおろそかにしない丁寧な対応が好感を抱かせた。
クワハラの指揮は細部を磨き上げ、誠実この上ないアプローチに特色が感じられるが、ときにはそれが過度に出過ぎる結果、音楽の自然な流れが堰き止められるケースもみられた。特にベルリオーズでは、それが顕著にあらわれていたように思う。
サン=サーンスの交響曲は、目一杯オーケストラを鳴らせながら、それが決して喧噪に感じられなかったのは、クワハラの基本から積み上げて行く丁寧な曲への取り組みと、各セクションに対するバランスのコントロールが、行き届いているから筆者には感じられた。特にチェロ、ヴィオラといった内声部の楽器郡が雄弁で、響きに厚みを加えていたことも特筆される。大阪響のアンサンブルもさらに磨きがかかった感じで、その演奏力の充実ぶりにはいつもながら嘆賞させられる。なおオルガン独奏には、原田仁子が起用されていたが、ソロイスティックに振る舞うこともなく、オーケストラの一員としての立場で、立派に下支えしていたと評価して置きたい。
(8月23日・ザ・シンフォニーホール) (C)出谷 啓