大阪交響楽団 2014年度 定期演奏会 曲目解説

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第191回 定期演奏会   1月16日(金)
三ツ橋 敬子
エンリコ・カリーニ
クラウディオ・カヴァッリーニ

シェイクスピア生誕450年記念
【ファルスタッフ】
≪世界初演!ティンパニ協奏曲≫
 
2015年1月16日(金)19時00分開演
 
 ウィリアム・シェイクスピア(1564~1616)が生み出した人物達の中で、フォールスタッフ(ファルスタッフ)はハムレット、マクベス、オセローと並び、もっとも作曲家たちにインスピレイションを与えてきた。管見の限りでもサリエーリ(1750~1825)、ニコライ、ヴェルディ(1813~1901)、エルガー、ヴォーンウィリアムズ(1872~1958)、ウォルトン(1902~83)らがフォールスタッフを題材に作品を書いている。
 サー・ジョン・フォールスタッフは「好色・貪欲で飲んだくれだが、どこか憎めない陽気で太った老いぼれ騎士」。しかし、これは喜劇『ウィンザーの陽気な女房たち』(1602)に基づく人物像であり、フォールスタッフの一面に過ぎない。この人物が初めて登場するのは『ウィンザーの陽気な女房たち』に先立つ史劇『ヘンリー4世』(1596/97)と『ヘンリー5世』(1599)である。そこで描かれるのはたんなる不良老いぼれ騎士ではない。青雲の志を抱いて人生を始めながらも自らの弱さで堕落し、飲酒と悪行から脱け出せなくなり、老いらくの恋に身悶え、挙句の果ては息子のような存在のハル王子に見捨てられて失意のうちに世を去る悲劇的人物である。
 サリエーリ、ニコライ、ヴェルディ、ヴォーンウィリアムズの歌劇がフォールスタッフの陽気で喜劇的な面を描いたものとすれば、エルガーの交響的習作(および第192回定期で演奏されるウォルトンの《ヘンリー5世組曲》)は明らかに暗鬱な悲劇的な面に焦点を当てている。ここにはモーツァルトの《ドン・ジョヴァンニ》に登場する「女漁りに精を出す遊蕩児」と、リヒャルト・シュトラウスの交響詩《ドン・ファン》の「理想の女性を追い求めながらもめぐりあえず、命を絶つ理想主義者」の対比に通じるものがある。
 
ニコライ:歌劇「ウィンザーの陽気な女房たち」序曲
 
 1842年にウィーン・フィルハーモニー管弦楽団を創立したオットー・ニコライ(1810~49)は中期ロマン派を代表する作曲家の一人であり、その生涯はショパン、シューマン、メンデルスゾーンとほぼ重なる。東プロイセンのケーニヒスベルク出身で、ローマやウィーンでの活動を経て、ベルリンで亡くなった。39年の生涯で200曲以上の作品を残し、ニコライが辞退したオペラ《ナブッコ》の作曲を引き受けたのがヴェルディであったというエピソードが残されている。
 歌劇《ウィンザーの陽気な女房たち》は同名の喜劇に基づき、初演以来ドイツ語圏では人気が高い。序曲は序奏の付いたソナタ形式。冒頭の静謐な旋律はフォールスタッフが鹿に変装して登場するウィンザーの森の夜の場面から取られている。主部はアレグロ・ヴィヴァーチェとなり、トゥッティの賑やかな音楽は魑魅魍魎や昆虫に化けた人々が、フォールスタッフを追いかけまわす場面から取られている。
 
初演:1847年4月1日ウィーン、作曲者指揮ウィーンフィル(序曲および抜粋)。1849年3月9日、作曲者指揮ベルリン王立歌劇場(全曲)。

楽器編成:フルート2(2ndフルートはピッコロ持ち替え)、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、打楽器2、弦5部。
 
  等松 春夫(防衛大学校教授/英国エルガー協会会員)(無断転載を禁じる)


 
 
 
カヴァッリーニ :ティンパニ協奏曲 作品22(世界初演)
 
