大阪交響楽団 2014年度 定期演奏会 曲目解説

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第192回 定期演奏会   2月18日(水)
児玉 宏
田部 京子

シェイクスピア生誕450年記念
【ヘンリー5世】
≪魅力再発見・ピアノ協奏曲④≫
 
2015年2月18日(水)19時00分開演
 
ウォルトン:組曲「ヘンリー5世」

 20世紀イギリスを代表する作曲家の一人ウィリアム・ウォルトン(1902-1983)は、交響曲をはじめとするオーケストラ作品に非凡な才能を発揮し、ストラヴィンスキーやプロコフィエフら同時代の作曲家からの影響のみならず、ジャズやラテン音楽といった幅広い音楽語法も巧みに採り入れて、万人に愛される明快で情感豊かな作品を残した。最高傑作とされる「ヴィオラ協奏曲」は、深い思索性と誰をも夢中にさせる娯楽性が見事に組み合わされた、古今のヴィオラ協奏曲中屈指の人気曲だ。また、名手ハイフェッツの依頼で作曲された「ヴァイオリン協奏曲」も、透明感溢れるハーモニーと躍動感みなぎる名技性に彩られた名作として広く知られている。

 ジョージ6世のための戴冠行進曲「王冠」や、エリザベス2世のための戴冠行進曲「宝玉と勺杖」の作曲者としても知られるウォルトンは、エドワード・エルガーやベンジャミン・ブリテンと並ぶイギリスの国民的作曲家の地位を得ているわけだが、その理由の一つに、ウォルトンが多くの映画音楽を手がけたことがある。1934年に第一作を手がけて以来、生涯に14作の映画音楽を担当したウォルトンだが、中でもローレンス・オリヴィエ監督・主演による「シェイクスピア3部作」(「ヘンリー5世」「ハムレット」「リチャード3世」)は映画史に残る名作として、広く全世界に知れ渡ることとなった。今回演奏される組曲「ヘンリー5世」は、その「シェイクスピア3部作」第1作から抜粋された音楽である。
 
 映画「ヘンリー5世」はシェイクスピア戯曲初のカラー映画化作品として、第二次世界大戦中の1944年に国威発揚の意図のもと、イギリス政府の援助を得て製作された。15世紀前半の百年戦争末期に登場した若きイギリス王ヘンリー5世が、フランスに攻め込みアジャンクールの戦いに勝利したのち、フランス王女キャサリンとの結婚を果たすまでを描く。ウォルトンのエンターテイメント性豊かな音楽は、各場面の臨場感を生き生きと描き出し、そのサウンド・トラックはミューア・マシーソン指揮ロンドン交響楽団の演奏で録音された。今回演奏されるのは、そのマシーソンが5曲からなる組曲に編曲した版である。

 第1曲「序曲 - グローブ座」は映画の冒頭、1600年のロンドン・グローブ座でのシェイクスピア劇「ヘンリー5世」上演のシーン。賑やかな劇場の熱気を伝える音楽だ。

 第2曲「パッサカリア - フォルスタッフの死」は、繰り返される音型の上に変奏が続くパッサカリアの形式により、フォルスタッフの失意の死を弦の響きで綴る。

 第3曲「戦闘と突撃」は、イギリス軍とフランス軍の戦闘シーン。ウォルトンの躍動感溢れる音楽と巧みな場面描写が光る一曲だ。

 第4曲「やさしき唇に触れて別れなん」は、単独で演奏されることも多い甘美で清楚な美しさをもつ弦楽合奏の曲。

 第5曲「アジャンクールの歌」は、7倍の兵力のフランス軍を相手にイギリス軍が長弓隊を駆使して輝かしい勝利を収めたアジャンクールの戦いのシーン。一気呵成にたたみ掛け、最後は勝利の鐘が打ち鳴らされて終わる。
 
 
 
マルトゥッチ:ピアノ協奏曲 第1番 ニ短調 
 
 ジュゼッペ・マルトゥッチ(1856-1909)はプッチーニと同時代のイタリアの作曲家で、ピアニストや指揮者としても活躍した。ピアニストとしてはナポリ音楽院教授などを歴任し、イタリア音楽界で指導的立場にあった。指揮者としては、ワーグナーの楽劇の紹介に尽力し、1888年に「トリスタンとイゾルデ」のイタリア初演を行ったことで知られる。一方で作曲家としてのマルトゥッチは、このオペラ全盛時代のイタリアには珍しく、オペラを一曲も書かなかった。純音楽の作曲に専心したマルトゥッチの作品は、ドイツ古典派からロマン派のスタイルを踏襲した交響曲、室内楽曲、協奏曲、管弦楽伴奏付き歌曲、そして数多くのピアノ曲で占められている。今日もっともよく演奏されるのは、2曲の交響曲と同じく2曲のピアノ協奏曲だろう。特に「ピアノ協奏曲第2番」は、ロシアの名ピアニスト、アントン・ルビンシュテインがレパートリーに加えていた事で知られ、マーラーも指揮者としてニューヨークで告別演奏会を行った際、この曲を演奏したという。
 