 ティンパニのための協奏曲を書こうという構想は、私の音楽院時代に生まれました。当時、ティンパニのために書かれた作品の少なさを感じていた私は、それならば自分で書いてみようという考えに至り、ティンパニのための作品を新たに書くことを決意しました。
 作品を書くにあたり、まず私は楽器の構成から始めましたが、ヴァイオリンとヴィオラを使うのではなく、木管楽器と金管楽器のパートを中心に構成し、(第一・第二)チェロ、コントラバス、ハープ、そして打楽器をそこに加えようと当初から決めていました。
 それから、ソロ・パートとそこに関わるオーケストラ・パートの草稿に着手したのですが、その際にティンパニ奏法上の技巧を極限まで追求しながらも、この楽器の響きを最大限に活かせるように努めました。
 このように《ティンパニ協奏曲》の作曲を進めていった私は、1995年に最初の版を完成させました。その後、パーカッション奏者としての活動や他の作品の作曲に専念していた私自身もこの作品の存在をほぼ忘れてしまっていた状態だったこともあり、数年の間、この初版の手稿譜は親しい間柄の人たちの目に触れるに留まっていました。
 それから17年を経た2011年、《パーカッションとオーケストラのための協奏曲》を作曲したのをきっかけに、《ティンパニ協奏曲》のスコアに再び目を留めた私は、この作品に含まれている興味深い部分を再発見し、いまだ初演されていなかったこの協奏曲に手を加えたいという欲求に駆られました。
 改作に取り掛かることを決めた私は、まず楽器の構成作業に着手しました。作品に用いる木管楽器と金管楽器の数はそのまま保ち、ハープと打楽器にも同じように手を加えませんでした。その一方で、弦楽器のパートには(第一・第二)ヴィオラを新たに加えることでよりボリュームのあるものにしようと考えましたが、(今日お聴きいただく)ソロ・ティンパニのパートは初版のままです。
 第一楽章では、ティンパニが第一主題を提示しながらオーケストラと対話をして行きますが、そこでは伝統的な技巧が用いられています。次に第二楽章では、おおむね主題のラインは保たれてはいるものの、その音色がより広がりを持ったものとなるように構想されています。続く第三楽章は、ストラヴィンスキーの≪春の祭典≫からの「借用」でスタートしますが、そこではリズムのエッセンスによって先祖伝来の大地や魂からみなぎる真の力が創り出されています。サンバのリズムで幕を開ける最終部では、従来の楽器の奏法と異なる奏法(胴や枠を叩いたり、リム・ショットなど)を活用しながらカデンツァへと向かい、そして楽曲が締めくくられます。
 
 
楽器編成:フルート3(3rdフルートはピッコロ持ち替え)、オーボエ2、イングリッシュホルン1、クラリネット2、バスクラリネット1、ファゴット2、コントラファゴット1、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ1、打楽器2、ハープ1、弦5部

                                クラウディオ・カヴァッリーニ(無断転載を禁じる)

 
 
クラウディオ・カヴァッリーニ  Claudio Cavallini
 
1970年、イタリアのレッジョ・エミーリア生まれ。パルマ音楽院の器楽科(パーカッション・ティンパニ専攻)をステーファノ・カンタレッリの指導のもと、最高の成績で修了。パーカッションと並行し、作曲とピアノも学んでいる。作曲家としては、ソロの器楽曲、室内楽曲、交響曲など、87の作品を作曲しており、劇場作品には、《ここに戻ってくること》、《受難劇》、《これまで誰も語ったことのない大地のようなおまえ》、《アメリア・ロッセッリのための音楽》、《発展》の5作品がある。異なるジャンルや形式を融合させ、音の響きや音色を豊かにすべく、時には伝統的な楽器と電子楽器を組み合わせつつ音色を深める試みも精力的に行なっている。また、彼の主要作品には、ストラヴィンスキーやガーシュウィンの近代的なリズムやハーモニーの要素が時おり盛り込まれている。2005年、パーカッション、マリンバ、シロフォンによるソロCDをリリース。2008年には、自らが台本も執筆した子どものためのオペラ《偉大な宝》を作曲している。初演された作品のうち、七重奏曲《ガーラタの塔の上で》、弦楽四重奏とパーカッションのための《ジョーキング・ダンス》、4本のトロンボーンのための《プレリュード》、五重奏曲《夕暮れの光》、ヴァイオリンとチェロとピアノのための《トリオ》、ヴァイオリンとヴィオラとチェロのための《三重奏組曲》、クラリネットとピアノのための《アストゥリアス・パラフレーズ》、チェロとチェンバロのための《ソナチネ》などが特筆に値する。1996年にパーカッション・トリオ「エトノス」を結成。98年から2001年までの間、イタリア国営放送交響楽団の打楽器奏者を務め、3枚のCD録音にも参加した。現在、ヴェネツィアのフェニーチェ劇場オーケストラに所属している。
 
 
 
エルガー:交響的習作「ファルスタッフ」作品68
 
 エドワード・エルガー(1857~1934)は正規の音楽教育を受けず独学でキャリアを築いてきた「自成の人」(self-made man)である。非常な読書家で主要作品の科白を暗唱できるほどの熱烈なシェイクスピア愛好者でもあった。因みに有名な行進曲《威風堂々》(Pomp and Circumstance)のタイトルも『オセロー』に由来する。エルガーのフォールスタッフへの関心は早くも1901年頃に見られる。《フロワサール》《コケイン》《南国にて》のような演奏会用序曲を構想していたようだが、この時は実らなかった。フォールスタッフの音楽化は、9年後の1913年にリーズ音楽祭からの委嘱作品という形で現実化する。しかし、それは演奏会用序曲とは異なる遥かに複雑な作品となった。
 作曲にあたりエルガーは『ヘンリー4世』『ヘンリー5世』『ウィンザーの陽気な女房たち』はもとより、大量のシェイクスピア研究書を読破した。中でも最も参考にしたのが文人政治家モーリス・モーガン(1725~1802)の著書『サー・ ジョン・フォールスタッフの演劇的性格に関する考察』(1777)である。同書はフォールスタッフを「悪意を持たない悪漢、偽らない虚言者、威厳も品位も名誉もない騎士、紳士、戦士」という、矛盾と葛藤に満ちた人物と分析している。
 作品の実態は交響詩であり、リスト(1811~86)の交響詩や、交友のあったリヒャルト・シュトラウス(1964~1949)の《ドン・ファン》や《ドン・キホーテ》の影響が明らかである。しかし、「交響詩」ではなく「交響的習作」(symphonic study)という名称を付けた事には、作曲を通してエルガーがフォールスタッフを多角的に「学んだ」(study)という謙遜の意味が込められている。
 エルガーが執筆した作品解説に基づくと《フォールスタッフ》は4部分から成り、第2部と第3部の間、第3部の中間部にそれぞれ間奏曲が置かれている。第1部は短い提示部、第2~3部がスケルツォを含む展開部、2つの間奏曲が緩徐楽章的な部分、第4部が長めのコーダ、という大まかな構成と見ることもできる。
 第1部〈フォールスタッフとハル王子〉。大股で歩くような、チェロとバスクラリネットとファゴットが特徴的な下降する主題はフォールスタッフの尊大な性格を表している。対するハル王子の主題は快活な行進曲風である。以後これらの主題が自由自在に変形されながら曲は進んでいく。
 第2部〈イーストチープ~ガズヒル~猪首亭~間奏曲Ⅰ〉。イーストチープの猪首亭はフォールスタッフが根城にする居酒屋で、ゆっくりと上向する主題はテーブルにふんぞり返るフォールスタッフを描く。フォールスタッフと手下どもは輸送中の金塊を強奪するが、ハル王子の一党に出し抜かれて獲物を掠め取られてしまう。踏んだり蹴ったりのフォールスタッフは酒で憂さを晴らす。酔いつぶれて呂律が回らない様子がファゴットの独奏で表現される。〈間奏曲Ⅰ:夢。若き日のフォールスタッフ〉ではハープとたゆたうような弦楽が眠りを誘う。まどろむフォールスタッフはノーフォーク公の小姓を務めていた紅顔の美少年だった頃を思い出す。思えばあの頃、未来は希望に輝いていた…。
 第3部〈フォールスタッフの行進~グロースターシャーを通っての帰還~間奏曲Ⅱ~新しい国王~ロンドンへの急ぎの帰京〉。フォールスタッフの主題が戻り、小太鼓や金管のファンファーレが内戦の兆しを告げる。フォールスタッフは手勢を集め「いざ鎌倉」…といえば聞えは良いが、怪しげな風体の一団の行進である。〈間奏曲Ⅱ:シャロウのブドウ畑〉ではブドウ畑で休息するフォールスタッフが祝賀の踊りを夢に見る。木管と打楽器が伝統的な「パイプとタボール」の舞踏音楽を巧みに模す。ヘンリー4世が崩御し、ハル王子が国王に即位することを知ったフォールスタッフは、「放蕩の弟子」からの引き立てを期待して戴冠式の行われるウェストミンスター寺院へと急行する。
 第4部〈ヘンリー5世の行進~フォールスタッフの拒絶とその死〉。ヘンリー5世となったハル王子と軍勢が威風堂々と近づいて来る。期待に胸を膨らませて国王の前にかしずくフォールスタッフ。しかし、あにはからんや、返ってきたのは新国王の冷たい拒絶であった。衝撃のあまり寝込んでしまうフォールスタッフ。〈間奏曲Ⅰ〉が束の間回想されるが、《ゲロンティアスの夢》の一節を思わせる荘重な和声が挿入され、老騎士の死を示す。エルガーのオラトリオ《ゲロンティアスの夢》では主人公が亡くなり、天使に導かれて煉獄に至る。音を抑えた小太鼓の連打が葬送を示唆し、蝋燭が吹き消されるように全曲は結ばれる。
 1913年に初演された交響的習作《フォールスタッフ》は本格的な管弦楽曲としてはエルガーの最後の作品となった。第1次世界大戦中から戦争直後にかけて一連の室内楽作品や《チェロ協奏曲》が書かれたが、《交響曲第3番》はついに完成されなかった。そして1920年代を通じてエルガーは徐々に世間から「過去の人」とみなされるようになっていく。《フォールスタッフ》の巧みなオーケストレーションの底に流れるペシミズムには、無調音楽やジャズ隆盛の前に、自分の音楽が世間から見捨てられる予感が込められていたのかもしれない。なお、最晩年の1931~32年にエルガー自身がロンドン交響楽団を指揮してアビーロード・スタジオで行った録音が残されている。
 
楽器編成:フルート2、ピッコロ1、オーボエ2、イングリッシュホルン1、クラリネット2、バスクラリネット1、ファゴット2、コントラファゴット1、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ1、ティンパニ、ティンパニを除く打楽器は6種類(奏者は4名)、ハープ2、弦5部。
 
  等松 春夫(防衛大学校教授/英国エルガー協会会員)(無断転載を禁じる)


 
 
 

 

 

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