 今回演奏されるのはもう一曲のピアノ協奏曲である「第1番」だが、この作品は1878年マルトゥッチ23歳の時に作曲された「若書き」ながら、ピアニストとしてヨーロッパを股にかけて活躍していた若きヴィルトゥオーゾの面目躍如たるスケールの大きな一曲となっている。マルトゥッチがパリ滞在中に完成されたと伝えられるが、作品は手稿のまま長い間忘れ去られていた。この作品が演奏されるようになったのは近年になってからのことである。
 
 第1楽章アレグロは、憂愁と憧れが交錯するように幾多のメロディが登場する長い序奏のあと、決然とした打鍵で独奏ピアノが登場して始まる。やがて憧れのメロディはピアノにも受け継がれ、ロマンの香りに満ち雄渾な展開を見せる音楽が紡がれていく。
 
 第2楽章アンダンテは、ピアノが連綿と息の長いメロディ奏でる主部と、対照的にピアノがざわめくような活発な音型を奏する中間部による三部形式。
 
 第3楽章アレグロは、緊迫感に満ちたクレッシェンドを伴って突進する主題に、諧謔と幻想で魅了する楽想が挿まれ、きわめて変化に富んだ展開となる。
 
 
グラズノフ:交響曲 第7番 ヘ長調「田園」作品77

 アレクサンドル・グラズノフ(1865-1936)は、ロシア五人組のバラキレフやリムスキー=コルサコフに見いだされ、のちにペテルブルク(レニングラード)音楽院院長の要職を任されて、帝政ロシア末期からソヴィエト連邦への移行期に不動の影響力を持った作曲家だった。14歳のグラズノフがはじめてリムスキー=コルサコフに出会った頃の神童ぶりは、幾多のエピソードによって伝えられている。彼はたった一度だけ聴いた曲を完璧に再現する驚異の音楽的記憶力の持ち主で、その能力は晩年まで衰えることはなかったという。グラズノフが16歳の時に作曲した「交響曲第1番」は、バラキレフの指揮により初演されたが、この頃出会ったベリャーエフ(以後グラズノフの強力な庇護者となる)の尽力よってこの交響曲はワイマールでも演奏され、その際リストに認められることとなった。若き作曲家への賞賛はその後いよいよ高まり、名声は国際的なものとなってゆく。その後音楽院で後進の指導にあたるようになってからは、ショスタコーヴィチら次代を担う作曲家たちに道を拓いたが、若い世代からは保守のシンボルのように見られていたという。
 
 リムスキー=コルサコフらから受け継いだ民族主義的作風と、チャイコフスキーに代表される西欧ロマン主義の作風を融和させ、さらに対位法や変奏技法といった西欧伝統の書法にも精通し(グラズノフは「ロシアのブラームス」と呼ばれることもある)、まさにロシア・アカデミズムの権化と言うべきグラズノフの音楽の魅力がもっとも表れているのは、もちろんオーケストラ曲である。人気が高い作品としては、バレエ音楽「ライモンダ」や名手ハイフェッツが愛奏した「ヴァイオリン協奏曲」などが挙げられるが、自身指揮者としても活躍し、数多くのオーケストラ曲がある。そして生涯に9曲(「第9番」は未完)の交響曲を手がけたが、それぞれに個性的なモティーフをもとに作曲されている。「スラブ風」の副題をもつ「第1番」、リストの死を悼んで作曲された「第2番」、チャイコフスキーに献呈された「第3番」、ロシア的情緒と重厚な曲想が見事な「第4番」、「ワグネリアン」の異名をとる「第5番」、ドラマティックな傑作「第6番」などが並ぶ中、今回演奏される「第7番」は「田園」の副題をもち、グラズノフの交響曲の最高傑作と称されることもある一曲だ。 
 
 1902年グラズノフ37歳の時に完成されたこの交響曲は、ベリャーエフに献呈され、グラズノフ自身の指揮で初演された。副題は他ならぬベートーヴェンの「田園交響曲」を意識したもので、特に第1楽章にベートーヴェンの音楽的モティーフの片鱗を聴くことができる。「ロシアのブラームス」の面目躍如たる作品であり、ロマンティックな旋律美と対位法の緻密な造形、そしてリムスキー=コルサコフゆずりの色彩的なオーケストレーションにより、ロシアの自然賛歌ともいうべき音楽が歌い上げられてゆく。
 
 第1楽章アレグロ・モデラートは、木管に「田園」のモティーフがこだまして始まる。
 
 第2楽章アンダンテは、金管のコラールに始まり、宗教的ともいえる厳粛な恍惚に満たされた緩徐楽章。
 
 第3楽章スケルツォ:アレグロ・ジョコーソは、ロシアの農村の祭りで繰り広げられる陽気な踊りを思わせる。
 
 第4楽章フィナーレ:アレグロ・マエストーソは、ロシア聖歌風の重々しい主題に始まり、前の3つの楽章に登場した主題を様々に絡めながら、多彩なオーケストレーションで祝祭的な気分を盛り上げてゆく。


             柿沼 唯(作曲家) (無断転載を禁じる)

           
 
 
 
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